「野球の華はホームラン」と言われる。たとえ劣勢でも、その一発が飛び出すだけで球場は一気に盛り上がり、ゲームの流れは大きく変わる。豪快な一振りがチームにもたらす「1点」を、たった「1点」と侮ることはできない。だからこそどのチームも、喉から手が出るほど絶対的な大砲が欲しい。
オリックスのT-岡田選手が、8月26日の埼玉西武戦で、プロ通算150本塁打を達成した。プロ12年目、今季25号目での達成だった。彼が生み出す本塁打は、飛距離、放物線ともに球界随一の美しさを誇る。美しさの基準は人それぞれとはいえ、リーグ屈指のホームランアーティストであると言っても、決して大げさではないだろう。
T-岡田選手は、2005年のドラフト1位でオリックスに入団。履正社高校時代はその打棒と高校通算「55」本塁打などにちなんで「浪速のゴジラ」と称され、辻内崇伸氏(大阪桐蔭)、中日の平田選手(大阪桐蔭)、鶴直人氏(近代附)とともに、「浪速の四天王」と呼ばれていた。
プロ入り後4年間は、ほとんどの時間をファームで過ごしたが、2010年、転機が訪れる。2009年のシーズン終了後に監督に就任した岡田彰布氏が、登録名変更を提案。ファンからアンケートを募り、ティラノサウルスを表す「T-レックス」と本名の「岡田貴弘」の頭文字をもじった「T-岡田」という登録名で、2010年シーズンに挑む。
すると、学生時代に数々の伝説を打ち立ててきたその才能が開花。大きく両足を開いた独特のノーステップ打法で33本のアーチを描き、パ・リーグ本塁打王に輝く。22歳という若さでホームランキングの称号を手にするのは、あの王貞治氏以来、48年ぶりの快挙だった。
ところが、以降は故障にも悩まされて成績が伸び悩み、昨季まで本塁打数は30本の大台に届かず。和製大砲としては物足りない数字に終わってしまっていた。しかし、リーグ最下位に沈んだ昨季の悔しさを胸に、選手会長として並々ならぬ決意で迎えた2017年、楽天との開幕戦、1点を追う7回裏。打った瞬間それと分かる特大の同点弾を右翼上段へ叩き込み、オリックスに「ナニワの轟砲・T-岡田」ありと、その復活を声高に知らしめる。
3・4月度の「日本生命月間MVP」に選出されるなど順調なスタートを切り、T-岡田選手にとって、2010年以降苦しんだ6年間とは一味違うシーズンとなっている今季。ここまでの成績は141試合496打数134安打31本塁打68打点、打率.270と、試合数、安打数など、多くの部門でキャリアハイをマークしている。
また、開幕直後の打撃フォームはいわゆる「天秤打法」に近いもので、本塁打王に輝いた年の「ノーステップ打法」とは異なっていた。その打法で順調に本塁打数を積み重ねながら、そこで満足することはなく、絶えず新打法を模索。結果が出ていても満足せず、悩み苦しみ試行錯誤を繰り返す姿勢こそ、彼が彼たる所以でもある。
8月にはプロ入り初となる1番・2番打者を務め、プロ入り以来全打順を経験。18日の試合では2番打者として23号ソロを放つなど、和製大砲でありながら「どの打順を任されても打てる」チームへの献身的な姿勢と器用さも見せた。
残念ながらチームはクライマックスシリーズ進出を逃したものの、T-岡田選手はもちろん、マレーロ選手、ロメロ選手、吉田正選手などの大砲を擁する打線は、ひとたび火が着けば誰にも止められない爆発力を秘める。来季、この破壊力抜群の打線がどれほどの猛打を振るうのか楽しみでならないのは、おそらくオリックスファンだけではないだろう。
9月29日の千葉ロッテ戦で、プロ野球公式戦通算9万9999号となる今季30本目のアーチを描き、7年ぶりに大台にも到達したT-岡田選手。現在本塁打は31本。残り試合はわずか2試合となったが、まだまだキャリアハイとなる33本越えを目指せる位置にいる。1本でも多く、T-岡田選手にしか描けないあの美しい放物線が見たい。
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