念願のプロ入りを掴んだ富山凌雅、指名漏れ経験の高校時代は「甘かった」
今年のドラフト会議でオリックスから4位指名を受けたトヨタ自動車の左腕・富山凌雅投手は14人兄弟の大家族だ。家族を楽にさせたいという思いから、高校3年時にプロ志望届を提出したが、指名漏れを経験。社会人のトヨタ自動車を経て、念願のプロ入りを掴んだ。28日には入団交渉を行い契約金4500万円、年俸1000万円で合意。背番号は「28」に決まった。
富山は和歌山県出身。兄弟は姉3人、兄2人、弟8人。野球チームに入っていた兄と姉の影響で5歳の時から野球を始めた。中学生の時にセンバツで準優勝した九州国際大付属高に憧れ、地元を離れ同校に進学。2年夏の甲子園では1回戦に先発。3年夏は準々決勝で敗退したものの、先発を含む全4試合に登板し、3回戦の対作新学院戦では完封勝利を収めた。
その後、プロ志望届を提出したが指名漏れ。卒業後は社会人の名門、トヨタ自動車に入社した。
「指名漏れは、そんなに悔しいとは思いませんでした。もともと選ばれても下位と言われていたし『選ばれないんだろうな』と思っていました。高校の監督からも、志望届を出さずにトヨタに行けと言われていました。プロに行きたかったけど、近道はなかった。自分は甘かったなと思いました」
3年後の上位指名を目指した富山は、2年目の日本選手権2回戦に先発し6回途中2失点、準決勝では8回表までを3安打無失点に抑える好投を見せ注目を集める。しかし、その後は調子を落とし、今年の都市対抗野球大会でも登板の機会はなかった。
富山を成長させた元プロ細山田の助言
「ドラフトを意識してしまいました。『プロに行くために活躍しないと』という思いで1、2年目もやっていましたが、日本選手権で名前が売れて騒がれ始めて、みんなに見られていると思ったら、意識の仕方が変わりました。毎回ベストのピッチングをしないといけないと思ってしまった。ちょっと上手く投げられないと『今日はだめだ』と思ってしまい、調子が悪いなりのピッチングを考えられませんでした」
スカウトの目を意識しすぎて調子を落としてしまうほど、プロに行きたいという思いを強く持っていたが、高卒でプロに行くよりも、社会人を経験してよかったと3年間を振り返る。特にチームの先輩で、横浜DeNA、福岡ソフトバンクでプレー経験がある細山田武史捕手から教えられることが、とても勉強になったという。
「外にちゃんと投げられて、変化球2つは絶対にストライクを取れる球を持っていないとだめ。そうじゃないと1軍で活躍できないと言われました。変化球でストライクが取れないと、真っ直ぐ一本になる。そうなると、狙われたら打たれる。プロを経験しているからこそできるアドバイスを貰いました。こんなアドバイスができる人はなかなかいない。トヨタは、ベテランの選手が色々なことを教えてくれる。みんなができない経験を僕はしています」
憧れの存在でもある藤川球児投手(阪神)のように、真っ直ぐで空振りを取りたいと話す。それでも、プロで通用する投手になるため、社会人の3年間でストライクを取れる変化球、決め球にできる変化球を磨いてきた。しかし、一番学んだことは「社会の礼儀」だという。
「社会人で学んだことはいっぱいありますが、一番勉強になったのは、社会の礼儀、人間性です。僕らが練習している間も、会社の人たちは仕事をしている。そのおかげで僕らは野球ができている。仕事を休んでまで応援しに来てくれている人もたくさんいる。気持ちの面で勉強になりました」
トヨタ自動車という安定した企業から、プロの世界に身を置くことにも不安は全くない。目標はあくまでプロで活躍すること。高校生の時は「甲子園に行かなくても、プロに行けるだろう」と考えており、甲子園に行きたいと思わなかったほどだ。
14兄弟への想い「チケット、全員分取れるかな」
「トヨタは安定しているけれど、目指しているのはプロ。僕の中にプロに行かないという選択肢はない。上を目指してやらないと成長しない。僕はプロが一番上だと考えています」
トヨタ自動車からは2016年のドラフト3位で源田壮亮内野手が埼玉西武に、2017年のドラフト2位で藤岡裕大内野手が千葉ロッテに入団した。先輩たちの活躍も自信につながっている。
「源田さんは新人王を取って、クライマックスでもすごい打っていた。プロに行った人が活躍しているのを見ると、自信になります。『自分もプロに行ったら抑えられるかな』と思っちゃうけど、そうは甘くないですよね」
目標は先発ローテーション入りし、即戦力としてチームに貢献すること。そして2桁勝利を挙げ、新人王を獲得することだと力強く話す。
「やりやすいのは先発です。自分で試合を作りたいという気持ちもあります。でも、リリーフでピンチをしのいでもかっこいい。僕はどこでもやりたい。僕が目立てばそれでいいです」
目立ちたがり屋で負けん気の強い一面を見せるが、マウンドを降りれば8人の弟たちの優しいお兄ちゃんだ。
「実家に帰ったときは弟たちをゲームセンターに連れて行って、遊ばせています。僕より弟たちのほうが上手いんですよ。UFOキャッチャーでも、気が付いたら袋ぱんぱんに取っている。お菓子とかびっくりするくらい取るし『どうやって取ったの』っていうものまでいっぱい取っています。都市対抗が終わって帰ったときはびっくりしました」
夢は、兄弟全員を自分が登板する試合に招待することだ。「チケット、全員分取れるかな」と笑顔を見せる兄弟想いの左腕は、家族のためにプロの舞台での活躍を誓う。
(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)
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