キャプテンマークが重く圧しかかった今季。千葉ロッテ・鈴木選手はこの悔しさも惜別も糧にする

パ・リーグ インサイト

2017.10.11(水) 00:00

今季リーグ最下位に沈み、苦しみ抜いた千葉ロッテ。昨季まで2年連続のAクラス入りを果たし、今年のオープン戦では圧倒的な強さで勝率1位に輝いたチームが、ここまで調子を落とすことを予想していた人はそう多くはなかったことだろう。

野球は大掛かりなスポーツだが、ワンプレーで流れが変わる繊細な側面を持ち、ほんの少し歯車が狂うだけで敗者と勝者が入れ替わる。絶対的なものが少ないドラマチックさが野球の醍醐味で、同時に残酷なところでもある。今季の千葉ロッテは、そういう野球の恐ろしさを改めて思い知った。ここではその中で、キャプテンとしてチームを鼓舞し続けた鈴木選手に焦点を当てる。

鈴木大地という名前は、誕生年の前年、ソウル五輪男子100メートル背泳ぎで金メダルに輝いた鈴木大地氏にあやかって付けられたという。桐蔭学園高校から東洋大学に進学すると、主将として持ち前のキャプテンシーを発揮しながら、チームのリーグ優勝、全国制覇に貢献した。シュアな打撃と堅実な守備を評価され、2011年、ドラフト3位で千葉ロッテに入団する。

即戦力内野手の前評判通り、1年目から62試合に出場。2年目はレギュラーに定着して、最終的にチーム唯一の全試合出場と、遊撃ベストナイン受賞を果たす。そしてその年のオフ、かつて「幕張のスピードスター」と呼ばれ、最年少盗塁王、日本球界歴代5位のシーズン206安打など、数々の大記録を打ち立てた西岡選手(現・阪神)の背番号「7」を継承した。

「7」を背負って臨んだ2014年は、プロ3年目の24歳という異例の若さでキャプテンにも抜擢される。その資質を疑う声も年上の選手も多い中、誰よりも声を出し、模範となる姿勢を示し続け、グラウンド内外で奮闘。肝心のプレーでもチームを引っ張り、2年連続となる全試合出場を達成した。さらに打率も自己最高の.287をマークする。

5年目となる2016年は、自ら呼び掛けてあるファンサービスを敢行した。それは試合勝利後にファンと一体となって行う「WE ARE」。拡声器を手にファンと勝利の喜びを共有するパフォーマンスは人気を博し、今やZOZOマリンスタジアムの名物にもなっている。

そして、長年務めた遊撃手から二塁手へコンバートして迎えた今季。チームは開幕4連敗を喫したが、4月5日の北海道日本ハム戦で逆転2ランを放ち、そのバットで待望の今季初勝利をもたらす。その後も深刻な打撃不振に陥り、なかなか上昇気流に乗れないチームの中、打率2割台後半をキープして4番に座るなど気を吐いた。

また、7月15日にZOZOマリンスタジアムで行われた「マイナビオールスターゲーム 2017」第2戦では「だいちー!」と叫ぶファンの大歓声に迎えられて登場すると、2安打1本塁打1打点の活躍で敢闘賞を獲得。さらに試合終了後には、パ・リーグ選抜の選手全員で「WE ARE」を行い、千葉ロッテファンのみならず全パ・リーグファンを大いに沸かせた。

9月24日に行われた北海道日本ハム戦ではサヨナラ打を放ち、アマチュア時代から憧れの存在だったという井口選手の引退試合に花を添える。その後、チームは徐々に復調の兆しを見せつつもシーズンを最下位で終了。最終戦も白星で飾ることはできなかったが、井口選手自身による9回裏の同点弾も含めて、24日の試合は苦しいシーズンをともに戦ったナインとファンの思いを乗せ、大いなる感動をもたらす一戦となった。

野球はチームスポーツだ。スター選手が1人いるだけでは勝てないことの方が多い。自分の奮闘がチームの勝利に結び付かない選手も、力を出し切れない選手も、それぞれのもどかしさを抱えて戦っている。そしてその焦りと責任感が悪循環を生み、今までできていたことさえできなくなり、狂った歯車は戻らないまま選手の心身を削っていく。今季、キャプテンとして多くの責任を負った鈴木選手にとっても、振り返れば野球の恐ろしさばかりが思い出されるシーズンだったかもしれない。

しかし、鈴木選手がサヨナラ打で完璧に幕を引いた井口選手の引退試合は、恐ろしさと表裏一体である野球の素晴らしさ、グラウンドで繰り広げられるドラマの尊さを、多くの感性に訴えた。そんな1試合を生み出すことは、どこのチームにでもできることではない。

シーズン最終戦後に更新された鈴木選手のインスタグラムには、チームとファンと指揮官に対する感謝の気持ちが、言葉を尽くして綴られていた。来季への意気込みも明るい口調で語られていたが、その前向きな心境に至るまでには、長く苦しい葛藤があったことだろう。伊東監督が退団し、千葉ロッテは来季から新体制に生まれ変わる。全てが速やかに良い方向に向かうわけではないかもしれない。それでもいつか鈴木選手には、苦しんだ今シーズンのことも、この歓喜のために無駄な時間ではなかったと言ってほしい。

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