福良淳一GMから花束を受ける吉田正尚［写真＝北野正樹］

◆ スピード決着の裏側語る

　オリックスからポスティングシステムでレッドソックスに移籍した吉田正尚外野手（29）が22日、大阪市内のオリックスの球団施設で記者会見。「やるべきことは日本と変わらず、一番を目指す。夢を尊重していただいた感謝の気持ちはプレーで見せるしかない」と、メジャー1年目の抱負と球団への感謝の思いを改めて語った。


　日本時間16日に新天地・ボストンで会見を行った吉田だが、移籍決定後に国内で取材対応するのは初めて。

　メジャーは小学生以来の夢。それでも「少し実感がわいてきたが、なんというか不思議な気持ち」という吉田。大きい夢を叶えたとはいえ、ユニホームを着てプレーをしていないこともあり、感覚としてズレがあるのだろう。

　レッドソックス入りを決断したのは、「一番いい評価をしていただいたから」と、改めて5年9000万ドル（約124億円）の条件面を挙げた。代理人のスコット・ボラス氏から交渉解禁初日の朝に電話の着信がたくさんあり、掛け直すと「これでどうか」と聞かれたという。「予定のスケジュールと大きく違い、MAXを10とすれば2くらいのところだったが、これもご縁だと思って決断した」と舞台裏を明かした。

　大型契約については「自分で勝ち取ったとは思わない。人との出会いがありその人たちのおかげ」という。

　渡米後、レッドソックスのスカウトらから「3年近く前からずっと見ていた」と伝えられ、「追って見てくれていたと感じた」と高い評価に意を強くしたという。


◆ 送り出す福良GMは太鼓判「正尚の力なら大丈夫」

　オリックスには、会見で改めて感謝の気持ちを伝えた。

　「本当に当時はドラフト1位とは自分の中で思っていなかった。そういう評価をしていただいて今があるので、プレーで恩返しをしたい」と語り、まだ話していないという中嶋聡監督にも「前向きに動いていただいたと聞いた」と感謝の意を表した。

　入団したのは福良淳一監督（現GM）の1年目。21年にリーグ優勝するまで5年連続Bクラスに低迷したが、2度の首位打者、最高出塁率のタイトルを獲得するなど、オリックスを打撃面で支えた。

　「福良さんにはここ何年か、交渉の席上でポスティング（システムによるメジャー移籍）を話してきた。『夢を応援したい』と言っていただいた」と、気持ちを理解し続けてくれた福良GMにも感謝した。

　決断を後押しした福良GMは「こっちでやっていたことをやって、普通にやれば（メジャーでも）通用する。正尚の力なら大丈夫。それだけの力はある」。


　新たな本拠地となるフェンウェイ・パークは、外野の膨らみが少なく、本塁から約94.5メートルしかない左翼のフェンスは高さ約11.3メートルもあり「グリーンモンスター」と呼ばれるなど、特徴のある球場。

　吉田は「日本にはない球場。でもやることは日本時代と同じで、ベストを尽くすだけ。出塁してチャンスメイクをしたり（走者を）還したり、状況によって変わってくる。打撃面ではプロに入ってからやってきた三振をしない、四球を選ぶということは引き続き頭に置いてプレーし、その中でのフィーリング、感性を大事にして対応したい。走塁や守備にしても今までやって来た基礎を大事にして、アメリカでも新しいことを勉強して成長していきたい」と語った。


◆ WBCには慎重な姿勢…後輩たちにエールも

　来春に予定されているWBCには「出場したい気持ちはあるが、球団の考えもある。タフな160試合近くのゲームをこなすために、1年目のスタートを前に一番ピークに持っていく（時期）だけにリスクもある。考えは球団に伝えているが、自分だけの考えだけではいけない」と揺れる思いを吐露した。

　リーグ3連覇、連続日本一を目指す後輩には「人生や野球では辛いこと、苦しいことが8割。我慢も必要だし向上心を忘れずにやっていくといい方向に行くと経験上、言える。どこに行っても勝負の世界で、やるのは自分。自分の色を出して」とエールを送った。

　また、地元・福井県の野球少年・少女たちには「敦賀気比高校まで福井でプレーした。高校時代はスタートから甲子園を経験するなどスムーズに入ったが、最終年はケガもあって納得いく成績は残せなかった。挫折ではないが、寒い冬を過ごした。体も標準的で、特別すごいことをしたわけでもない。それでも、誰にでもチャンスはある。いろんな運やタイミングはあるが、チャンスをつかむのも自分次第。向上心、反骨心、悔しい気持ちがないとだめ。好きで続けていくことも大事なんだと思う」と、あきらめず努力することの大切さをメッセージとして送った。


取材・文＝北野正樹（きたの・まさき）