オールスターブレイクを経てシーズンは後半戦に突入した。ペナントレースの行方とともに予断を許さないのが個人成績とタイトル争いで、アウォード受賞の候補者も徐々に絞られてきている。今季のこれまでの戦いを振り返ると、ルーキーの活躍が目立つ。多くのトピックを提供する彼らの誰が新人王に輝くのかも、終盤戦で見逃すことはできないポイントだ。
※成績は全て8月9日終了時のもの
パ・リーグ新人王レース最大のインパクトにしてサプライズは源田選手(埼玉西武)の台頭だろう。開幕前から評価を集めたショートの守備での貢献度は群を抜き、課題とされていた打撃でも打率.274と及第点で、長打率.359、出塁率.328でもリーグ平均とほぼ変わらない数値を維持している。球団新人記録を更新するリーグトップの28盗塁を含めた総合的な攻撃力は水準以上と言えるし、2番打者に定着して17犠打も決めるなど、強力打線の中でしっかりと与えられた役割を果たしてきた。
1年目にしてオールスター初選出を果たした、オリックスの2016年ドラフト1&2位コンビの献身も見逃せない。山岡投手は4勝7敗と援護に恵まれず黒星が先行しているが、前半戦の防御率2.54はリーグ5位と堂々の成績だった。セットアッパーに定着した黒木投手はリーグ3位タイの28HPをマークするなどタイトルも狙える位置にいて、後半戦の頭には抑えを任されるほどの信頼をつかみ取っている。そして、5月末から先発に定着し、縦に大きく曲がるカーブを武器に奪三振と白星を順調に積み重ねる石川投手(福岡ソフトバンク)も名乗りを挙げている状況だ。
他方、セ・リーグに目を向けると、京田選手(中日)もルーキーながら内野の要であるショートのポジションを勝ち取った。打率.284は両リーグの150打席以上の遊撃手12人中4位で、長打率.367と出塁率.314はリーグ平均をやや下回るが、6月からはリードオフに定着してリーグ2位の19盗塁も決めている。1998年の川上氏の受賞以来、12球団では最も遠ざかっているチームだけに、新人王の誉れを持ち帰りたいところだ。
その投球フォームと同様、勢いを見せていたのが濵口投手(横浜DeNA)だ。前半戦はチーム最多の6勝を挙げ、規定投球回にはわずかに届かずも、防御率3.16の安定感を見せた。奪三振率は10.29のハイレベル。先発投手で9イニングスあたりの三振数が10を超えていたのは、両リーグでも他に則本投手(楽天)しかいなかった。柳投手(中日)と星投手(東京ヤクルト)はブルペンからのシーズンスタートだったが、現在は先発ローテーションの一角を担い、後半戦の成績次第ではダークホースにもなれそうだ。
シーズンを通じての成績が考慮される新人王を受賞するには、もちろん前半戦である程度の数字を残しておく必要がある。それでは、前半戦終了時点でどの程度の成績が求められるのだろうか。1997年以降の過去20年で、最優秀新人に選ばれた39人が残した数字を振り返る。
※所属は当時で、成績の後の()はシーズン通算成績
【パ・リーグ新人王前半戦成績(1997年以降)】
1997年 小坂誠氏(ロッテ) 打率.276 0本塁打 15打点 30盗塁(打率.261 1本塁打 30打点 56盗塁)
1998年 小関竜也氏(西武) 打率.291 1本塁打 12打点 6盗塁(打率.283 3本塁打 24打点 15盗塁)
1999年 松坂大輔投手(西武) 9勝4敗 116回 防御率2.48(16勝5敗 180回 防御率2.60)
2000年 該当者なし
2001年 大久保勝信氏(オリックス) 28試合 3S -HP 防御率1.96(53試合 14S -HP 防御率2.68)
2002年 正田樹投手(日本ハム) 2勝4敗 62.1回 防御率2.89(9勝11敗 156.2回 防御率3.45)
2003年 和田毅投手(福岡ダイエー) 9勝3敗 112.1回 防御率2.72(14勝5敗 189回 防御率3.38)
2004年 三瀬幸司氏(福岡ダイエー) 33試合 15S -HP 防御率2.66(55試合 28S -HP 防御率3.06)
2005年 久保康友投手(千葉ロッテ) 8勝1敗 80.1回 防御率2.35(10勝3敗 121.2回 防御率3.40)
2006年 八木智哉投手(北海道日本ハム) 8勝4敗 107.2回 防御率2.52(12勝8敗 170.2回 防御率2.48)
2007年 田中将大投手(楽天) 7勝4敗 106.1回 防御率3.81(11勝7敗 186.1回 防御率3.82)
2008年 小松聖氏(オリックス) 7勝3敗 107回 防御率2.69(15勝3敗 172.1回 防御率2.51)
2009年 攝津正投手(福岡ソフトバンク) 42試合 0S 26HP 防御率1.97(70試合 0S 39HP 防御率1.47)
2010年 榊原諒氏(北海道日本ハム) 17試合 0S 6HP 防御率2.27(39試合 0S 16HP 防御率2.63)
2011年 牧田和久投手(埼玉西武) 17試合 3S 0HP 防御率2.62(55試合 22S 4HP 防御率2.61)
2012年 益田直也投手(千葉ロッテ) 42試合 0S 25HP 防御率2.36(72試合 1S 43HP 防御率1.67)
2013年 則本昂大投手(楽天) 8勝6敗 107.2回 防御率3.26(15勝8敗 170回 防御率3.34)
2014年 石川歩投手(千葉ロッテ) 6勝4敗 100回 防御率2.88(10勝8敗 160回 防御率3.43)
2015年 有原航平投手(北海道日本ハム) 4勝3敗 41回 防御率5.93(8勝6敗 103.1回 防御率4.79)
2016年 高梨裕稔投手(北海道日本ハム) 5勝2敗 49.2回 防御率1.63(10勝2敗 109.2回 防御率2.38)
【セ・リーグ新人王(1997年以降)】
1997年 澤崎俊和氏(広島) 7勝3敗 84.2回 防御率3.83(12勝8敗 156.1回 防御率3.74)
1998年 川上憲伸氏(中日) 8勝3敗 87.2回 防御率2.46(14勝6敗 161.1回 防御率2.57)
1999年 上原浩治投手(巨人) 12勝3敗 119.2回 防御率1.81(20勝4敗 197.2回 防御率2.09)
2000年 金城龍彦氏(横浜) 打率.392 2本塁打 17打点 1盗塁(打率.346 3本塁打 36打点 8盗塁)
2001年 赤星憲広氏(阪神) 打率.278 0本塁打 17打点 15盗塁(打率.292 1本塁打 23打点 39盗塁)
2002年 石川雅規投手(ヤクルト) 5勝5敗 77.1回 防御率3.72(12勝9敗 178.1回 防御率3.33)
2003年 木佐貫洋氏(巨人) 5勝3敗 100回 防御率2.79(10勝7敗 175回 防御率3.34)
2004年 川島亮氏(ヤクルト) 5勝3敗 91.1回 防御率3.55(10勝4敗 139.1回 防御率3.17)
2005年 青木宣親選手(ヤクルト) 打率.328 1本塁打 15打点 21盗塁(打率.344 3本塁打 28打点 29盗塁)
2006年 梵英心選手(広島) 打率.283 5本塁打 23打点 6盗塁(打率.289 8本塁打 36打点 13盗塁)
2007年 上園啓史氏(阪神) 2勝2敗 30回 防御率3.00(8勝5敗 85.2回 防御率2.42)
2008年 山口鉄也投手(巨人) 43試合 1S 19HP 防御率2.31(67試合 2S 34HP 防御率2.32)
2009年 松本哲也選手(巨人) 打率.328 1本塁打 15打点 21盗塁(打率.293 0本塁打 15打点 16盗塁)
2010年 長野久義選手(巨人) 打率.292 15本塁打 40打点 11盗塁(打率.288 19本塁打 52打点 12盗塁)
2011年 澤村拓一投手(巨人) 5勝7敗 105.1回 防御率2.22(11勝11敗 200回 防御率2.03)
2012年 野村祐輔投手(広島) 7勝3敗 102回 防御率1.41(9勝11敗 172.2回 防御率1.98)
2013年 小川泰弘投手(東京ヤクルト) 10勝2敗 99.2回 防御率2.62(16勝4敗 178回 防御率2.93)
2014年 大瀬良大地投手(広島) 6勝4敗 88回 防御率4.19(10勝8敗 151回 防御率4.05)
2015年 山﨑康晃投手(横浜DeNA) 39試合 24S 8HP 防御率1.67(58試合 37S 9HP 防御率1.92)
2016年 高山俊選手(阪神) 打率.270 2本塁打 31打点 4盗塁(打率.275 8本塁打 65打点 5盗塁)
ポジション別で見ると39人中30人が投手で、1999年以降は毎年ピッチャーが受賞している。さらに役割で区分けすると、投手30人のうち先発は22人、救援が8人だった(2011年に10先発、45救援した埼玉西武の牧田投手は救援でカウント)。
野手9人は内野手が3人、外野手が6人だが、今季は両リーグで内野手――それも、最も重要なショートのポジションで――の新人王が生まれる可能性もある。今季の新人王本命2人は名前の響きが似ているだけでなく、入るバッターボックスも同じ。その数6人と過半数を上回っている左打ちの受賞者は、さらに増えることになりそうだ(両打ちの打者は1人で、希少なサウスポーは6人のみ)。
投票で決まる新人王は他の候補者の成績が引き合いとなるため、よほど図抜けた成績を残さなければ前半戦終了時点の成績で「当確」は灯らないが、過去の受賞者を見るとある程度の「基準」は浮かび上がってくる。
先発投手であれば「2桁勝利」をマークし「規定投球回」に到達して「防御率4点未満」に収めるのが新人王獲得への近道だ。先発での受賞者22人のうち15人が3つの要素を満たしていて、正田氏と野村投手は9勝にとどまったが防御率で10傑入りしている点で光っていた。3要素を1つ以下しかクリアせず、新人王に輝いた先発投手は2人しかいない。
特筆すべきは前半戦終了の時点で「2桁勝利」に到達していた上原投手と小川投手で、野村投手は15先発して自責点わずか16の快投を披露していた。後半戦に大車輪の活躍を見せたのが石川投手で、上記の投手では唯一100イニングス以上に達して7勝を上積んでいる。
表以外では川越英隆氏(1999年・オリックス)、吉見祐治氏(2002年・横浜)、岸孝之投手(2007年・西武)、岩田稔投手(2008年・阪神)、菅野智之投手(2013年・巨人)、高木勇人投手(2015年・巨人)が3つの要素を満たしていたが、他選手との兼ね合いで最多得票を得ることはできなかった。
先発投手の受賞者22人の前半戦終了時点でのアベレージをとると「6.6勝、89.8回、防御率3.29」で、これに最も近い成績を残していたのが濵口投手だ。先述のように、濵口投手は奪三振率が図抜けて高いが、こうした投球の「内容」よりも、分かりやすい「結果」が投票で優位に働く傾向にある。ただ、前半戦終了前に肩の違和感により登録を抹消され、後半戦のマウンドにはまだ立っていないだけに、早めの復帰が望まれるところだ。
救援投手は8人中7人がシーズン「50登板」を果たしており、6人が「20セーブもしくは30HP」をマークしている。14セーブを挙げた大久保氏の新人年はホールドが制定されていなかったが、前半戦は最長4イニングをこなしたタフネスで、現行のルールであればセーブ+HPは優に30を上回っていた。チームの勝ちを演出する起用法を勝ち取ることが、リリーフ投手にとっての前提条件だ。
勝敗と隣り合わせのポジションでは、要求されるレベルも高くなるのは受賞者8人の防御率を見れば一目瞭然だ。8人のうち7人が「防御率3点未満」で、唯一3点を超えた三瀬氏もリーグ全体の防御率4.68を考慮すれば、かなり低い数値を残していた(当時は20登板以上で防御率1点台以内の投手が両リーグに1人しかいない、打高投低が顕著な年だった)。
岩瀬仁紀投手(1999年・中日)や高橋朋己投手(2014年・埼玉西武)のように出色の成績を残しても、他に優れた先発投手がいれば印象が薄れるのは新人救援投手の宿命だ。しかし、攝津投手のように、1年目からタイトルを獲得できれば箔も付く。この点では、今後の黒木投手の起用法とともに、どれだけHPを稼ぐことができるかに注目したい。
野手の受賞者9人に目を向けると、走攻守で貢献できるタイプの選手が多い。打撃では、打率がリーグ平均を上回っていたのは8人いたが、長打率と出塁率の両方で平均値をクリアしたのは4人だった。この傾向から鑑みて「総合的な打力」よりも「ヒットを打った確率」の高さが、アピールにつながると言えそうだ。
小坂氏は打率、長打率、出塁率のいずれもリーグ平均に及ばなかったが、三振と同じ数の四球を選んだ。何より新人史上最多となる56盗塁を記録し、出色の遊撃守備が受賞の決め手だったと思われる。見劣りする打力を余りある走力と守備力でカバーする点で、源田選手は当時の小坂氏に近い存在だ。より攻撃的なショートである京田選手は、梵選手の残した打撃成績に近付ければ新人王が見えてくるのではないか。
京田選手は現在、セ・リーグ最多の8三塁打を記録しており、梵選手も新人年にリーグで最も多い三塁打を放っていた。部門別のリーダーであったり、ゴールデングラブやベストナイン級の活躍を見せることも新人王受賞を後押しする。実際、野手での受賞者9人のうち6人がその該当者だ。
前半戦終了時点で打率3割を超えていた選手はほとんどが後半戦で大きく数字を落としているが、3割未到達の選手は後半戦も大きな誤差なく終えているのが野手受賞者の特徴だ。源田選手と京田選手の走守での貢献は申し分ない。それだけに、両者とも打撃で波を作らないことがポイントとなりそうだ。
本命視されている選手が新人王に輝くのか、意外な選手の急追はあるのか。ルーキー豊作年の秋の収穫を楽しみに待ちたい。
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