打線次第の埼玉西武、攻撃力が上がってきた北海道日本ハム
統計学では、時系列データを「移動平均」という指標で平滑化することがあります。今年のペナントレース前半戦における各チームの得点と失点の移動平均を測っていわゆる「調子の波」を可視化してみます。
まず移動平均を説明します。移動平均は大きく変動する時系列データについて、その大まかな傾向を読み取るための統計指標です。株価の大まかな変動を捉え、売買のタイミングを計る際によく使用されます。
この移動平均を使って、各チームがペナントレース前半戦のどこでどのような波に乗れたかを検証してみます。
以下のグラフでは7試合移動平均において「得点>失点の期間はレッドゾーン」「失点>得点の期間はブルーゾーン」として表しています。
なお、グラフの縦線は、
3、4月|5月|交流戦|交流戦後
を表しています。
今回はパ・リーグ6球団を、8月2日時点での成績順で紹介します。
◯埼玉西武ライオンズ
開幕から5月上旬まではとにかく打線が機能し、得点の移動平均が9点を超えるほどの大爆発を見せ、チームのスタートダッシュに貢献していました。ここまでチームOPSは0.815と飛び抜けていますし、チームの得点圏打率も.327と異次元の勝負強さを発揮しています。打線に目を引きがちですが、開幕から9連続クオリティスタート(QS)を達成するなどペナント序盤は先発投手陣の安定も光りました。
ただ、5月中旬以降、投手陣の失点が大きく目立つようになりました。特に救援投手陣が安定せず、打線が大きなリードを奪っても、そのリードを食い尽くすような戦いぶりが増えてきました。5月中旬から交流戦前までは、その失点を上回る得点を稼いでしのいできた様子がグラフから伺えます。
交流戦以降は失点の移動平均が5点を超える水準で推移しているため、攻撃陣が5点以上取れば勝ち、それ以下なら負けという、完全に打線の調子次第という状況になっています。8月のスケジュールでは、完全に冷房の効くドームでの試合が7試合しかなく、投手起用を含め選手の体調管理に十分留意する必要があります。最後まで打ち勝つ野球で突き進むのか、救援陣の整備で失点を防ぐのか。埼玉西武優勝のカギはそこにありそうです。
◯北海道日本ハムファイターズ
42試合目を境に戦いぶりが変貌していることがわかります。
序盤は得点力はそれほどではなくても、投手陣が機能し、平均3~4点の失点で抑えており、勝ちを拾っている様子が伺えます。
交流戦に入り、得点力が増強されています。この時期から
1番 西川遥輝
2番 大田泰示
3番 近藤健介
4番 中田翔
5番 レアード、アルシア
という上位打線が機能し、試合序盤での先制点をとって優位に試合を進められるようになりました。6月22試合のうち12試合、54.5%の確率で初回に得点しています。実に2試合に1試合は優位な展開に持ち込めたわけです。
7月以降、先発投手陣のQS率が35%と本調子ではないのですが、打線の援護と、救援投手陣の踏ん張りで勝ちを収めています。
前年に大きな戦力が抜けた後に結果を残していたファイターズだけに、後半のスパートの掛け方に注目です。
チャンスに打てない福岡ソフトバンク、先制できないオリックス
◯福岡ソフトバンクホークス
例年ではレッドゾーンが通年で目立つ戦いぶりだったホークスですが、今季は、調子に乗り切れていない様子が伺えます。それでも5月上旬までは、投手が平均4点以下に抑え勝ちを収めてきましたが、ここへきてやはりサファテ、岩崎の故障の影響が出てきたのか、ブルーゾーンが目立つようになりました。
柳田悠岐は今季OPS1.072、打率.353、本塁打24、盗塁16、盗塁成功率88.9%と2度目のトリプルスリーも視野に入るほどの活躍で一人気を吐いていますが、チーム全体では得点が平均6点を上回ることがなく、チーム本塁打128はリーグトップではあるのですが、得点圏打率.257はリーグ5位。チャンスに打てず、得点という意味では爆発力に欠けた打線となっています。
7月に入り、打線は復調していますが、それ以上に失点して星を落とすという噛み合わせの悪い状態が続いています。
1、2番の打撃成績ですが
1番 出塁率.301 OPS 0.697
2番 出塁率.266 OPS 0.630
と低いため、3番柳田の前でチャンスメークができていません。この上位1、2番の出塁率改善が、初回得点確率を高め、優位に試合を進められることに繋がるのではないでしょうか。またスタメンの平均年齢が高く、若手選手の台頭にも期待がかかります。
◯オリックスバファローズ
このチームは毎年そうなのですが、好調と不調の波が交互にきて、いいときと悪いときがはっきり分かれており、勝率が大きく伸びない様子が伺えます。
今季のオリックスは投手陣が好調で、防御率3.71はリーグ2位、1試合平均失点3.91、被打率.238、WHIP1.24はリーグ1位です。グラフでも失点が低い水準で推移していることがわかります。
ただ攻撃陣の方では、主力と期待された選手が怪我での離脱が多く、なかなかベストオーダーを組めていません。またこのチームも
1番 出塁率.288 OPS 0.627
2番 出塁率.282 OPS 0.537
と極端に低く、3番ロメロや4番吉田正尚の前にチャンスメークができていない状況です。7月の試合で初回に得点したのは4試合、たった20%しかありませんでした。試合序盤でのリードができなければ、いくら投手陣が優秀でもそのプレッシャーはかなり大きなものになることでしょう。
この改善がオリックス浮上への急務になるのではないでしょうか。
勝負強く接戦拾う千葉ロッテ、打線固定で立ち直った東北楽天
◯千葉ロッテマリーンズ
チーム本塁打46と、ホームランパークファクターが最も低い球場をフランチャイズにしているとはいえ、ダントツの最下位。長打力不足はデータ上今年も解消されていない千葉ロッテ。ただ四球は317でリーグ3位、死球65はダントツのトップの65と、出塁率.338はリーグ2位。得点圏打率も.267でリーグ3位と健闘しています。
またチーム防御率も3点台をキープ。グラフも全体的に低いゾーンで推移し、得点と失点の差が少なく、僅差での勝負で勝ちを拾っている様子が伺えます。
また7月から4番に座った井上晴哉が
6月打率.386 OPS1.381 本塁打6
7月打率.400 OPS1.286 本塁打7
と大覚醒。3番の中村奨吾とともにチームのポイントゲッターとして機能しています。また開幕から1番で起用されていた荻野貴司が今年も怪我で離脱。その穴を北海道日本ハムからトレードで獲得した岡大海が埋めようしています。
8月浮上には、後半戦に1、2番を任されている平沢大河、藤岡雄大の出塁率改善がカギとなるでしょう。
なお、7月最後の大きなブルーゾーンは、福岡ソフトバンク、埼玉西武、そしてチーム状態が改善されてきた楽天に大きく失点した影響です。
◯東北楽天ゴールデンイーグルス
とにかく前半戦の東北楽天は、昨年までの打線が機能せず得点力不足に泣かされました。また4月下旬から5月上旬にかけて大きな連敗も喫し、他の5チームと大きな差をつけられてしまいました。
その後も、失点はそこまで多くはなく、低い水準で推移はしているのですが、それに反応するかのように得点がそれを下回るという噛み合わせの悪い状況が続いていました。
6月16日梨田監督の解任が発表され、翌日から平石洋介監督代行となって再出発。すると、それまでブルー一色だったグラフがレッドゾーンに変貌しました。
まずは打線ですが、それまでの流動オーダーが一変。1番センターに2年目の田中和基を抜擢し、その後茂木栄五郎、島内宏明、今江年晶、銀次、アマダー、藤田一也、ペゲーロ、嶋基宏を基本軸に打線を固定。
すると交流戦終了前まで
打率.232 OPS0.616 得点圏打率.217
1試合平均得点3.09
だった打線が交流戦後
打率.271 OPS0.778 得点圏打率 .293
1試合平均得点5.34
と改善しました。
また投手陣の成績も改善され、特に救援防御率は2.99と大きく改善しています。
3位まで4.5差となり、8月の戦い方如何によってはクライマックスシリーズ争いにも参戦できそうな状況です。
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