弱点の外野で荻野も故障。外野手の強化が急務だったロッテ
7月26日に北海道日本ハム、千葉ロッテの両球団から藤岡貴裕と岡大海のトレードが成立したとの発表があった。この件について、両球団にどういった状況・狙いがありこの交渉が成立したかを見ていきたい。
今回のトレードでより緊急性が高かったのは千葉ロッテだろう。井口資仁監督1年目のシーズンはここまで大健闘を見せている。長距離砲・井上晴哉の成長、中村奨吾の二塁コンバート成功、ルーキーの藤岡裕大を遊撃手として戦力化したことなど、内野陣の競争力向上が好調の最大の要因だ。
一方で外野に関しては、特に序盤にレギュラーの角中勝也を故障で欠いたこともあり、昨季より引き続き攻撃力において心もとない状況が続いていた。さらに7月9日の埼玉西武戦で正中堅手の荻野貴司が右手第二指基節骨骨折で戦線離脱。Aクラスを確保し、さらに上位を狙うには外野の強化が必須の状況だった。
パ・リーグ各球団の外野陣の攻撃成績を見ると、千葉ロッテ外野陣の深刻さがよくわかる。外野3ポジション全体のOPS(出塁率+長打率)はトップの福岡ソフトバンクが.874を残しているのに対し、千葉ロッテはリーグ最下位の.666。これは今季のNPBで例えるならば岡本和真(巨人、.871)と田村龍弘(千葉ロッテ、.657)ほどの打力の差で、特に長打力に問題を抱えていたようだ。本来、左翼や右翼は一定以上の攻撃力が必要とされるポジションだが、千葉ロッテの外野陣はこれを満たしていないため、上位を争う上での弱みとなっていた。
また外野は攻撃面で課題を抱えているにもかかわらず、守備面が優れているわけでもなかった。同じイニングを守った平均的な同ポジション選手と比較してどれだけ失点を防いだかを表すUZR(Ultimate Zone Rating)を見てみると、左翼が-1.8、中堅が-3.5、右翼が0.4。3ポジションいずれも平均か、平均よりやや劣るレベルで、投手をバックアップできていなかったことがわかる。中堅の荻野が離脱したことで、守備面でもさらに苦しい状況となる可能性が高かった。千葉ロッテからすると余裕のある救援投手を放出し、薄い外野の層を厚くする良いトレードだったのではないだろうか。
日ハムは岡の放出で若手にチャンスを与え、さらに実績の少ない救援陣を補強
北海道日本ハムの岡放出の決断は、外野の選手層にある程度、自信を持っていたからだろう。今季は西川遥輝、近藤健介、大田泰示の若さと実力を兼ね備えた外野陣で戦ってきた。大田の故障離脱は誤算だったはずだが、松本剛など岡以外の外野手で大田復帰までの期間をしのぐことができると見積もったのだろう。
また、北海道日本ハムは選手育成のサイクルを重視しており、他球団以上に若い野手に多くの出場機会を与えていく傾向が見受けられる。岡の27歳という年齢は、北海道日本ハムのレギュラーを獲得していない野手としては高かった。岡の放出で空いた1、2軍の出場機会は若手に回すことができるため、選手育成のサイクルという面から見てもメリットはある。
岡の見返りとして北海道日本ハムは投手を得ている。昨季から昨オフにかけての主力投手の大量退団もあって、開幕前から投手陣の戦力低下が懸念されていた北海道日本ハムだったが、その不安は若手の活用と外国人選手補強で払拭してきた。特にブルペンで石川直也、玉井大翔、西村天裕、井口和朋など実績の少ない若手を抜擢し、リーグトップクラスの成績を維持してみせている。
ただ、ブルペンの中心的な役割をしていた石川直が、24日の東北楽天戦で右内転筋を痛め戦線離脱。試合復帰まで3週間を要する状況になっている。ここまでは若い投手の活躍で戦力を維持してきたが、通年での1軍登板経験のある投手の数は少なかったため、先発・救援両面で経験のある藤岡は魅力的に映ったに違いない。余裕のある外野手を放出し、投手のさらなる補強を狙った日本ハムにとっても、十分な旨味のあるトレードだった。
シーズン中では異例となる同一リーグでのトレード、しかもドラフトで上位指名した選手の放出に消極的だった千葉ロッテが、ドラフト1位の藤岡を放出してまで弱点である外野手を補強しようとしたことからは、残りシーズンでAクラスを維持し、さらにそれ以上の順位も狙う強い意志が感じられる。北海道日本ハムも選手育成サイクルを維持しながらペナントを狙うために選択肢を増やした。端的に良いトレードということができるだろう。今回のトレードが、両球団の順位を押し上げるものになる可能性は十分ある。
記事提供: