第５回ワールド・ベースボール・クラシック（ＷＢＣ）の代表選手にエールを送る第７回は、西武・山川穂高内野手（３１）の富士大時代の恩師・青木久典さん（５０）。３度（１８、１９、２２年）の本塁打王に輝いた球界屈指の長距離砲が、当時から見せていた片りんとは―。（取材・構成＝有吉　広紀）

　どこまでも打球を飛ばす、そのパワー。山川の魅力の一つである飛距離はすでに別格だったと、青木さんが当時をこう振り返る。

　「まだ入学前、大学のグラウンドでの打撃練習で、（左翼後方にある）武道館の屋根の一番上の辺りに打球を当てていました。フェンスまで９０メートル以上あって（両翼９２メートル）、武道館はフェンスから７～８メートル離れているし、なおかつ２階建てですから。こいつすごいな、と思いました」

　山川を初めて見たのは中部商３年時。飛距離だけではない打撃技術に目を奪われたという。

　「遠くに飛ばせるな、というイメージがあった。あと興南の島袋（洋奨）君（高３時に甲子園春夏連覇左腕、１５～１９年ソフトバンク。沖縄大会決勝で２―４敗退）のスライダーをレフト前にヒットしているんです。そういう柔らかさも持っているんだと思った」

　山川自身はテレビなどで「青木さんが土下座をして勧誘してきた」と話しているが、実際は少々違うようだ。

　「土下座は盛りすぎだぞ、と本人に怒っておきました（笑い）。でもそう見えるほど、９０度くらい頭は下げたかな。ぜひ来てほしい、これでもう４番は４年間いけると思っていましたから」

　大学では４年間、主軸として活躍。天性の打撃技術に努力を重ね、さらにスケールアップしていった。大学敷地内にある、鳩小屋と呼ばれるボロボロの建物でやっていた自主練習では、こんな出来事があった。

　「僕が朝、学校に行くと警備員さんが歩み寄ってきて、『監督、申し訳ないけど（自主練習を）やめさせてもらえないか』と言うんです。夜中の２時くらいまで、電気をつけてやっているんですね。そう言われてもどうすることもできないから、すいません、と言いながら目をつぶってやらせていました」

　逸材だからこそ、指揮官の期待も高い。当時は必死だったため気づかなかったが、数年後に山川自身からこんなことを打ち明けられたという。

　「だいたい３か所で打撃練習をやるんです。それに加えて１か所、特別にケージを作って、僕とマンツーマンで打撃練習をしていた。他の選手がうらやましそうに見ていたらしく、『あれは一番きつかったですね』と言われました。でも僕の中には、（山川の）お母さんとの約束を守らなきゃいけないという思いがあった。プロに行かせますからと言って沖縄から連れてきたので、一人前にしなきゃいけないと必死でしたね」

　富士大を率いた後は母校の法大を指揮した青木さん。六花亭でも監督を務め、現在はＧＭとしてチームに関わっている。自身の経験を基に、地方大学だからこそ山川のような選手が生まれたのかもしれないと振り返った。

　「（東京などで）注目を浴びているからそういう選手になるかというと、いろいろな方々から見られたり制約があるなかでやっていくという意味では大変。地方の大学で、伸び伸びやりながら（スタイルを）確立していくのはありなんだろうなと思います」

　ＷＢＣでも日本打線の中心となる山川。国際舞台でも変わらぬフルスイングを見たいという。

　「今までの実績で選ばれているので自信を持って、微調整をしながらやっていけばいいと思います。あと映像を見ていたら、打つポイントが昔よりも（体に）近くなっている。球が動くとよく聞きますけど、それにも対応できるんじゃないかなと思っています」

　◆青木　久典（あおき・ひさのり）１９７３年２月１６日、三重県生まれ。５０歳。三重高３年春にセンバツ８強。法大に進み、その後北海道拓殖銀行やサンワード貿易などでプレー。０５年に富士大コーチ、０９年に監督就任。全日本大学選手権は０９年に準優勝。１４年に法大助監督、１５から２０年までの６年間監督を務めた。その後軟式野球・六花亭で監督を務め、現在はＧＭ。現役時のポジションは内野手。

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