ラガーマンでありホークスファンの僕の心に刺さった、和田毅の言葉 【東京サントリーサンゴリアス・下川甲嗣選手インタビュー】

パ・リーグ インサイト 海老原悠

2025.12.17(水) 18:00

東京サントリーサンゴリアス・下川甲嗣選手【写真:チーム提供】
東京サントリーサンゴリアス・下川甲嗣選手【写真:チーム提供】

 プロ野球はオフシーズンに入ったが、冬にシーズンインするというスポーツも少なくない。ラグビーの国内トップリーグ「リーグワン」もそのひとつ。そこで今回はラグビー界屈指のプロ野球ファンである、東京サントリーサンゴリアスの若手フランカー・下川甲嗣選手に、プロ野球の思い出やリーグワン開幕への意気込みを聞いた。ラグビー日本代表での活躍も期待される下川選手が語る“ホークス愛”に注目あれ。

◇ ◇ ◇

松中信彦の満塁ホームランに魅せられて

――幼少期からプロ野球、特にホークスファンだったとのことですが、その頃の野球観戦の思い出をお聞かせいただけますか?

僕が野球好きになったのは、地元にホークスという球団があったことが大きいです。実家がヤフードーム(現みずほPayPayドーム福岡)から自転車で10分ほどの距離にあったので、身近な存在でした。家では平日でも毎日、夕方遊びから帰ってきたら6時のプレイボールに間に合うようにテレビで見ていましたね。現地で見たなかで一番記憶に残っているのは、2011年の「パ・リーグクライマックスシリーズ ファイナル」第2戦、ホークス対ライオンズの試合です。8回裏、二死満塁の場面で、松中信彦選手がルーキーだった牧田和久投手から満塁ホームランを打ったんです。それをバックネット裏で見ていたのを鮮明に覚えています。

―― それはすごいシーンをご覧になりましたね。その頃は野球観戦のどんなところに魅力を感じていましたか?

小学生の頃に感じていた観戦の魅力といえば、皆で応援歌を覚えて歌うことですかね。ホークスだけでなく、当時はマリーンズの応援がかっこいいとみんなで言っていて、西岡剛選手や今江敏明選手、福浦和也選手のチャンステーマは僕らのなかで鉄板でしたね。

―― いまだに名曲と評判のチャンステーマですね。おとなになってからは、野球に対する見方は変わりましたか?

はい、中学や高校で硬式野球を始めた友人たちが変化球を使い分けるようになって、見方が変わりました。三振だけでなく、変化球で相手を打たせて取る技術や球種に注目するようになりました。ラグビーはテンポが速く、基本的にプレーが止まらないのに対し、野球はピッチャー対バッターの間に「間」や「駆け引き」「牽制」といった、ラグビーにはない要素があって面白いと感じています。

観戦する下川選手(写真右)【写真:下川選手提供】
観戦する下川選手(写真右)【写真:下川選手提供】

―― ラグビーは、試合中に戦術を変えることは少ないのでしょうか?

ラグビーの戦術や相手の分析は、基本的に試合前に全て完結させます。もちろん相手に対応するために戦術は毎試合変わりますが、試合が始まってからは事前に準備したことをぶつけ、想定外のプレーには対応していく必要があります。例えば、相手が今まで見たことのないサインプレーを突発的に行ってきた場合などですね。

―― イレギュラーな状況での指示役は、どのポジションの選手が担うのですか?

基本的には背番号10番のスタンドオフ(SO)の選手が務めます。スタンドオフは、サインプレーを決めたり、ゲーム展開を組み立てたりする役割で、常に周りを見て攻めるスペースを把握し、指示を出しています。初めてラグビーを見る方でも、首を振り、目を動かし、味方とコミュニケーションを取っている10番の動きに注目するとわかりやすいかもしれません。

意外な野球界とのつながり

―― 野球の話に戻ります。大学の先輩でもあるホークスの和田毅さんの著書『だから僕は練習する 天才たちに近づくための挑戦』を読まれたそうですが、どのような影響を受けましたか?

和田さんの本を読んだきっかけは、なぜここまで長く活躍できたのか知りたいと思ったからです。そして著書にあった『「人より優れていないこと」が、僕の優れているところ』という言葉に影響を受けました。和田選手は大学の時点でこういうことを思っていたからこそプロという道を自分で切り拓き、細かなことにこだわることや努力を続けられて長きにわたり活躍していたと思います。

僕と重ね合わせると、フランカーというポジションは外国人選手が多く、身体能力の差に悩んでいた時期があったのですが、プロになってこの本に出会ったことで大切なことを気づかせてもらい、あらためて尊敬する選手となりました。そして、「埋められない差がある選手を目指すのをやめて、今の自分にしかできないことをしよう」と決意したんです。

和田毅さんの著書『だから僕は練習する 天才たちに近づくための挑戦』【写真:下川選手提供】
和田毅さんの著書『だから僕は練習する 天才たちに近づくための挑戦』【写真:下川選手提供】

――具体的に、ご自身の強みとして何を磨かれたのでしょうか?

圧倒的なフィジカルやスピードがない分、僕の強みはボールを持っていない時のハードワークです。本当に細かい、誰でもできるようなところを頑張ろうという意識を大切にしています。和田さんは、スポーツは違えど「こういう選手になりたい」と思わせてくれた存在です。

―― 他に思い入れのある野球選手はいらっしゃいますか?

いまも手元にあるユニフォームには、ホークスの背番号2番・城島健司さんのユニフォームに自分の名前を入れていました。それから松中信彦さんがお気に入りの選手でした。初めて手に入れたユニフォームは、祖母に買ってもらった斎藤和巳さんのものだったと覚えています。「強い人がかっこいい」という小学生の感覚で好きになった選手たちですね。

現役の選手でいうと、北海道日本ハムの清宮幸太郎選手とは、彼が早稲田大学のラグビー部OB総会で父の清宮克幸さんに同行していた際に話す機会があったのですが、僕の名前を覚えてもらっていたことに感激しました。

それから、実は福岡ソフトバンクの廣瀨隆太選手は“はとこ”です。高校時代まで彼は東京、僕は福岡、現在は拠点が逆なので直接話をしたことがないですが……。大学野球には早慶戦がありますよね。僕の出身校の早稲田と慶應で対戦した際には、早稲田に勝ってほしい気持ちと、廣瀨選手に活躍してほしいという気持ちが入り混じっていました(笑)。ホークスに入団してくれたことはホークスファンとしても非常に嬉しいです。

下川選手私物のユニフォーム。左から息子さんの名前をプリントしたユニフォーム、息子さんサイズで作った下川選手の名前入りユニフォーム、廣瀬選手のユニフォーム【写真:下川選手提供】
下川選手私物のユニフォーム。左から息子さんの名前をプリントしたユニフォーム、息子さんサイズで作った下川選手の名前入りユニフォーム、廣瀬選手のユニフォーム【写真:下川選手提供】

――もしもの話になりますが……今のフィジカルを持ったまま野球選手になっていたら、どんな選手になっていたと思いますか?

下川選手:ラグビー選手としての頑丈な体の強さを活かして、キャッチャーになっていたと思います。ブロッキングでは負けないでしょう(笑)

――当然肩の強さもあるので、良いキャッチャーになれたのではないでしょうか(笑)

「今年は開幕戦に絶対に勝って自信をつけていきたい」

――今年8、9月に行われた「Pacific Nations Cup 2025」、10,11月に行われた欧州遠征に参加されましたが。国際大会での経験はご自身にどのような変化をもたらしましたか?

一つのミスが相手に得点のチャンスを与えてしまうほど、相手のミスを見逃さない高いレベルの試合でした。そこからも、細かいところにこだわることの重要性を感じました。フィジカル面と細部へのこだわりが国際試合を通じて学んだ課題で、試合を重ねるなかで調整しています。

――今シーズン、チームはどのように仕上がっていますか?

サンゴリアスには「PRIDE」「RESPECT」「NEVER GIVE UP」という3つのスピリッツがあり、グラウンド内外でそれに基づいた取り組みを続けています。技術だけでなくマインド面でも相手を上回る準備をしてきました。昨年は開幕前から勝てない時期が続きましたが、今年は開幕戦に絶対に勝って自信をつけていきたいと思っています。

【写真:チーム提供】
【写真:チーム提供】

――今年のサンゴリアスは、ニュージーランド代表でキャプテンの経験があり、オールブラックスで104キャップのサム・ケイン選手がチームキャプテンに就任。また、フランスのTOP14からテビタ・タタフ選手が帰還と話題満載です。彼ら経験豊富な選手からどのような影響を受けていますか?

ケイン選手は本当に細かいところにこだわりを持ってプレーしている姿勢に感銘を受けています。また、タックル後のブレイクダウンでの容赦ないフィジカルや、絶対にボールを渡さないという姿勢も非常に勉強になります。

――同じフランカーであるケイン選手ですが、ライバル意識は?

チームメイトであり、ライバルでもありますね。サンゴリアスでは、チーム内の競争が激しい時にチームレベルが高まり、優勝につながってきた歴史があるため、今年もチーム内でしっかりメンバー争いをすることが、チームと個人の両方を強くすると考えています。

タタフ選手については、圧倒的な凄さがあり、誰も真似できない唯一無二の存在。チームに勢いを与え、ピンチを防いでくれる選手だと思います。

【写真:チーム提供】
【写真:チーム提供】

―― その開幕戦ですが、今年はビジター戦から始まります。

開幕戦のリコーブラックラムズは、昨シーズン負けてしまったチームなので絶対に勝ちたいという思いがあります。相手のキーマンであるニュージーランド出身の9番(スクラムハーフ)TJ・ペレナラ選手がチームを勢いづけ、コントロールするキーマンになっているので、彼にプレッシャーをかけることが重要です。個人的にはセットプレー(スクラムやラインアウト)でボールを獲得し、チームに攻撃の機会を確保することが大切だと思います。

――そしてホスト開幕戦(味の素スタジアム)は12月20日トヨタヴェルブリッツ戦です。

トヨタヴェルブリッツも同じくゲームを組み立てる役割の9、10番のポジションにキーマンがいます。あとは姫野和樹選手にスティール(タックルの際に倒れた選手からボールを奪う技)の機会を与えないことがカギになります。

そして、その次のホストゲームは1月11日の第4節で、コベルコ神戸スティーラーズを迎えます。昨年3位の強豪で、今季ニュージーランド現役代表選手が2人加入し、日本代表の選手も擁するタレント揃いのチームです。自分たちはチャレンジャーだというところを忘れずに戦いたいです。

ホストゲームは、チームカラーである黄色のグッズを身にまとまったサポーターの方たちがスタンドを埋め尽くして応援してくださり、選手にとってもモチベーションが高まる瞬間です。皆さんのために勝ちたい、1年間体を張り続けたいという気持ちが強いですね。

【写真:チーム提供】
【写真:チーム提供】

―― 今シーズンの個人目標は。

もちろんチームの優勝が一番の目標です。そのために、個人的には「1試合でも多く試合でプレーをして、そのプレーでチームに貢献したい」ということを一番に掲げています。国際大会を経て残す課題としては、ディフェンスのタックル成功率を高い水準で維持していくこと。練習を重ねスタンダードのレベルを高めていきたいです。

―― 最後に、プロ野球ファンの皆さんへ、ラグビー観戦の魅力を伝えるメッセージをお願いします。

野球観戦では声を出して応援歌を歌うことに慣れていると思いますが、ラグビーは少し観戦スタイルが違います。プレーが続いている間は基本的に声を出しての応援はなく、プレーだけを見るというスタイルです。プロ野球ファンの方々には、ラグビーの「人と人がぶつかり合う鈍い音」という、野球の打球音や応援歌とは違った音の楽しみ方があることを伝えたいです。ルールは複雑ですが、最初は「ボールを使った格闘技を見に来た」くらいの感覚で、音やぶつかり合いから興味を持ってもらえればうれしいですね。

インタビュー・文 海老原 悠

下川甲嗣選手プロフィール
福岡・修猷館高校から早稲田大学へと進み、2021年にサントリーサンゴリアス(現東京サントリーサンゴリアス)に入団。「リポビタンDチャレンジカップ2022」ニュージーランド戦にて途中出場で日本代表初キャップを獲得し、その後も国際大会での活躍光る若手注目選手。ポジションはフランカー(FL)。

東京サントリーサンゴリアス ホストゲーム第2節、第4節特別優待
ホストゲームで東京サントリーサンゴリアスと下川選手を応援しよう!

対象試合:東京サントリーサンゴリアス ホストゲーム第2節、第4節
招待席種:ゴール裏B自由席下層(北/南)
引換上限枚数:1試合につき2枚まで招待、3枚目以降大人優待価格1,000円
優待販売席種:バックA自由席
大人2,000円 中高生1,500円 小学生無料
受付期間:第2節 2025年12月19日(金)23:59まで
第4節 2026年1月9日(金)23:59まで
https://ticketrugby.jp/campaign/sungoliath2025-26_hg_aji?ser=69z5wg1ch

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JAPAN RUGBY LEAGUE ONE(リーグワン)公式サイト
東京サントリーサンゴリアス 公式サイト

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