フルイニング出場に「いい疲れです」
6日、現役最後の試合と引退セレモニーを終えた福岡ソフトバンクの本多雄一内野手が、自らが主役となった1日を振り返った。試合後の会見と報道陣の囲み取材を含めて、本多の言葉をまとめてみよう。
会見の冒頭ですべてを終えた感想を求められた本多は「今朝、球場に入った時から今に至るまで、いろんな思いはあるんですけど、みなさんに支えてもらって野球ができていたんだなと思います」と切り出した。
――――――――――――
1回裏の最初の打席では、まだベンチにいる段階から登場曲「何度でも」のイントロが球場内に響いた。「普段と曲が流れるタイミングが違っていて、自分でもそう願っていましたし、周りの方の考えや協力もあって、すごく自分を目立たせてもらってありがたかったです」と話す。
3回裏、本多の第2打席は四球での出塁。直後、上林誠知の初球で二塁へ向けて素晴らしいスタートを切ったものの、その初球がまさかの死球となり、盗塁は記録されないまま終わった。
「13年間であんなにいいスタートを切ったことなかったんですけど……。誠知、よけろよって(笑)。でも、ああやってスタートを切れたことが良かったと思います。走っている間のファンの声援も聞こえました」
囲み取材中にたまたま上林が通りかかると、本多は「避けんか! お前!」と笑いながら一喝。上林は「いいスタートだと思ったんですけど、次の瞬間『うわっ!』て(ボールが当たって)。あれは避けられません。まだ(死球を受けたところが)真っ赤なんですよ」と必死に弁解し、報道陣の笑いを誘った。
4回裏の3打席目こそ三振に倒れたが、5回表にはこの日初めての守備機会が訪れた。平凡なセカンドゴロだったが、本多が打球をさばくだけで歓声が起こった。そして4打席目の三塁打、最終打席の二塁打ではヤフオクドームが大歓声に包まれた。
「13年間ここでやらせてもらって、あれだけの歓声は本当に初めて。ヒットを打った後の塁上での歓声は、もう一生忘れることはないと思います。ファンの皆さんにあれだけの声援をいただけたので、今日はそれを噛みしめる1日になったと思います」と、改めて温かい声援をくれたファンに感謝した。
3回裏と8回裏には二塁から三盗に挑むチャンスもあった。しかし「そこまですると失礼だと思って。ともに引退試合を戦ってくれた埼玉西武球団にも感謝したいです」ときっぱり。さらに「(8回に二塁打を放った相手)今井君もストレートで勝負してくれた」と、埼玉西武の2年目右腕に感謝した。結局盗塁はできなかったが「三塁打と二塁打で思いっきり走れましたから」とスッキリとした表情を浮かべた。
3日の引退会見では「最後は試合を楽しみたい」と語っていた本多。「最後は思い切り楽しんでと言われたので、そうやらせてもらいました」と、望み通りに心から最後のゲームを楽しんだようだ。「久々にフルイニング出場したので、いい疲れです」と清々しい笑顔を見せていた。
セレモニー演出に「最後に子どもは卑怯だろ、と」
引退セレモニーの冒頭は、この日のために作られたオリジナルのビジョン映像が流れた。数々の好プレーや節目の盗塁シーンに続き、王貞治会長をはじめとするメッセージが流れると、すでにファンの涙腺は崩壊寸前になっていたことだろう。
あらゆる人への感謝を述べた挨拶を終えると、王会長、工藤公康監督、同期の松田宣浩から花束を受け取った。松田との場面を振り返り「13年間本当にありがとう、一緒にやってこれて良かったということを言ってもらいました。その言葉の中にすごい思いが詰まっているように感じました。なかなか泣かない松田選手が泣いていたことに自分も感動して、同期で入って本当に良かったなと思います」と感慨深げな表情を浮かべた。
最後は2人の愛娘が花束をもって駆け寄り、“大好きなパパ”にメッセージを贈った。
「特別な思いがありました。最後に子どもは卑怯だろ、と。でも、娘がああやって振り絞って言葉をかけてくれた。娘なりに『パパすごい』と感じてくれたと思います」
登録抹消中やリハビリで同じグラウンドに立てなかった仲間たちも、記者席やスーパーボックスから試合を見守っていた。それらの選手もユニホーム姿でセレモニーに参加し、本多と固い握手やハグを交わした。
「連絡もなく選手の方々が来てくれて、セレモニーが終わって初めて顔を目にして、本当に自分(本多)のことなのに、自分の時間を割いて見に来てくれる気持ちが本当にうれしいですし、顔を見るだけで感動します。ともに戦えたからこそ、そういう思いが出てきたと思います」
場内一周をした後は仲間たちからの胴上げ。セカンドの守備位置付近で松田の音頭で外野方向を向いて10回宙に舞うと、最後は仲間たちとの記念写真に収まった。そこですべてが終了の予定だったが、報道カメラマンたちから胴上げが外野向きだったので表情が撮れていないと、思わぬ「もう1頂!」コールがかかった。これに最初に応えてくれたのも松田だった。ベンチ方向に先に帰りかけた本多を呼び戻し、ホームベース方向を向いてのアンコール胴上げが実現した。
「いい1日になりました。ありがとうございました」
最後も報道陣に丁寧に感謝の言葉を告げた。
誰からも愛された本多雄一。最後の1日を最高の形で締めくくれたのは、きっと野球の神様からも愛されていたからだろう。
(藤浦一都 / Kazuto Fujiura)
記事提供: