期待値が高いからこその言葉だった。台湾プロ野球チーム・Lamigoモンキーズとの「桃園最強Power Series 2018」日台バトルカップ2戦目は13対0で快勝。試合後の井口資仁監督は先発して5回、被安打4、無失点で勝ち投手となった岩下大輝投手のピッチングに注文をつけた。
「0点では抑えてくれたけど、毎回、走者を出す形。テンポが悪い。ピシャリと抑えてほしかった。制球がばらついていたこともあって変化球でかわす投球をしていた」
期待をしていたのは自慢のストレートで打者を圧倒する投球だった。今シーズンの中盤に一軍入りしプロ初勝利を挙げるなど大器の片りんを見せた若者の投球で、指揮官がもっとも買っているのが威力あるストレート。力強くミットに収まる剛速球に無限の可能性を見出していた。しかし、一軍での登板が重なるにつれて、ただガムシャラに速球で押す彼本来の投球が影をひそめるようになってきた。
「結果を求めて変化球でかわす投球が見られるようになってきた。岩下の持ち味はストレート。もっとストレートで押してほしい」
今シーズンは18試合に登板して1勝3敗で防御率4.56。来年は先発候補としても検討されるなど、期待度の高い若者にシーズン中からストレートを軸に組み立てる投球の構築を求めてきた。しかし、この日も走者を背負うと、やはり変化球に頼るマウンドさばきが垣間見えた。
4、5勝だけの投手ではない。もっと日本を代表するようなスケールの大きな投手としての期待が指揮官にはある。そのストレートは日米通算2000安打を放った打者目線から見て、脅威に感じる。だからこそ、その最大の長所であるストレートに磨きをかけ、速球を軸に組み立てる投球を熱望している。それこそが対戦する打者がもっとも嫌がる岩下のピッチングなのだ。
「小細工はいらない。自分の最大の持ち味であるストレートで勝負をすればいい。どんどん押していくのが打者は一番嫌なんだ。そうすればローテに入れる」
予定していた5回を投げ終えベンチに戻ってきた岩下に、将はすぐに歩み寄った。そして握手を求めた。ただ、一言添えた。「ピシャリとな。ピシャリと」。ニヤリと笑い、力強く目を見つめ、メッセージを送った。野球は人生と一緒だ。逃げていてはなにも得ることはできない。グイグイと攻めて初めて成功を勝ち取ることができる。台湾での夜、若者は今一度、自分のスタイルを見直すことになった。そしてそれこそが来季へとつながっていく。
台湾遠征はこれで2連勝。「明日も勝って、3連勝で終わりたいね」。指揮官はキッパリと口にした。成功からも失敗からも得ることがあった2試合。残り1試合も来季に向けたゲームを行う。
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