トッププロスペクトが日本の地で開花。エスピノーザが打者を圧倒する理由にデータで迫る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

オリックス・バファローズ エスピノーザ投手(C)パーソル パ・リーグTV
オリックス・バファローズ エスピノーザ投手(C)パーソル パ・リーグTV

5試合に登板した時点でわずか2失点。圧倒的な投球を見せている

 オリックスのアンダーソン・エスピノーザ投手が、5試合に登板した時点でわずか2失点、防御率0.55という驚異的な成績を残している。山本由伸投手と山崎福也投手という2名の主力投手が移籍した先発陣における、新たな大黒柱の一人となる可能性を示している。

 今回は、これまでのエスピノーザ投手の球歴に加えて、マイナーリーグも含めた米球界時代のエスピノーザ投手の成績や、日米における各種指標を紹介。日本で躍動する元トッププロスペクトが開花を果たしつつある理由を、実際の数字をもとに読み解きたい。

(成績は2024年5月8日時点)

将来を嘱望されながら怪我に苦しんだが、NPBで開花の兆しを示している

 エスピノーザ投手がNPBにおいて記録している、年度別成績は下記の通り。

エスピノーザ投手 年度別成績※2024年5月8日時点(C)PLM
エスピノーザ投手 年度別成績※2024年5月8日時点(C)PLM

 2014年に16歳の若さでレッドソックスと契約し、2016年途中にトレードでパドレスに移籍。その投球は早くから注目を集めており、MLB公式サイトが発表した2017年のプロスペクトランキングでは、チーム内で2位、全体で25位という高ランクの評価を受けていた。

 トッププロスペクトとして将来を嘱望されたエスピノーザ投手だが、2017年にトミー・ジョン手術を受け、4シーズンにわたって公式戦の登板から遠ざかった。5年ぶりに復帰を果たした2021年の途中にカブスに移籍し、引き続きMLB傘下で研鑽を続けていった。

 翌2022年にはついにメジャーリーグで登板を果たし、7試合に登板して18.1イニングを消化。防御率は5.40ながら投球イニングを上回る奪三振数を記録し、世界最高峰の舞台でも持ち味を発揮した。パドレスに復帰した翌2023年はAAAで自己最多となる131.2イニングを投じ、同年オフにNPB挑戦を選択している。

 2024年はオープン戦で防御率0.90と抜群の成績を残し、見事に開幕ローテーション入りを勝ち取る。来日初登板となった3月30日の福岡ソフトバンク戦では6回無失点と好投し、見事に来日初白星を記録。その後も安定した投球を続けており、NPBにおける最初の5登板全てで6回以上を投げて1失点以下と、まさに支配的な投球を披露している。

手術以降は安定感を欠いたが、2023年は自己最多の投球回を記録

 次に、エスピノーザ投手が米球界時代に記録した年度別成績を見ていきたい。

エスピノーザ投手が米球界時代に記録した年度別成績(C)PLM
エスピノーザ投手が米球界時代に記録した年度別成績(C)PLM

 プロデビューを果たした2015年には、ルーキーリーグで防御率0.68、奪三振率9.00と圧巻の投球を展開。翌2016年には17歳の若さにしてA級のカテゴリーで108.1イニングを消化しており、トッププロスペクトに相応しい豊かな将来性を示していた。

 しかし、トミー・ジョン手術の影響で4年にわたって実戦から離れることになり、復帰した2021年もA+級で防御率5.04と安定感を欠いた。それでもAA級への昇格後は3試合で防御率1.35、奪三振率10.80と好成績を残し、今後の活躍に期待を持たせた。

 だが、2022年はAA級で防御率7.11、AAA級で防御率8.31と、苦しい投球が続いた。同年はMLBにおいて奪三振率9.33とポテンシャルの一端を示したものの、翌2023年もAAA級で防御率6.15と、数字の面では安定感を欠いていた部分は否めなかった。

 ただし、2022年と2023年にエスピノーザ投手がプレーした、AAA級のパシフィックコーストリーグの特性は考慮に入れる必要があるだろう。このリーグは乾燥地帯や高地の球場を本拠地とするチームが多いこともあり、極端な打高投低の環境にあることで知られている。

 すなわち、パシフィック・コーストリーグにおける投手の防御率は、その投手の実力以上に悪化しやすいということだ。そうした難しい環境で28試合に登板して131.2イニングを投じた点は、故障の影響から脱しつつあることを示すポジティブな要素だったといえよう。

抜群の制球力と被打率の低さで、容易に走者を許さない支配的な投球を披露

 続いて、エスピノーザ投手が2024年に記録している各種の指標について確認する。

エスピノーザ投手 年度別指標※2024年5月8日時点(C)PLM
エスピノーザ投手 年度別指標※2024年5月8日時点(C)PLM

 エスピノーザ投手の投球における大きな特徴として、与四球が非常に少ない点が挙げられる。33イニングで出した四球がわずかに7個というだけでなく、そのうち4つは来日初登板だった3月30日に記録したもの。直近4試合で与えた四球はいずれも1個以下であり、4月以降の与四球率は1.00と、まさに驚異的な水準の数字を記録している。

 さらに、投手の制球力を表す指標である「K/BB」に関しても、一般的に優秀とされる3.50という水準を上回っている。現時点での奪三振率は7.36と際立って高い数字ではないものの、4月には21イニングで20個の三振を奪っており、奪三振に関しても今後の改善が見込めるという点も頼もしい要素となっている。

 また、1イニングに出した走者の平均を示す「WHIP」は0.88と、こちらも非常に優秀な数字を記録。先述した与四球の少なさに加えて、被打率も.198と優れた水準に達していることを考えれば、許した走者が非常に少ないことは当然の帰結と言えそうだ。

 1イニングごとに許した走者が1人以下である、という数字は、エスピノーザ投手が抜群の安定感を示している理由にも直結している。相手に付け入る隙を与えない投球を続けてきた山本由伸投手の後釜として、同じく圧巻のピッチングを見せていると形容できよう。

NPBでは驚異的な制球力を示しているが、米球界時代の傾向は……

 最後に、エスピノーザ投手が米球界時代に記録した、奪三振と与四球に関する指標について紹介しよう。

エスピノーザ投手が米球界時代に記録した指標(C)PLM
エスピノーザ投手が米球界時代に記録した指標(C)PLM

 NPBでは抜群の制球力を発揮しているエスピノーザ投手だが、米球界時代に真逆の傾向を示していた点は興味深いポイントだ。2021年以降は全てのカテゴリーにおいて4点台以上の与四球率を記録しており、2022年にはAAA級で与四球率6.58、MLBで同7.85と、いずれも極めて高い値を残しており、当時は制球に課題を抱えていたことがうかがえる。

 ただし、2015年はルーキーリーグで与四球率2.03、2016年はA級で同2.91と、トミー・ジョン手術を受ける前は高い制球力を示していた点は注目に値する。そして、故障を克服して自己最多の投球イニングを記録した2023年は、与四球率が4.99と前年に比べて改善傾向にあった点も見逃せない。

 奪三振率に目を向けると、米球界時代は全てのカテゴリーで8点台以上と、総じて優秀な数字を記録していた。さらに、今回取り上げた9個のカテゴリーのうち、投球イニング以上の三振を奪っていたケースは6度にのぼる。MLB傘下においては、制球こそアバウトながら力でねじ伏せる投球を持ち味としていたことがうかがえる数字だ。

 ただし、2022年に関しては奪三振率が8.00と、キャリアの中でも最も低い数字となっていた。奪三振率こそ控えめながら制球力に向上が見られた点は、NPBにおいてエスピノーザ投手が残している指標の傾向にも符合する。前年から垣間見えた投球スタイルのモデルチェンジが、日本球界におけるブレイクにつながっていると考えられる。

才能を証明しつつある26歳の若き剛腕は、日本の地で更なる進化を果たすか

 NPBへの挑戦後に課題だった制球力が劇的に改善し、投球の安定感が大きく高まったエスピノーザ投手。米球界時代の最大の持ち味だった奪三振力がこれから日本の地でも発揮されるようになれば、より手が付けられない投球を見せてくれるかもしれない。

 まだ26歳という年齢を考えれば、今後さらなる成長を見せる可能性も大いにあるはず。MLBのトッププロスペクトとして将来を嘱望された才能が本物であったことを証明しつつある、若き剛腕が持つ無限の可能性を秘めたピッチングは、今季のパ・リーグにおける要注目のトピックの一つとなりそうだ。

文・望月遼太

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パ・リーグ インサイト 望月遼太

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