アワード表彰者だけじゃない。新人王を逃した恐るべきルーキーたち

パ・リーグ インサイト 藤原彬

2017.11.21(火) 00:00

大河ドラマの戦国武将の言を借りるなら、「王は二人もいらない」ということか。1950年に制定されたプロ野球新人王投票において、パ・セ両リーグで複数人が選出されたことはかつてない。今季はパ・リーグから源田壮亮選手(埼玉西武)、セ・リーグからは京田陽太選手(中日)が選ばれたが、山岡泰輔投手(オリックス)や濱口遥大投手(横浜DeNA)のように、表彰台には立たずとも堂々たる成績を残した新人がいる。そこで、過去20年の候補選手を振り返り、新人王を逃しながらも受賞に値するだけの成績を残したルーキーを紹介したい。

※所属は当時で、〇数字は新人王投票順位、-は得票なし

■1997年
【セ・リーグ】
②川村丈夫氏(横浜) 先発投手 26試合 10勝7敗 151.2回 防御率3.32 与四球率2.91 奪三振率8.72

新人王を受賞した澤崎俊和氏(広島)は防御率3.74、与四球率2.71、奪三振率6.10で、投球内容は次点の川村氏に軍配が上がる。だが、投球回数はほぼ同じでも、澤崎氏は21先発に加えて17試合に救援登板し、12勝8敗。実際の投票数は148対28と大差がついた。

■1998年
【セ・リーグ】
②高橋由伸氏(巨人) 外野手 126試合 140安打 19本塁打 75打点 3盗塁 打率.300 長打率.496 出塁率.356
③坪井智哉氏(阪神) 外野手 123試合 135安打 2本塁打 21打点 7盗塁 打率.327 長打率.414 出塁率.383
④小林幹英氏(広島) 救援投手 54試合 18S 81.2回 防御率2.87 与四球率3.97 奪三振率11.57

稀に見るルーキー豊作イヤーの新人王レースを制したのは、14勝を挙げて、リーグ2位の防御率2.57を記録した川上憲伸氏(中日)だった。高橋氏は東京六大学時代の好敵手である川上氏に22打数1安打(唯一の安打は本塁打)に抑えられたが、新人としては史上7人目となる打率3割をクリアし、守ってもリーグの外野手で最多タイとなる12補殺を記録してゴールデングラブ賞を受賞と攻守に活躍。坪井氏は2リーグ制以降で新人史上最高打率.327を残している。小林氏は最長で4回を救援するなど26試合がイニングまたぎのタフネスで、奪三振率11.57は、この年のリーグMVPに輝く佐々木主浩氏(12.54)に匹敵する水準だった。

■1999年
【パ・リーグ】
②川越英隆氏(オリックス) 先発投手 26試合 11勝8敗 177回 防御率2.85 与四球率2.39 奪三振率6.81

高卒でリーグ最多の16勝を挙げた松坂大輔投手(西武)はインパクトの面を含めて史上でも有数のルーキーであり、ほぼ満票で新人王を手中に収めたのは当然の結果と言える。だが、社会人野球を経た川越氏は、松坂投手を上回る8完投を記録し、9回あたりの四球数では約2個も少ない成熟した投球スタイルで、即戦力の期待に応える結果を残した。

【セ・リーグ】
②岩瀬仁紀投手(中日) 救援投手 65試合 1S 74.1回 防御率1.57 与四球率2.66 奪三振率8.84
③福留孝介選手(中日) 内野手 132試合 打率.284 16本塁打 52打点 131安打 4盗塁 長打率.451 出塁率.359
-二岡智宏選手(巨人) 内野手 126試合 打率.289 18本塁打 51打点 121安打 8盗塁 長打率.452 出塁率.342

勝利、防御率、奪三振、勝率の投手四冠に輝いた上原浩治投手(巨人)以外に選択肢は残されていなかったように思えたが、わずかながら得票を得た2人も、並の年であれば新人王を受賞するに相当する好成績だった。岩瀬投手は一軍デビューを果たした4月2日の広島戦でひとつのアウトも取れずに降板したが、そこから信頼を勝ち取り、強固なブルペンで立場を築いてリリーフながら2ケタ勝利をマーク。福留選手も121三振を喫しながら、打線の1~3番を務め上げるだけの打力でチームのリーグ優勝に貢献した。同じ遊撃手の二岡選手は、チームメイトの上原投手が投げた試合で打率.326、6本塁打の援護。

■2000年
【セ・リーグ】
②高橋尚成氏(巨人) 先発投手 24試合 9勝6敗 135.2回 防御率3.18 与四球率2.39 奪三振率6.77
③木塚敦志氏(横浜) 救援投手 46試合 18S 62.1回 防御率2.89 与四球率1.88 奪三振率10.54

開幕からの6戦で5つの白星を稼いだ高橋氏と、夏場にはクローザーに定着した木塚氏。社会人と大学からプロの世界へ飛び込んだ2人が順調に足場を固めるなか、彗星のように現れたのが金城龍彦氏(横浜)だった。4月こそ4試合の出場に終わったが、シーズン半ばまで4割前後の打率を維持し、首位打者を獲得する。新人王争いでは逆転を許したが、高橋氏は老獪な投球で、木塚氏は気迫を前面に押し出して、それぞれチームの主力選手へと成長していく。

■2002年
【セ・リーグ】
②吉見祐治氏(横浜) 先発投手 27試合 11勝8敗 188回 防御率3.64 与四球率2.25 奪三振率6.61

新人王受賞者の石川雅規投手(ヤクルト)と次点の吉見氏はともに軟投派だが、多彩な変化球を操るのが前者で、典型的なカーブボール・ピッチャーが後者と、その投球スタイルは異なっていた。2人の奪三振率はリーグ平均を下回るも、制球力はルーキー離れしていて、特に石川投手の与四球率1.46は両リーグ3位。吉見氏は9月20日の中日戦で11イニングスを投げるなど5完投を記録したが、早期の降板もあり、やや波があった。プロ1年目と2年目の立場の違いも161対37の得票差に影響したものと思われる。

■2003年
【パ・リーグ】
-新垣渚氏(福岡ダイエー) 先発投手 18試合 8勝7敗 121.1回 防御率3.34 与四球率2.23 奪三振率9.79

前年のドラフト自由獲得枠で福岡ダイエーに入団した同い年の2人が新人離れの活躍を見せた。新垣氏は足を痛めて8月上旬にシーズン終了となったが、14勝を挙げて新人王を獲得する和田毅投手(防御率3.38、与四球率2.90、奪三振率9.29)と五分以上の投球内容だった。

【セ・リーグ】
②永川勝浩投手(広島) 救援投手 40試合 25S 41.2回 防御率3.89 与四球率3.46 奪三振率10.80
③村田修一選手(横浜) 二塁手 104試合 打率.224 25本塁打 56打点 74安打 3盗塁 長打率.485 出塁率.303

“松坂世代”が百花繚乱。永川投手は開幕直後からクローザーを任され、代名詞のフォークで三振を奪いながら25セーブをマークした。村田選手は三振が多く、打率は低かったが、25本塁打のうち約半分の12本がセンターから逆方向と研磨された技術とパワーを見せつけている。新人王には10勝、7完投を記録した木佐貫洋氏(巨人)が選ばれた。

■2004年
【セ・リーグ】
②大竹寛投手(広島) 先発/救援投手 43試合 17S 82回 防御率3.18 与四球率4.39 奪三振率9.99

大竹投手は春先に5先発して2勝2敗、6イニングス以上を投げた4試合はいずれも3自責点以内で、4月21日のヤクルト戦では完投勝利を飾るなど好スタートを切った。その後に転向した救援でも38試合で防御率2.92と、チームのブルペンでは一番の安定感だったが、新人王投票では2ケタ勝利に到達した川島亮氏(ヤクルト)に大差をつけられている。

■2005年
【パ・リーグ】
②中村剛也選手(西武) 三塁手 80試合 62安打 22本塁打 57打点 0盗塁 打率.262 長打率.603 出塁率.320

一軍に定着した中村選手が放った62安打のうち半分が長打と、規格外のパワーが実戦で花開いたシーズンだった。規定打席には届かなかったが、長打率.603は36本塁打をマークしたチームメイトのカブレラ氏(.606)とほぼ同水準。22歳以下でシーズン長打率6割に到達したのは、過去に中西太氏(西鉄)、掛布雅之氏(阪神)、松井秀喜氏(巨人)の3人だけだ。試合数の少なさを補って余りあるインパクトは残したが、同じく規定不足で10勝を挙げた久保康友投手(千葉ロッテ)に新人王を譲っている。

■2006年
【パ・リーグ】
②平野佳寿投手(オリックス) 先発投手 26試合 7勝11敗 172.1回 防御率3.81 与四球率2.03 奪三振率5.48

平野投手は一軍デビューとなる3月26日の西武戦に救援登板すると、2球を投じただけで降板となったが、2試合目で先発白星、3試合目には完封勝利を飾る。ともにリーグ2位の10完投、4完封を記録したが、6月中旬からは勝ち星を1つ加えたのみ。12勝8敗の八木智哉投手(北海道日本ハム)がほぼ満票で新人王を受賞した。

【セ・リーグ】
②吉村裕基選手(横浜) 外野手 111試合 123安打 26本塁打 66打点 5盗塁 打率.311 長打率.573 出塁率.336

26本塁打を放った吉村選手の長打率.573は400打席以上の打者でリーグ4位、パ・リーグベストの小笠原道大選手(北海道日本ハム)と同率という高水準だった。本塁打率15.23は、1986年に新人史上最多タイとなる31本塁打を放った清原和博氏(西武)の15.19とほぼ同じ。ただ、この年はプロ1年目でショートの定位置を獲得した梵選手(広島)が打率.289、13盗塁と走攻守でそつなく活躍して新人王を手にしている。

■2007年
【パ・リーグ】
②岸孝之投手(西武) 先発投手 24試合 11勝7敗 156.1回 防御率3.40 与四球率3.17 奪三振率8.17

岸投手は即戦力ルーキーとして申し分ない成績を残したが、甲子園を沸かせたゴールデンルーキーのプロ1年目はそれ以上だった。勝敗数は同じ数字が並んだが、田中将大投手(楽天)はイニング数で30回、奪三振は54個も多い。大卒、高卒で印象度に違いも与えたか、田中投手が大差で新人王に輝いた。

■2008年
【セ・リーグ】
⑤吉見一起投手(中日) 先発/救援投手 35試合 10勝3敗 114.1回 防御率3.23 与四球率1.97 奪三振率6.45
-越智大祐氏(巨人) 救援投手 68試合 0S 13HP 71.1回 防御率2.40 与四球率3.66 奪三振率12.74

吉見投手はリリーフとしてシーズン初登板を果たすと、直後2試合は先発で連続完封勝利。その後も負けなしで白星を積み上げたが、5月下旬からブルペンへ配置転換する。7月中旬の先発再転向後は故障もあって満身創痍だったが、求められた役割をしっかりこなした。新人王に輝いた山口鉄也投手(67試合、2S、34HP、73.2回、防御率2.32、与四球率1.47、奪三振率8.43)の陰に隠れる格好となったが、“風神雷神”コンビを組んだ越智氏も打者を圧倒する投球で、相棒と遜色ない成績を残している。

■2011年
【パ・リーグ】
②塩見貴洋投手(楽天) 先発投手 24試合 9勝9敗 154.2回 防御率2.85 与四球率1.98 奪三振率6.58
③伊志嶺翔大選手(千葉ロッテ) 126試合 110安打 2本塁打 21打点 32盗塁 打率.261 長打率.341 出塁率.329

塩見投手は3四球以上が2試合だけと制球力が光ったが、初登板は5月5日で出遅れが響いた。その翌日に牧田和久投手(埼玉西武)はプロ初完封を飾っており、開幕から10先発をこなした後に45救援と八面六臂の活躍で新人王を手繰り寄せている。統一球導入の影響でリーグ全体が投高打低の傾向にあった点を踏まえれば、伊志嶺選手の貢献度は表面上より高かった。前述2投手の防御率はリーグ平均とほぼ同じだが、伊志嶺選手は打率、出塁率ともリーグ平均を上回り、長打率こそほぼ同じだが、リーグ4位の32盗塁をマークした点で傑出している。

【セ・リーグ】
②榎田大樹投手(阪神) 救援投手 62試合 1S 36HP 63.1回 防御率2.27 与四球率3.98 奪三振率10.9

4月からブルペンの勝ちパターンに定着した榎田投手は、新人最多の33ホールドと36ホールドポイントを稼ぎ出した。ただし、200イニングスを投げて防御率2.03の澤村拓一投手(巨人)が同じ年のルーキーでは、相手が悪かったと言うしかない。

■2012年
【セ・リーグ】
②田島慎二投手(中日) 救援投手 56試合 0S 35HP 70.2回 防御率1.15 与四球率2.16 奪三振率7.13

田島投手が失点したのはわずか6試合だけで、ほとんどの登板を無失点で切り抜けた。新人王の野村祐輔投手(広島)は9勝11敗と負け越し、与四球率2.71、奪三振率5.37とも特筆すべき数字ではなかったが、防御率1.98の結果が大きく物を言っている。

■2013年
【パ・リーグ】
②佐藤達也投手(オリックス) 救援投手 67試合 0S 42HP 78回 防御率1.73 与四球率4.73 奪三振率10.15
⑤千賀滉大投手(福岡ソフトバンク) 救援投手 51試合 1S 18HP 56.1回 防御率2.40 与四球率4.15 奪三振率13.58

「腕も折れよ」とばかりの勢いで躍動し続けた佐藤投手と、必殺のフォークで打者をきりきり舞いさせた千賀投手が三振を量産した。両者とも28試合で複数の奪三振をマーク。新人王に選ばれる則本昂大投手(楽天)の奪三振率は7.94と、Kマシーン伝説はまだ幕開け前だった。

【セ・リーグ】
②菅野智之投手(巨人) 先発投手 27試合 13勝6敗 176回 防御率3.12 与四球率1.89 奪三振率7.93
③藤浪晋太郎投手(阪神) 先発投手 24試合 10勝6敗 137.2回 防御率2.75 与四球率2.88 奪三振率8.24

リーグ最多の16勝を挙げた小川泰弘投手(東京ヤクルト)のみならず、上記2人も新人王を獲得しておかしくはない成績を残した。1年目から完成度の高いピッチングを披露した菅野投手だったが、完投は1試合だけで、小川投手は3完封を含む4完投を記録している。成績では2人に及ばずとも、藤浪投手はさまざまな年少記録を打ち立てて話題を作った。

■2014年
【パ・リーグ】
②高橋朋己投手(埼玉西武) 救援投手 63試合 29S 15HP 62.2回 防御率2.01 与四球率3.45 奪三振率11.49

高橋投手が当時では史上初の「シーズン25セーブ&15HP以上」を達成。対左打者に被打率.247の左腕だが、打たれた長打は二塁打1本のみだった(対右打者は被打率.188、被長打10本)。

【セ・リーグ】
②又吉克樹投手(中日) 救援投手 67試合 2S 33HP 81.1回 防御率2.21 与四球率3.97 奪三振率11.51
③福谷浩司投手(中日) 救援投手 72試合 11S 34HP 74.2回 防御率1.81 与四球率3.13 奪三振率8.68
④三上朋也投手(横浜DeNA) 救援投手 65試合 21S 14HP 65.2回 防御率2.33 与四球率3.70 奪三振率9.18

新人王資格を持つ中日の投手2人がリーグのHPランキング3、4位に並んだ。サイドから投げ込む又吉投手と、真上から投げ下ろす福谷投手の直接の継投は前半戦で6試合だけだったが、ともに信頼感が高まり、終盤を任される機会の増えた後半戦は23試合にまで増えていた。その2人よりも後のイニングを主戦場とした三上投手はリーグ4位の21セーブを記録している。

■2015年
【セ・リーグ】
②若松駿太投手(中日) 先発投手 23試合 10勝4敗 140回 防御率2.12 与四球率3.21 奪三振率7.26
③高木勇人投手(巨人) 先発投手 26試合 9勝10敗 163.2回 防御率3.19 与四球率2.58 奪三振率7.20

新人としては及第点の成績を残した若松投手と高木投手だったが、新人記録となる37セーブとともに“ヤスアキジャンプ”を生み出した山﨑康晃投手のインパクトがあまりにも強かった。

■2016年
【パ・リーグ】
②茂木栄五郎選手(楽天) 遊撃手 117試合 118安打 7本塁打 40打点 11盗塁 打率.278 長打率.408 出塁率.330

開幕スタメンの座を射止めた茂木選手はショートのポジションに定着し、三塁打をリーグトップタイの7本、ランニングホームランも2本放った。2ケタ勝利に到達した高梨裕稔投手(北海道日本ハム)との対戦成績は10打数2安打で、新人王投票でも惜しくも敗れた。

【セ・リーグ】
②今永昇太投手(横浜DeNA) 先発投手 22試合 8勝9敗 135.1回 防御率2.93 与四球率2.53 奪三振率9.04

今永投手は、6イニングス以上を投げて3自責点以内に抑えながら白星のつかなかった登板が8試合あり、防御率2.93の安定感とともに、130投球回以上の投手でリーグ3位の奪三振率9.04と抜きん出た投球内容だった。高山俊選手(阪神)は長打率.391、出塁率.316ともリーグ平均と同程度だったが、3安打以上が13試合、4安打も3試合と固め打ちが多く、新人王投票で圧勝している。

プロ野球人生でどれだけ実績を積み重ねようとも、新人王獲得のチャンスは一生に1度。栄誉であることに間違いはないが、受賞がその先のキャリアを保障するとは限らないのもまた事実。今オフも各球団が着々と新シーズンに向けた準備を進めているが、2年目を迎える今年のルーキーズが飛躍を果たせば、それもチームにとっての大きな“戦力補強”となることは間違いない。

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パ・リーグ インサイト 藤原彬

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