昨季までとはまるで別人。その体格も、飛距離も、弾道も。すべてが日本人離れした存在となりつつある。千葉ロッテの井上晴哉内野手が交流戦を境に調子を上げ、持ち前のパワーを存分に披露している。期待されながらもこれまでの4年間は苦しい時期を過ごしてきた「幕張のアジャ」にとって、2018年はついにその真価を見せる1年となるかもしれない。
崇徳高校、中央大学、日本生命を経て2013年のドラフト5位で千葉ロッテに入団した井上選手は、ルーキーイヤーとなった翌シーズンの開幕前に強い存在感を発揮。4割を超える打率を残して見事にオープン戦の首位打者に輝き、新人ながら開幕戦の4番打者に抜擢されるまでにその評価を高めた。
しかし、公式戦に入ってからは一転して思うようなバッティングをさせてもらえず、プロの壁に苦しめられる結果に。1年目は結局36試合の出場で打率.211、2本塁打、7打点という成績に終わり、シーズンの大部分を二軍で過ごす形となってしまった。
その後も毎年のように春先だけは猛打を振るうものの、徐々に調子を落としてシーズンの大半は二軍暮らしという状況が3シーズンにわたって続く。35試合で打率.232、2本塁打、16打点という2016年の成績がキャリアハイとなっており、大卒社会人での入団とあって即戦力としての働きが求められたにもかかわらず、周囲の期待に応えられないまま4年間が経過していた。
ラストチャンスの今季、待望の大砲候補がついに覚醒する
背水のシーズンとなりつつあった2018年、開幕4番として想定されていた角中選手の故障によって、井上選手はルーキーイヤー以来となる開幕4番に据えられる。開幕2戦目となる3月31日の楽天戦では自身初となる1試合2本塁打を放ち、早くもこれまでの年間最多本塁打数(2本)に並んだ。この試合のお立ち台では「春男、脱皮します!」と宣言しており、昨季までと同じ轍は踏まないという本人の強い意志を感じさせた。
その後も4番打者として出場を続けるが、打率は徐々に下降線を辿っていくことに。5月の11日から復帰した角中選手に4番の座を譲っただけでなく、交流戦前の段階で打率は.235にまで落ち込んでおり、このまま「例年通り」となってしまうことが危惧される状況となっていた。
宣言通り、今年は春男を脱皮している
だが、開幕直後の宣言通り、今季の井上選手は一味違った。へんとう炎で戦列を離れる時期はあったものの、6月2日からは離脱を挟んで出場した12試合連続で安打を放つなど成績を向上させていき、高い得点圏打率を武器にポイントゲッターとしても勝負強さを見せていく。
6月23日の埼玉西武戦では3点ビハインドからチームを救う決勝の逆転満塁弾を放ち、翌24日の同カードでは、二塁打を放てばサイクルヒット達成という状況で迎えた第4打席で、この日2本目の本塁打となる3ランを放って「サイクル超え」の大活躍。23日からの16試合で9本塁打を放ってホームラン量産体制へと入っており、ついに一軍の舞台で本来のバッティングを見せつつあるようだ。
井上選手は今季72試合の出場で打率.276、17本塁打、61打点という数字を残しており、既に本人にとって過去最高のシーズンとなるのは間違いないところ。このままのペースで行けば、強打者の証でもある「30本、100打点」の大台に到達することも決して不可能ではないだろう。
本拠地のZOZOマリンスタジアムが浜風の影響で本塁打が出にくい球場となっていることも手伝い、千葉ロッテは長年にわたって和製大砲不在の状況が続いてきた。20本塁打以上の本塁打を記録した日本人選手は2013年の井口選手(当時、23本)、そして30本塁打以上となると千葉移転前となる1986年の落合博満氏(50本)にまで遡ることとなる。
30歳を目前にした今季、ついに開眼して「春男」を脱却してみせた井上選手。この勢いのまま年間30本塁打の大台に手を掛け、3度の三冠王に輝いた球史に残る強打者以来、32年ぶりとなる快挙を達成することができるか。日本人離れした軌道のアーチを描く「幕張のアジャ」が、チームにとって待望の和製大砲としての立場を確立する日は、もうすぐそこにまで来ているのかもしれない。
記事提供: