9月16日、福岡ソフトバンクがメットライフドームで埼玉西武を破り、2015年以来18回目のパ・リーグ優勝を果たした。現在リーグ2位の埼玉西武が破竹の13連勝を決め、3位の楽天が開幕から首位を快走するなど、熾烈な優勝争いが繰り広げられたが、結果的には14.5ゲーム差をつけて、昨季の雪辱を晴らした。
それでも主力に離脱者が続出し、開幕直後は連敗も経験。優勝までの道のりは決して平坦なものとは言えなかった。紆余曲折を経て、パ・リーグの頂にたどり着いた今季の福岡ソフトバンクの軌跡を、簡単に振り返りたい。
・月間成績
【3・4月】26試合14勝12敗0分 勝率. 538 チーム順位4位
【5月】25試合18勝7敗0分 勝率.720 チーム順位2位
【6月】23試合15勝8敗0分 勝率.652 チーム順位2位
【7月】20試合15勝5敗0分 勝率.750 チーム順位2位
【8月】25試合17勝8敗0分 勝率.680 チーム順位1位
【9月】11試合10勝1敗0分 勝率.910 チーム順位1位
開幕直前、第4回「ワールド・ベースボール・クラシック」に出場したスアレス投手が利き腕を負傷。今季中の復帰が絶望的になり、昨季58試合に登板した頼れる右腕を欠くという最初の試練が訪れる。ただ、千葉ロッテとの開幕戦ではエース・和田投手が涌井投手に投げ勝ち、これを皮切りに3連勝と上々のスタート。4月1日にはカブスの川崎選手が日本球界に復帰し、話題を集めた。
しかし4月4日、楽天との最初のカード頭、第4回WBCでベストナインに選ばれた千賀投手が打ち込まれ、楽天が開幕4連勝。ここから長期間に渡る怒涛の快進撃が始まり、首位を快走する楽天を、福岡ソフトバンクを含めた5球団が追う構図ができあがる。また、本多選手が捻挫、武田投手が右肩炎症で離脱し、今季最長の4連敗。悪い流れに飲み込まれる中、和田投手までもが左肘の炎症で戦線を離れることになった。
さらに5月16日には、千賀投手が試合中に背中の張りを訴えて緊急降板。チームはローテーションの柱となる3投手が負傷で離脱するという、非常に苦しい状態で戦うことを余儀なくされる。しかしこの窮地を現有戦力のやりくりで乗り切ったことが、福岡ソフトバンクの層の厚さを物語っているだろう。17日のオリックス戦、23日の千葉ロッテ戦では、昨季キャリアハイの成績を残した東浜投手がチームのピンチを救う快投を披露し、事実上先発陣の大黒柱となる。
日本生命セ・パ交流戦期間中は、31日の中日戦で育成出身の石川投手が初先発初白星、6月11日の阪神戦では同じく育成出身の山田投手が、今季初登板初勝利を挙げた。デスパイネ選手が肉離れで一時戦線離脱し、巨人に継投ノーヒットノーランで敗れるという悔しさも味わうものの、柳田選手が4番を務め、3年連続で交流戦最高勝率チームとなる。柳田選手は史上初となる2度目の交流戦MVPにも輝いた。
さらに6月23日の埼玉西武戦では、打っては柳田選手が3打席連続本塁打でプロ通算100号に到達し、投げては東浜投手が4年ぶりの完封勝利を果たす。25日の埼玉西武戦では、「伏兵」福田選手が劇的サヨナラ弾。27日の北海道日本ハム戦では松田選手がプロ通算200号、翌日には育成から正捕手に上り詰めた甲斐選手が2試合連続弾。主力選手が多数離脱しているというハンデを感じさせない強さを見せ付けて、福岡ソフトバンクはリーグ首位の楽天の後ろをぴったりと追走する。
6月30日から7月2日にかけて行われた楽天との首位攻防戦では、全て1点差での決着という激しい競り合いの末に勝ち越し、4日のオリックス戦では両リーグ最速の50勝に到達。翌日の試合でサファテ投手が史上6人目の日本通算200セーブという偉業を達成し、7日の北海道日本ハム戦における勝利で今季初めて首位の座に躍り出た。
しかし、7月11日と12日に行われた前半戦最後の首位攻防戦では、楽天の驚異的な粘りの前に敗れて、楽天の前半戦首位ターンが確定。福岡ソフトバンクは2位という立場で後半戦を迎えることになる。その後も川崎選手、内川選手が相次いで故障離脱。フルメンバーが揃わない状態での戦いを強いられた。
ただ、前半戦を首位で折り返した楽天もここで歯車が狂い始める。7月27日から8月3日の7試合で、1勝6敗と2カード連続の負け越し。その間福岡ソフトバンクは6勝1敗と手堅く勝利を積み重ね、8月2日に単独首位に浮上。5日に上位チームを猛追する埼玉西武の大型連勝を「13」で止めたが、8日の千葉ロッテ戦で敗れて首位から陥落し、残り試合数の関係で、楽天がマイナス1ゲーム差の首位というリーグ35年ぶりの珍事が起きた。
8月12日、千賀投手が育成出身選手としては史上初の2年連続2桁勝利を決め、15日には「福岡ソフトバンク」という球団名になって以降1000勝という大台を突破するとともに、首位の座に返り咲く。18日からの3連戦と9月1日からの3連戦で楽天と直接対決し、岸投手、則本投手、辛島投手との投手戦をいずれも粘り強く制すると、8月に大きな月間負け越しを喫した楽天とのゲーム差を一気に広げた。
8月27日には復帰後初登板の和田投手がさすがの投球を披露し、プロ通算1500奪三振を達成。節目の1500三振目は、かつてのチームメイトであり、今季限りでの引退を表明している千葉ロッテの井口選手から奪った。31日にはサファテ投手がリーグ新記録のシーズン44セーブをマーク。メモリアルな試合が続き、チームの勢いを後押しする。
Aクラスの楽天と埼玉西武との直接対決を確実にものにしたことで、8月15日以降一度も首位の座を譲らず、9月1日、ついに福岡ソフトバンクの優勝マジック「16」が点灯。その後も気を緩めることなく、2位以下を大きく突き放して独走を続ける。5日のオリックス戦ではサファテ投手が今季47セーブをマークしてシーズンセーブ数の日本新記録を樹立し、10日の千葉ロッテ戦では前人未到の50セーブにも到達した。
8月31日から9月10日かけては、シーズン終盤の疲れが溜まる時期にも関わらず、今季最長・工藤監督就任後初の9連勝を決め、着実にマジックを減らしていく。そして、ついにマジック「1」で迎えた9月16日の埼玉西武戦。柳田選手の一発が飛び出すと、勝ち頭の東浜投手が6回1失点と先発の仕事を果たし、モイネロ投手、岩嵜投手、そしてサファテ投手という「勝利の方程式」につなぐなど、盤石の試合運びで勝利。2015年以来18回目、さらに史上最速となるパ・リーグ優勝を果たした。
今季序盤から主力選手の相次ぐ故障離脱に見舞われ、苦しい戦いを強いられた福岡ソフトバンク。しかし、その度に一軍経験の浅い若い選手、育成出身の選手などが突き上げ、主力の穴を埋める奮闘を見せた。ファームで蓄えた力を発揮し、今季頭角を現してきた選手は、野手・投手ともに枚挙に暇がないほどだ。
前回のリーグ優勝は2015年だった。さほど昔のことではないが、今回のリーグ制覇の立役者の中で、あの2年前の栄光に自分は貢献することができなかった、という選手も少なくないことだろう。あるいは、2年前の歓喜を知っているからこそ、昨年大逆転を許し、王座を逃した悔しさはひとしおだった、という選手も少なくないはずだ。
しかし、彼らはいずれも今日この日、それぞれの雪辱を晴らし、胸を張ってチャンピオンを名乗る権利を手にした。まだまだこれから厳しい戦いは続いていくが、ひとまずはこれまでの険しい道のりを反すうしながら、あらゆる苦難を乗り越えた今季のパ・リーグ王者に、心からの敬意を表したい。
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