「早くユニホームを着たい。楽しみだし、ワクワクしている。“ジャイアンツの大田”というのは忘れてもらって、これからは“ファイターズの大田”として頑張る」。
2対2のトレードで北海道日本ハムファイターズへ加入した際、大田選手はこのように意気込みを語っていた。あるいはこの言葉は、苦しみ抜いてきた過去と決別し、未来を見据えていくという強い決意の表れだったのかもしれない。
未来のスター候補として将来を嘱望された存在だった。東海大相模高校時代からその素質は非常に高く評価され、2008年に福岡ソフトバンクとの競合を経て、ドラフト1位で巨人に入団。母校の大先輩である原監督(当時)からも高い期待をかけられ、かつて松井秀喜氏がつけていた背番号「55」を与えられた。
しかし、プロ入り後8年間での通算安打数は100本、通算本塁打は9本。高い身体能力を持ちながら、なかなかそれをうまく活かすことができず。背番号も2013年オフに「44」に変更されるなど、年齢を重ねるごとにチーム内での立場も徐々に厳しくなっていった。
だが、先述のトレードが大田選手にとって大きな転機となった。同じく獲得した公文投手と合わせて「右の大砲と左ピッチャー。喉から手が出るほど欲しかった」と、自身を高く評価している栗山監督のもと、大田選手はそのポテンシャルをついに開花させていく。
今季の開幕は故障で出遅れ、一軍昇格後しばらく打率が2割を下回っていたが、辛抱強く起用し続けた栗山監督の期待に応え、4月29日の楽天戦で待望の移籍後初本塁打を放つ。その試合から6試合連続で安打を記録するなど徐々に調子を上げていき、新天地でついにスタメンの座を手中に収めた。
大田選手は、その後も随所で印象的な活躍を披露する。5月12日の千葉ロッテ戦では、かつての本拠地・東京ドームで、プロ初となる1試合2本塁打を記録。1番に入った6月10日の巨人戦では、古巣相手にプロ入り後2度目となる初回先頭打者本塁打を放った。前半戦の時点で、過去8年の通算本塁打数を上回るシーズン10本塁打に到達。安打数もすでに60本と、こちらも今季1年のみで昨年までの8年間の合計を上回りかねない勢いだ。
ヘッドスライディングで内野安打をもぎ取る気迫溢れるプレーや、誠実な人柄が窺えるヒーローインタビューなどで、首脳陣のみならずファンの心も着実につかんでいる。まだまだ大田選手のプロ生活は続くが、周囲の高い期待に応え切れなかった“巨人の大田”は、もはや過去のものとなりつつある。ここからまたさらに調子を上げ、キャリアハイのシーズンをさらに素晴らしいものとしていけるか。まだまだその可能性は未知数な、“北海道日本ハムの大田”の挑戦はこれからも続いていく。
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