記録を達成する者がいれば、達成をされる者もいる。今年のシーズン終盤に注目を集めたプロ野球通算10万号本塁打の記録。それは9月29日、ZOZOマリンスタジアムでのマリーンズ対バファローズの一戦で生まれた。打って一躍、時の人となったのはバファローズのクリス・マレーロ外野手。そして打たれたのはこの日、プロ初勝利を目指し、プロ初先発のマウンドに上がった成田翔投手だった。
「10万号の記録が近いということは知っていました。ホームランを打たれてその後に場内のビジョンでその事が映し出されてアナウンスで紹介されて、この一発がそうなのかと改めて気が付きました」
今でもそのシーンは鮮明に覚えている。2点を先制され迎えた6回2死1塁。1ボール、1ストライクからの3球目。キャッチャーの内角ストレートの要求にボールが甘く入った。レフトスタンドに突き刺さる弾道を見るまでもなく、打った瞬間に分かる一発だった。結局、この日は2本の2ランで試合が決する。0対4で敗戦投手。試合後にスコアラーから渡されたDVDで何度もそのシーンを振り返った。それは一軍と二軍の差を痛感させられた1球となった。
「映像で見返すと、キャッチャーの要求よりもボールが甘いのがはっきりしている。二軍だとあの球はファウルになっている可能性もあるけど、一軍では打ち損じてはくれない。一軍で活躍するためには1球のコントロールが大事。それを改めて実感しました」
現在、宮崎で行われているフェニックスリーグに参加をして、その悔しさを糧に成田は投げ込みを行っていた。結局、今シーズンは2年目にして待望の一軍昇格を果たしたものの4試合(先発は2試合)に投げて未勝利。2つの敗北を喫した。勝てなかった要因はなにか。一軍での貴重な経験を思い返し反省をしながら、投げる。そんな日々を送っている。
「打たれたという事は実力不足ということ。相手が上。記録の1本を打たれているというのは嬉しい事では決してないけど、自分にとってはずっと忘れることのない事になったと思います。今度は自分がいい記録を打ち立てて見せる。そう自分には言い聞かせています」
日本プロ野球通算10万号を打たれた投手は日本球界で自分だけ。華やかな記録の陰で、悔しさをかみしめる若者は、今度は自分に華麗なスポットが当たる日が来ることを信じて投げ続ける。秋田商業高校からドラフト3位でマリーンズ入り。1年目は体力強化に重点を置き、2年目の今季は一軍の舞台を経験した。確実に1歩ずつ前に進んでいる。来年こそはプロ初勝利。そしてその先の栄光を信じて若き左腕は毎日を必死に生きる。その眼にはキラキラと輝く未来へと向かう道がハッキリと見えている。
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