最近は選手参加型に。自らも楽しむチャリティー活動

パ・リーグ インサイト 新川諒

2016.5.15(日) 00:00

ほっともっと神戸(C)PLM
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米国は野球界だけに限らず、日常でチャリティー活動というものが浸透している。チャリティー(寄付)が税金控除に貢献してくれるという現実的な背景があるものの、当然ながら慈悲精神によるところが大きい。

メジャーリーグでも、さまざまな形でチャリティー活動が年間通して行われている。戦争で障害を負った兵士への生活支援や、環境に恵まれない人々への支援など、対象もそれぞれである。最近開催された「母の日」イベントでは乳がん撲滅活動をし、野球を通して人々の健康を考えた取り組みも行われている。次世代の子どもたちへの野球普及活動なども幅広く取り組んでいる。

日本でも、選手を中心としたチャリティー活動を最近はよく目にするようになった。今季から福岡ソフトバンクに復帰した和田毅投手は、2005年から認定NPO法人「世界の子どもにワクチンを」日本委員会のスペシャルサポーターとしてワクチン支援活動を行っており、今年の日本球界復帰とともにこの活動を再開した。「1球ごとに10人分のワクチンを寄付する」という独自のルールの下で寄付の活動をしている。

埼玉西武ライオンズの秋山翔吾選手も、母の日にひとり親家庭の親子を西武プリンスドームに招待する取り組みを行った。自身も父親を12歳の時に失ったという経験を隠さずに、同じ境遇の親子を支援している取り組みだ。メジャーでも、癌を克服したシカゴ・カブスのジョン・レスターやアンソニー・リゾーは、自らの経験を下に先頭に立ってガン撲滅に向けて支援を続けている。

メジャーでは、スプリング・トレーニング中、選手会の下で活動するチャリティー団体のスタッフがアリゾナ州、フロリダ州を回り、選手やスタッフに向けて説明会を行う。団体の存在に救われたという元選手やその家族も帯同して、選手たちが練習前に話を聞く場が設けられる。もちろん報道陣はこの空間に立ち入ることができないため、あまりメディアで報道されることは少ないが、スプリング・トレーニング中は毎日のように、こういったミーティングが実は行われている。

こういったミーティングの最後には、各選手に案内の資料と共に、その場でチャリティー活動への参加意志を促す用紙も手渡される。週割りや月割りの支払い方法が記されており、チェックさえすれば、年俸から自動的にチャリティーへ寄付されることとなる。自然な流れで寄付が行える環境こそが、チャリティーが文化の一つに浸透している証でもある。

また、ボストン・レッドソックスのように球団自らNPO部門を設立する場合もある。私もこの球団に在籍していた時に「レッドソックス・ファウンデーション」の選手向け説明を聞いたことがあるが、興味深かったのは球団が考えるチャリティーに選手が賛同するだけではなく、選手自身がやりたいチャリティーをバックアップしてくれるという体制だ。

どこまで選手たちがレッドソックス・ファウンデーションの仕組みを活用したのかは分からないが、当時は多くの在籍選手がチャリティーイベントを開催していた記憶がある。当時エースとして在籍していたジョシュ・ベケット投手は「ベケット・ボウル」と題してボウリングイベントを開催し、このイベントでの売り上げはボストンにある小児病院へ寄付されていた。レッドソックスの選手たちはもちろんだが、同じ街をホームとするMLSニューイングランド・レポリューション、NFLニューイングランド・ペイトリオッツ、NHLボストン・ブルーインズといった他競技の選手たちも参加していた。同じ街を代表する選手たちが競技の垣根を越えてチャリティー活動を盛り上げるのである。

何に対して寄付をするのかもそれぞれのストーリーがあってよい。これまでありがちだった野球教室やオークションでのチャリティー活動は、選手が中心となり、変わりつつある。チャリティーが日本の野球界でも浸透していく中、これからは野球以外の活動でファンと楽しむ催しも、個人的には提案したい。チャリティー活動は誰かにやらされることではなく、選手や球団も目的意識をはっきりさせ、自らも楽しむ機会にしても良いのではないだろうか。

例えば、ミネソタ・ツインズで長年活躍したジャスティン・モーノー選手は「カジノ・ナイト」を毎年開催しており、他球団へ移籍してもなお、シーズンオフにはミネアポリスで開催している。ゴルフコンペやカラオケ・ナイト、そしてベケット投手のイベントでもあったボウリングイベントなど、選手参加型が近年は増えてきている。中にはファンを迎え入れて、選手たちがバーテンダーとなり飲食を共に楽しむイベントもある。

チャリティーイベントを主催する側も参加する側も楽しむことでその輪を広げていく。グラウンドでは見せない選手の「素」の姿で、どうしても深刻になりがちな慈善活動を皆が同じ目的意識を持って楽しめる場へと変貌していけば、また新たなチャリティー文化の輪が広がっていくのではないだろうか?

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パ・リーグ インサイト 新川諒

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