この球場で、流したかった。日本ハム・山本拓実投手（２３）が、１８日のソフトバンク戦（エスコンフィールド）で粋な計らいを見せた。中日からトレード加入した右腕がこの試合で選んだ登場曲は、清水翔太の「ＤＲＥＡＭ」。今季限りでの現役引退を表明した中日・谷元圭介投手（３８）が、日本ハム時代に使用していた曲だ。

　「本当にお世話になったので、いろいろな気持ちを込めました」

　２点を追う９回から３番手でマウンドへ。郡司裕也捕手（２５）との元中日バッテリーコンビで、１回を２奪三振、無失点に封じた。「このエスコンで１試合でも曲が流れればいいなと思っていた。出番があってよかったです」。最速１５１キロの直球、キレ味抜群のカットボールは、いつも以上にうなりを上げていた。

　身長は１６７センチと球界でもひときわ小柄。中日時代は谷元を頼って、２２年から沖縄・宮古島自主トレに参加させてもらった。偉大な先輩は自身と同じ１６７センチながら、通算５２３試合に登板。まさに最高の教科書だった。日本ハムへの移籍後も、常に気にかけてくれた。「トレードはチャンス」。何度もそう伝えてもらった。

　そして今季限りでの現役引退を知った。真っ先に思い浮かんだのは、谷元が過去に電話越しで漏らしていた言葉だった。「エスコン、めちゃめちゃいいやろ。俺も１回、投げてみたかったな」。これまでの感謝を何か形にしたいと思った。

　「せめて登場曲だけでも、と思いました。ＤＲＥＡＭは自主トレの時に谷元さんと大野（奨太）さんがカラオケでよく歌っていたんです。谷元さん、大野さん、２人が好きな曲です。思い出と言ったらコレかなって」。かわいがってもらった元Ｆ戦士の先輩へ、自分なりに惜別の思いを届けた。

　「君がいるなら　どんな夢も叶（かな）うような気がしてるよ　君がいるから　諦めない　ありがとう　君に会えてよかった」

　ＤＲＥＡＭの歌詞の中で、山本拓が最も好きなパートだ。「谷元さんとの関係性を思うと、ここが一番かな」。図らずも、登場曲を変えた１８日は、谷元の引退会見の日と重なった。「偶然ですね。エスコンで１回でも流せて、本当によかった」。うれしそうに笑う顔が、何より印象的だった。

　「今年は谷元さんへの感謝を込めて投げたい。シーズン終わるまで、この曲を使いますよ」と背番号６７。小柄な体を目いっぱい使い、闘志むき出しで打者をねじ伏せる。尊敬してやまない先輩のフォーム、そして魂を受け継ぎ、山本拓は北の大地で本気で野球人生を変える気でいる。引退会見で先輩は「僕の経験は山本に伝えました」と口にした。高卒６年目。ここまでの通算登板数は９４（９月１８日時点）。目標の「５２３」を超える日を、ぜひこの目で見たい。（地域版コラム　北海道支局・堀内　啓太）

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