大学3年生でデビュー、1年目には足首捻挫の怪我も
ペナントレースも終わりが近づいてきた2018年のプロ野球。ここからはポストシーズンに突入し、日本一を目指した短期決戦がスタートする。そんなプロ野球の各球場を彩る“華”が、各ビールメーカーの売り子たち。一見華やかに見えるが、連日10キロを超えるビールのタンクを背負い、階段ばかりの球場内を歩き回る過酷な仕事。肉体的な厳しさはもちろん、売り子の間での競争、売上を伸ばすための創意工夫など、トップ売り子たちほど、苦労と努力を行っている。
2年連続のリーグ優勝を狙う福岡ソフトバンクホークスが本拠地とするヤフオクドームでも、売り子たちの熱き戦いが連日繰り広げられてきた。ヤフオクドームではアサヒビール、キリンビールの2社が展開しているが、その売り子さんたちは登録制となっており、登録者数は両メーカー合わせて500人近い数にも上る。
球場内でビールを売るのは100人ほど。トップクラスの売り子となれば“常連さん”と呼ばれる固定客もいるが、それでも、球場内では売り子同士での顧客の奪い合いとなる。弱肉強食の競争を生き抜くビールの売り子たち。「福岡発 売り子名鑑2018」では、厳しい世界を勝ち抜くトップクラスの売り子たちの苦労と苦悩、努力を紹介していく。
第3回はアサヒビールの「かんな」さん。
現在、県内の大学に通う4年生の「かんな」さん。売り子を始めたのは昨季、大学3年生だったという。大学進学を機に始める売り子が多い中、遅いデビューといえる。「実家も学校も近くなかったので諦めていたんです。でも、テレビでまゆこさんを見て、本当は私こういうのがやってみたいんじゃないかと思い、始めました」。かつてヤフオクドームで“伝説の売り子”とされた「まゆこさん」の姿に刺激を受け、売り子界に身を投じた。
ただ、売り子の仕事は一朝一夕で易々とこなせるほど、甘くはなかった。「最初は本当にキツくて、こんなことを笑顔でやれるって凄いなと思っていました。樽の重さと階段の登り降りがとにかくキツかったです」。1年目の昨季には、ドーム内の階段を踏み外し、足を捻挫したことも……。「その後1か月くらい売り子できなくなりました。豪快にコケて、担架に運ばれて……」。これだけでも決して楽な仕事ではないことが分かる。
「お客様だけじゃなく、他の売り子さんやお世話になっている全ての人に笑顔で接することを心がけています」。肉体的にも厳しい仕事ではあるが、常に笑顔を心がけているという「かんな」さん。働く中でのプレッシャーもあるという。「去年は新人だったので、とにかくやってみよう、で良かったんですけど……。2年目になって、新しい子が入ってきて、自分より下の子で売れる子が怖くて……。プレッシャーですね。新人の子に負けているんだ、と」。毎日、販売杯数のランキングが出されるため、イヤでも、競争心を煽られる。
働き始めて、2年が終わろうとしている。最高成績は今季マークした204杯だ。売り上げが上がるようになったキッカケ、コツはあるのだろうか? 「お客さんの流れとか、球場を見渡すようにはなりました。状況判断というのがすごく大事だなと思いますね。売っている人はちゃんと考えているんです」。競争社会で生き残る売り子たちは、それだけ考え、努力をしている。
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