タイトルの獲得は、もっとも分かりやすい「一流の証明」の1つだろう。今季も最優秀防御率と最多勝の2冠に輝いた菊池投手(埼玉西武)、本塁打王を獲得したデスパイネ選手(福岡ソフトバンク)などが初めてタイトルホルダーとなり、その突出した実力に対する敬意を目に見える形で受け取った。しかし、その一方で、わずか数年前にその栄冠を手にしながら、今季は苦しいシーズンを過ごした選手たちがいる。そこでここでは、再起を目指すかつてのタイトルホルダーを紹介していきたい。
・本多選手(福岡ソフトバンク)
タイトル:ベストナイン(11)ゴールデングラブ(11、12)盗塁王(10、11)
「セカンド・本多雄一」。福岡のファンにとっては、きっと聞き慣れたアナウンスだろう。プロ2年目の2007年にレギュラーに定着し、以降2013年まで7年連続で規定打席に到達。絶対的な正二塁手として君臨した。2010年に59盗塁で自身初の盗塁王。翌年、パ・リーグでは1997年の松井稼選手以来となる60盗塁をマークして2年連続の盗塁王を獲得するとともに、リーグ5位の打率.305。攻守を備えた韋駄天として球界にその名を轟かせた。
2014年まで8年連続で2桁盗塁を記録。しかし以降は怪我に悩まされるシーズンが続き、2015年は自己最少の61試合の出場にとどまる。今季は開幕スタメンに名を連ねるものの、5月までで打率.189、盗塁はわずか2つと、極度の不振に陥ってしまう。ポジション争いに敗れる形となり、6月に登録を抹消されると約3カ月間にわたって出番をつかむことができなかった。結局62試合の出場に終わり、26安打0本塁打8打点3盗塁、打率.213。
本多選手はあと13盗塁で、過去18人しか達成していない350盗塁に到達する。「ポン」という愛称で、ファンから支持を集め続けるスピードスター。選手層の厚さが強みのチームであるだけに、内野のポジション争いはますます熾烈を極めることが予想されるが、またあの華麗な走塁を少しでも多く見せてほしい。
・岡田選手(千葉ロッテ)
タイトル:ゴールデングラブ(11、12)
育成ドラフトの6位指名。そんな経歴を忘れさせるほど、岡田選手の活躍はファンにインパクトを与える。ヒット性の当たりに向かって颯爽と走り出すと、最短距離で落下点に到達。背番号「66」になぞらえて、いつからか「エリア66」と称されるようになった鉄壁の外野守備で、輝かしいキャリアを築いてきた。
アマチュア時代の大怪我や育成契約など多くの紆余曲折を経験して、2009年に支配下選手契約を勝ち取る。2年目の2010年、日本シリーズ最終戦では中日の浅尾投手から決勝打を放ち、「史上最大の下克上」と呼ばれるシーズン3位からの日本一に大きく貢献した。翌年、育成出身選手としては史上初となるシーズン全試合出場を果たす。選手会長も務めるなど、長く中心選手としてグラウンド内外でチームをけん引した。
しかし今季は、開幕から40打席無安打と深刻な打撃不振に陥り、シーズン無安打でプロ9年目を終えてしまう。ただその守備・走塁技術は、必ずや井口監督率いる新生・千葉ロッテの力になるはず。幕張を駆け抜ける「エリア66」の帰還を、誰もが待ち望んでいる。
・佐藤達投手(オリックス)
タイトル:最優秀中継ぎ(13、14)
マウンドに上がると、半袖のユニフォームをさらにまくり上げ、打者に突っ込みそうなほどの気迫あふれるフォームから剛速球を投げ込む。オリックスの8回の守りに絶対的な安心感を与えてきたのが、今季6年目を迎えた佐藤達投手だ。
プロ2年目の2013年には早くもリーグ2位となる67試合に登板。守護神・平野投手へとつなぐ8回を任されるようになり、40ホールドを挙げて見事に最優秀中継ぎのタイトルに輝く。翌年も同様に67試合に登板して防御率1.09。抜群の安定感で42ホールドを記録し、2年連続のタイトルを獲得するとともに、チームの6年ぶりとなるクライマックスシリーズ進出に大きく貢献した。
3年目にしてセットアッパーとしての地位を確立した佐藤達投手だったが、2015年以降は一転、苦しいシーズンが続く。腰痛に苦しみ59試合、防御率3.22と成績を落とすと、昨季は43試合の登板にとどまり、防御率も自己ワーストの5点台に終わってしまう。そして、復活を期して臨んだ今季は開幕一軍に入ったものの、初登板となった4月1日の楽天戦で1回1/3を投げて5失点。7月上旬まで8試合に登板し、防御率は10.80まで悪化した。
しかし、来季に向けた明るい材料は多い。7月9日に登録を抹消され、ファームでの調整を経て再び一軍に合流すると、4試合に投げていずれも無失点。好調の要因としては、数字に表れた「スタイルチェンジ」が挙げられる。10月の再昇格前までは、8回1/3を投げて10奪三振。しかし、再昇格後の4イニングスで奪った三振はわずか2つ。そして実際にそのスタイルチェンジの効果は、4試合連続無失点という結果として表れている。
平野投手が海外FA権を行使し、メジャー・リーグへの挑戦を表明。オリックスの中継ぎ陣には、新たな「柱」が必要だ。今季はルーキーの黒木投手や2年目の近藤投手がブルペンを支えたが、まだ若く先輩の薫陶を必要とする2人であり、経験豊富な佐藤達投手の復活は何よりの力になるはず。腕をまくるパフォーマンスが勝ちを告げる儀式となるように、来季の佐藤達投手に期待したい。
今回紹介した選手の他にも、長谷川勇選手(福岡ソフトバンク)、中村選手(埼玉西武)のように、今季悔しいシーズンを過ごしたタイトルホルダーたちはまだまだいる。多くが円熟期を迎えようとするベテランだ。かつて栄冠を手にした誇りと確かな実力を兼ね備えた彼らが、来季どのような活躍を見せてくれるか。期待とともに見守っていきたい。
記事提供: