諦めなければきっといいことがある。2度の戦力外から這い上がった楽天・久保投手が示す「プロ野球選手」というもの

パ・リーグ インサイト 成田康史

2017.9.8(金) 00:00

5位に終わった昨季から一気に躍進し、今季のパ・リーグ上位争いの真っ只中にいるのが、楽天だ。2番にペゲーロ選手を配する強力な打線や、岸投手の加入で厚みの増した投手陣が前半戦の快進撃を支えたが、その裏で多くの故障者が出た。

不動の1・2番だった茂木選手、ペゲーロ選手、攻守でチームを引っ張っていた藤田選手、今江選手、岡島選手などが怪我で離脱を余儀なくされ、絶対的守護神・松井裕投手も戦列を離れるなど、一時は苦しい台所事情に悩まされた。しかし、そんな逆境の中で、戦力外から這い上がった男が奮闘を見せた。今季プロ15年目を迎えるベテラン、久保裕也投手だ。

久保投手は、東海大学を卒業後、2002年のドラフト自由枠で巨人に入団。ルーキーイヤーから先発の13試合を含めて38試合に登板し、6勝を挙げる活躍を見せる。その後も着実に登板数を増やし、3年目には64試合、4年目には59試合。最終的には、この2年間で12勝、35ホールドを挙げ、中継ぎ投手としての地位を確立した。ただその後数年間は、出場機会が減少し、2008年は6試合、2009年は7試合の登板に留まる。

しかし、不屈の右腕は2010年にその息を吹き返す。79試合に登板し、記録したホールドは32。9を超える奪三振率を記録するなど、再びリリーフエースとしての地位を取り戻した。翌2011年には守護神も務めて67試合に登板し、防御率は驚異の1.17。20試合連続無失点という球団記録をも樹立する。しかし2015年オフに戦力外となり、横浜DeNAが獲得を表明。昨年までセ・リーグで2球団を渡り歩き、のべ427試合に登板してきた。

昨年、横浜DeNAから自身2度目の戦力外通告を受けた久保投手は、12球団合同のトライアウトに参加する。そして、テスト入団を果たした楽天の春季キャンプ、韓国のハンファ・イーグルスとの練習試合で好投したことで契約を勝ち取り、プロ15年目にして初めてパ・リーグを主戦場とすることになった。

新たに91番を背負い、投手陣最年長として臨んだ今季、開幕はファームで迎える。しかし、6月3日に今季初めて一軍登録されると、6日の古巣・横浜DeNA相手の今季初登板では、2回を無失点に抑える好投を見せる。

7月23日のオリックス戦で、2対2の同点で迎えた9回を完璧に抑えてチームのサヨナラ勝利を呼び込み、一軍公式戦における1040日ぶりの勝ち星。お立ち台では「今年1年、野球をやれる環境を与えてくれた球団に感謝していますし、その感謝をプレーで少しずつ返していけるように」と感慨深げに語った。

8月9日の北海道日本ハム戦では、土壇場で1点差に迫られた7回表1死2,3塁のピンチで救援登板。田中賢選手とドレイク選手から2者連続三振を奪って痺れる場面を抑え、見事な火消しを披露した。9月7日の北海道日本ハム戦でも、2点リードで迎えた5回裏、2死3塁の場面から登板し、一発が出れば同点というピンチを招くものの、1回1/3を無失点。かつての本拠地・東京ドームで3年ぶりの白星を挙げる。

7日の試合後のインタビューでは、「ヒーローは僕じゃないと思う。(2死1,3塁でレアード選手の大飛球を好捕した)聖澤に抑えてもらった」、「毎度毎度マウンドに上げていただける幸せをかみ締めながらやるだけ」と語り、控えめなキャラクターでもファンを沸かせるなど、楽天というチームにおいてその存在感は日増しに大きくなっている。

150キロを超える剛速球はないものの、多彩な変化球を武器に、プロ野球界を15年間渡り歩いてきた久保投手。2度目の戦力外を受け、楽天からテスト合格を告げられた日は、まだ野球を続けられるという喜びに涙を耐えられなかった。8月9日のお立ち台で、夏休みの子どもたちに向けて語った「諦めなければきっといいことがある」という言葉を裏付ける久保投手の姿は、プロのプレイヤーが目指すべき1つの理想かもしれない。

戦力外通告、トライアウトを経験し、さらに磨きのかかったいぶし銀の投球は、楽天救援陣にとって大きなスパイスになる。4年ぶりのクライマックスシリーズ進出を目指すチームにおいて、今後も彼の投球がカギになることは間違いないだろう。

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