競争激しい売り子の世界「プレッシャーを感じることもあります」
ペナントレースも全試合が終わった2018年のプロ野球。13日からはクライマックスシリーズ(CS)が始まり、CS突破、そして日本一を目指す戦いが行われている。そんなプロ野球の各球場を彩る“華”が各ビールメーカーの売り子たち。一見華やかに見えるが、連日10キロを超えるビールのタンクを背負い、階段ばかりの球場内を歩き回る過酷な仕事。肉体的な厳しさはもちろん、売り子の間での競争、売上を伸ばすための創意工夫など、トップ売り子たちほど苦労と努力を重ねている。
リーグ2位に終わり、2年連続日本一に向けてCSでの下克上を狙う福岡ソフトバンクホークスが本拠地とするヤフオクドームでも、売り子たちの熱き戦いが連日繰り広げられてきた。ヤフオクドームではアサヒビール、キリンビールの2社が展開しているが、その売り子さんたちは登録制となっており、登録者数は両メーカー合わせて500人近い数にも上る。
1試合で、球場内でビールを売ることができるのは約100人ほど。トップクラスの売り子となれば”常連さん”と呼ばれる固定客もいるが、それでも、球場内では売り子同士での顧客の奪い合いとなる。弱肉強食の競争を生き抜くビールの売り子たち。「福岡発 売り子名鑑2018」では、厳しい世界を勝ち抜くトップクラスの売り子たちの苦労と苦悩、努力を紹介していく。
第4回はキリンビールの「こころ」さん。
大学生となってからデビューする売り子が多い中、「こころ」さんは高校2年生でこの世界へと飛び込んだ。「バイトを探しているときに制服が可愛いバイトを探していて、たまたま売り子が出てきて、気になって応募しました」。まだ19歳だが、今季で4年目を迎え、売り子の世界ではベテランだ。
やはり他の売り子と同じく、始めた当初は苦労の連続だったようだ。10キロを超えるタンクを背負い、試合開始1時間半から2時間前の開場から試合終了まで5、6時間はドーム内を常に歩き回ることになり「入ってみたら、意外とキツイなという印象でしたね。体力もそうですし、最初は売り方も分からないですし…。仕事をしている中で、1番キツかったのは、お客様に『邪魔だよ』と言われた時。それはやっぱり傷つきました…」という。
「最初は4年も続けるとは思っていなくて、1年か2年で終わるかなと思っていました」というが、気づけば、4年目も終わろうとしている。「お客さんがみんなでワーッと盛りがっているところとか、雰囲気を一緒に楽しめるところが楽しくて。あとは、同じ人が買ってくれて常連さんになってくれたりすることもありますし。それが1番嬉しいですね。『次の試合も来るから(シフトに)入ってね』と言われると、入ろうという気持ちになります」。懇意にしてくれるお客さん、ファンの存在が支えになっている。
そんな「こころ」さんだが、ちょっとした売り子界の“あるある”を語ってくれた。老若男女問わず、毎試合3万人前後のファンが訪れるヤフオクドームだが、それぞれの売り子によって、売れる客層のタイプは異なるのだという。「お客さんとの相性というのがあって、こういうタイプのお客さんには売れる、売れないというのがあるんです。若い男性に買ってもらえる方、どちらかというと年配の方に買ってもらえる方、女性に買ってもらえる方とか、周りの売り子さんを見ていても、そう感じます」。
日々、競争の中で働いているだけに、プレッシャーも尽きない。「売れる素質のある子は1年目から1位、2位を取るような子もいますし、後から入ってきた子でも売れる子がいると、ヤバイ、どうしようとプレッシャーを感じることはあります」という「こころ」さん。では、人気の売り子の素質とは、どこにあるのか。「その子が可愛いとかの外見もありますけど、売り方もあると思います。状況判断だったり、タイミングやお客さんの飲むスピードも把握しながらやっています」。体力も必要な仕事だが、頭も使わなければ、結果には繋がらない仕事のようだ。
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