2013年日本シリーズMVPの覚醒。栄光も苦難も越えて、楽天・美馬投手が頂を目指す

パ・リーグ インサイト 望月遼太

2017.7.8(土) 00:00

パ・リーグ2位の楽天が誇る先発3本柱、則本投手、岸投手、美馬投手。彼らは3人だけで、すでに15個もの貯金を積み上げている。1人1人がエース級の働きを見せる彼らだが、昨季までの成績を鑑みれば、特にめざましい躍進を遂げたと言えるのが、今季の開幕投手を務めた美馬投手だろう。

美馬投手の今季の成績は、15試合112回1/3を投げて7勝2敗、83奪三振、防御率2.46。
リーグ3位タイの勝利数を誇り、4失点以上を喫したのは7月1日の福岡ソフトバンク戦のみ。それまでの防御率は1.79という数字だったのだから圧巻だ。

美馬投手は、2010年にドラフト2位で楽天に入団。1年目は中継ぎとして起用されて2勝を挙げたが、翌年から先発に転向、8勝10敗という成績を残す。プロ3年目の2013年には球団史上初のリーグ優勝の立役者の1人となり、日本シリーズでは2試合に先発して11回2/3を無失点。2勝をマークしてチームを日本一に導き、日本シリーズMVPにも輝いた。

しかし、その後のプロ野球人生は決して順風満帆とはいかなかった。右肘の故障に悩まされ、2014年と2015年は大きな負け越しを喫する。2015年には学生時代に何度もメスを入れた右肘に、4度目のクリーニング手術を施すことに。

高校時代に受けた靭帯移植手術を含めると5度目のリハビリを経て2016年には自己最多の9勝をマークしたが、貯金を作ることは叶わず、防御率は規定投球回到達者ワースト2位。本来持っているポテンシャルからすれば物足りない「先発ローテーションの1人」という立場に甘んじる状況が続いていた。

そんな中で迎えた今季、エース・則本投手が第4回「ワールド・ベースボール・クラシック」に出場した上に、岸投手がインフルエンザに感染していたため、開幕投手を任されることに。シーズン初登板が緊急登板、しかも自身初の大役というめずらしい事態となったが、6回を投げて3失点としっかり先発の仕事を果たした。

そして4月8日の千葉ロッテ戦で今季初白星を挙げると、22日の福岡ソフトバンク戦まで3連勝を決め、開幕直後のチームの快進撃に大きく貢献。その後も基本的に土曜日に登板し、驚異的な安定感で、危なげなく勝ち星を積み重ねていく。もはや開幕投手の「代役」と呼ぶのも失礼なほどの大活躍で、「マイナビオールスターゲーム2017」にも選出された。

美馬投手は茨城県出身で、今年の1月に横綱に昇進した稀勢の里関とは同郷かつ同い年だ。中学生時代に野球で対戦経験があり、現在も親交を持っているという。左腕を負傷しながら幕内最高優勝を果たしたかつてのライバルのように、幾度も故障を乗り越え、マウンドで「横綱相撲」を見せる美馬投手は、チームを2度目の頂に導くことができるだろうか。

2013年の日本シリーズで強烈な印象を残したときにはまだプロ3年目だった若者も、気が付けば今年で7年目。苦しみ抜いた時期を超えて、かつて自らが輝いた大舞台に戻るため。美馬投手の挑戦は続いていく。

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パ・リーグ インサイト 望月遼太

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