MLBの記録専門サイト「Baseball Reference」が発表するWAR数値
先ごろ、大谷翔平はシーズン終了とともにトミー・ジョン手術を受けて、2019年は投手としては全休、野手としてのみ出場すると発表された。これで大谷翔平の身の振り方は決まったわけだが、シーズン最終盤になって「新人王」の可能性が取りざたされるようになった。
「二刀流」の大谷は、打席数、投球回数とも「一刀流」の選手よりも少なくなる。これが賞やタイトルには不利に働くと思われたが、投手が「休業」状態になり、打者としての出場が増えたこともあり、新人王の可能性が現実を帯びてきた。
セイバーメトリクスにWAR(Wins Above Replacement)という指標がある。その選手が代替可能な選手に比べてどれくらい勝利を生み出すかの指標。攻撃、守備、投球面のあらゆる数字を加味して複雑な計算式で算出する。この数値が高いほど優秀な選手とされる。
WARは投手や異なるポジションの野手も同一の基準で比較できるのが特色だ。MVPや新人王投票の重要な指標となっている。WARは数社が独自の計算式で算出しているが、MLBの記録専門サイト「Baseball Reference」が発表した今年のア・リーグの新人王有資格者のWARのランキングを見てみよう。
100試合以上出場した新人王有資格者のWARランキング
ウェンドル(レイズ) 4.4 (136試477打143安7本58点15盗 打率.300)
トーレス(ヤンキース) 3.0 (119試415打114安23本73点6盗 打率.275)
大谷翔平(エンゼルス) 2.7 (101試315打89安22本59点9盗 打率.283)
アンドゥハー(ヤンキース) 1.9 (145試556打164安26本87点2盗 打率.295)
カイナーファルファ(レンジャーズ) 1.6 (109試348打92安4本33点7盗 打率.264)
グッドラム(タイガース) 1.4 (127試428打103安16本49点12盗 打率.241)
ガズマン(レンジャーズ) 1.0 (119試376打89安16本57点1盗 打率.237)
ガーバー(ツインズ) 0.7 (100試293打76安7本39点0盗 打率.259)
パルカ(ホワイトソックス) 0.5 (120試404打96安27本66点2盗 打率.238)
レイズの二塁手ウェンドルが1位、大谷は3位につけている。最多の26本塁打を打っているヤンキースのアンドゥハーは4位。アンドゥハーは三塁手だが、15失策と守備に難がある。このため攻撃面のWAR(oWAR)は4.3だが守備面のWAR(dWAR)が-2.2。合算してこの数字になっている。
大谷はDHで守備には就かない。このこともあって、WARが高くなっている。エンゼルスは27日時点で残り3試合だが、活躍すればWARは積みあがる余地がさらにある。ただ、野手のWARだけを見れば、大谷は3、4番手というところだ。しかし、大谷には投手のWARの加算が考えられる。
投手+野手でのWARは4.0となり2位の数字になる大谷
ア・リーグで50回以上投げた新人王有資格者のWARランキング。
ケラー(ロイヤルズ) 3.6 (41試9勝6敗0SV 140.1回 防御率3.08)
バリア(エンゼルス) 2.4 (25試10勝9敗0SV 124.2回 防御率3.54)
ボルッキ(ブルージェイズ) 1.6 (16試4勝5敗0SV 91回 防御率3.76)
ベラスケス(レッドソックス) 1.5 (46試7勝2敗0SV 83.1回 防御率3.24)
トリビーノ(アスレチックス) 1.5 (67試8勝3敗4SV 72回 防御率3.00)
ジョンソン(レッドソックス) 1.4 (37試4勝4敗0SV 96.1回 防御率4.11)
スタネック(レイズ) 1.4 (58試2勝3敗0SV 64.1回 防御率3.08)
大谷翔平(エンゼルス) 1.3 (10試4勝2敗0SV 51.2回 防御率3.31)
ビーバー(インディアンス) 1.0 (20試11勝5敗0SV 114.2回 防御率4.55)
ヤーブロー(レイズ) 0.8 (37試15勝6敗0SV 144.1回 防御率3.93)
ヘス(オリオールズ) 0.4 (20試3勝10敗0SV 96.1回 防御率5.14)
アンダーソン(エンゼルス) 0.4 (57試3勝3敗4SV 55.1回 防御率4.07)
シンバー(インディアンス) 0.1 (69試3勝8敗0SV 67回 防御率3.49)
ガ―マン(ヤンキース) 0 .0(20試2勝6敗0SV 84.1回 防御率5.55)
スミス(ロイヤルズ) -1.1 (37試1勝6敗0SV 76回 防御率6.75)
ロイヤルズで先発、救援で活躍するケラーが1位。大谷は投球イニング数が少ないこともあって、1.3で8位だ。しかし野手のWAR2.7と投手のWAR1.3を加算すると4.0になる。これはレイズのウェンドルに次いで2位だ。
WARは野手、投手ともに同じ基準で比較できるのが最大のメリットだ。投手のWARには打撃の要素oWARも含まれている。しかし、これまでの投手のoWARはないに等しい数字だった。大谷のように打撃でも投球でもしっかり数字を残した選手はベーブ・ルースの時代までさかのぼらなければならない。
「Baseball Reference」は過去の時代のWARまでさかのぼって算出している。ベーブ・ルースは13勝し11本塁打で本塁打王になった1918年、投手としてはWAR2.3、打者としてはWAR4.7を記録している。大谷の「二刀流」はまさに歴史的といえるが、新人王は記者投票だ。記者が「二刀流」のWARをどう評価するかで、決まってくるだろう。投票結果に注目したい。
(広尾晃 / Koh Hiroo)
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