千葉ロッテマリーンズ公式チアパフォーマー「M☆Splash!!（エムスプラッシュ）」が、今年結成20周年を迎えた。パ・リーグインサイトではM☆Splash!!20年の軌跡を全3回の連載でたどり、M☆Splash!!を語るうえで欠かすことのできない3名のお話をもとにこれまでの歴史をひもといていく。

#1 M☆Splash!!結成秘話「はじまりは2週間で作った即席チアチーム 」
#2 歴代衣装で振り返るM☆Splash!!の20年
#3 パ・リーグ パフォーマンスチームからのお祝いメッセージ

「2週間後にチアチームを発足せよ」無謀すぎる緊急クエスト発生

　今回お話をお聞きしたのは、結成時から今もなおM☆Splash!!ヘッドコーチを、またキッズダンススクール「マリーンズダンスアカデミー（MDA）」でエグゼクティブディレクターを務める長峰美紀（ながみね・みき）さん。
M☆Splash!!初代メンバーであり、MDAインストラクターとしては2006年開校時から現在も活動を続けているYOSHIKO（よしこ）さん。
そして2006年MDA開校時の生徒であり、現在はM☆Splash!!リーダーのYUKA（ゆうか）さんの3名。

　#1では、これまで語られることのなかった2004年結成時の話に焦点をあてていく。

　2004年といえばマリーンズは9年ぶり2度目のボビー・バレンタイン監督体制へ、またプロ野球界は再編問題で揺れに揺れた激動の年だった。そんなシーズンの開幕間もない4月中旬、当時の球団社長のアイデアで「2週間後までにチアチームを発足させる」という“緊急クエスト”が発生した。

　チアやダンスに対しての知見がまったくなかった当時の担当者へのこの無茶振りが、後に20年続くM☆Splash!!のはじまりとなったのだ。

「ジェフの広報の方に『とりあえずマリーンズに一緒に行こう』と言われ『何しに行くんですか？』と聞いても『僕もよくわからないんだけど、とにかく来てほしいって言われて』……という感じでマリンスタジアムに連れて行かれました」

　と、当時を振り返るのはM☆Splash!!創設者のひとり、長峰美紀さん。

　担当者が手当たり次第協力者を探していたところ、マリンスタジアムのビールの売り子のなかに渋谷教育学園幕張高校ダンス部（通称・渋幕ダンス部）出身者を発見。「渋幕ダンス部時代のコーチがJリーグ ジェフユナイテッド市原・千葉のチアチーム『ジェット・スフィーン』に在籍していますよ」と耳にした担当者は、同じ千葉のスポーツチームにチアチームがあることをはじめて知りジェフの広報へ協力を依頼。当時ジェット・スフィーンの代表を務めていた長峰さんに声がかかったのだ。

　そして長峰さんがマリンスタジアムを訪れたのは、チアチーム結成期限と定められた日まで残り10日程度の頃。

「10日程度でメンバーを集めてレッスンをしてデビューさせる……1日だけのイベントかと思いきやシーズンを通しての活動。詳細を聞けば聞くほど無謀な依頼に『勘弁してください』と断って帰ろうとしました。ですが担当者は『お願いします！』の一点張りで、何時間も引き止められましたね」

　またその場で“緊急クエスト”の現状として、ビールの売り子数名が長峰さんの前でダンスを披露。絶句するほどの仕上がりだったため、担当者に対して「このレベルのものをへっちゃらで世に出そうとしてる人たちとは一緒にできません」と一喝。なんとか振り切って帰り、この話は終わりを迎えたかに思えた。

　しかし翌日、担当者が長峰さんの元を訪れ再度懇願。半ば折れる形でチアチーム立ち上げを引き受けることになったのだ。

「本音で一喝したことが『この人たちならなんとかしてくれる！』と担当者に火を付けてしまったんだろうと思います。こうやって毎日追いかけられて逃げれないんだろうな……（笑）と思い、担当者の熱意に折れました」

即席チアチーム結成。特急準備（残り7日程度）

　長峰さんが立ち上げを引き受けてから、デビューに向けて特急準備が始まった。デビューまで残り7日程度の時点でメンバーが決まっていない、踊れるダンスもない、衣装もない、チーム名もない。

　まずメンバーは、ビールの売り子経由で渋幕ダンス部OGを参集。またジェット・スフィーンメンバーに兼務を依頼し、即席チアチームを結成。衣装は、マリーンズのグッズショップでなんとか衣装になりそうなアパレルを探し、ハーフジップのトップスとサンバイザーを購入。スカートは渋幕ダンス部の衣装を借り、ピンクのポンポンを緊急発注した。

　ダンスは、球団歌「WE LOVE MARINES」、日本野球機構オフィシャルソング「Dream Park〜野球場へゆこう〜」の2曲に長峰さんが数日で振りをつけ、メンバーたちにレッスンをしていった。

　驚きなのは、このドタバタな状況で生まれた2曲の振り付けが今もなお踊り継がれていること。特に「Dream Park～野球場へゆこう〜」は、全球団パフォーマンスチームの多数の現役・OGメンバーが同じ曲、同じ振り付けで踊れる唯一の曲として大切に踊り継がれているが、長峰さんが特急準備のなかで生み出した振り付けだと知るパフォーマーは少ない。現に、M☆Splash!!リーダーのYUKAさんがつい最近までその事実を知らなかったと言うほどだ。

なんとかデビュー（残り0日）

　約7日間の特急準備期間を経て、4月後半（具体的なデビュー日は不明）のホームゲームで約15名のメンバーがなんとか出演を果たした。

　事前告知もなく唐突にマリンスタジアムに現れたチアチームに対し、お客さんの反応はそれはそれは冷ややかだったという。

　長峰さんはデビュー当時について「出演タイミングは試合前のウェルカムグリーティング、試合開始後はグラウンドでラッキー7、勝利時に出ていたかなという感じです。お客さんはまず誰も見てくれませんでしたね。『神聖なグラウンドに選手じゃない人が立つな』と言う声が聞こえてきたりもしました」

　デビューしてしばらくは手探りの状態が続いた。

初のオーディション開催。「M☆Splash!!」誕生へ

　2004年5月には初のオーディションを開催。メンバーを募集するにあたりチーム名を付けることになる。

「マリーンズを輝きをもってハツラツと元気に応援する存在になってほしい」という願いを込め考えられたチーム名で、海、輝き、ハツラツさ、元気、などのキーワードから着想しチョイスした「Splash」、中央には立ち上げに尽力してくれた渋幕ダンス部の名前「DAZZY☆SPARK」の☆を取り入れ「M☆Splash!!」と名付けられた。

　そしてこのオーディションを受けていたのが、今回お話をお聞きしたひとり、YOSHIKOさんだった。

　もともとプロ、アマ問わず野球観戦が好きだったYOSHIKOさん、友達と行った野球観戦で北海道日本ハムファイターズオフィシャルチアチーム「ファイターズガール」を目にし、プロ野球にチアチームがあることを知り興味を持った。

　当時すでに発足していた球団公式チアチームは「ファイターズガール」、中日ドラゴンズの「チアドラゴンズ」、読売ジャイアンツの「チームジャビッツ21（現ヴィーナス）」のみで、M☆Splash!!の初代メンバーオーディション情報は、何気なくマリーンズの公式ホームページを見たときに知ったという。

「オーディションには社会人野球などのチア経験者や地方のテーマパークダンサー、またダンス未経験者などいろんな子がいました。合格したときは『グラウンドに立てるんだ！』とうれしく思ったことを覚えています」と、YOSHIKOさん。

　そして2004年7月、即席チアチームにオーディションに合格したメンバーを加え、ついに「M☆Splash!!」がデビューすることとなった。
（ #2「 歴代衣装で振り返るM☆Splash!!の20年」へつづく…）

インタビュー・文　池田紗里

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