ピッチングにとどまらない投手の技術。2023年の鮮やかな「牽制」トップ3

パ・リーグ インサイト 望月遼太

2024.1.19(金) 15:00

(C)パーソル パ・リーグTV
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打者を打ち取ることなくアウトを奪える、“牽制”という妙技

 投手がアウトを取る方法は、必ずしも打者を打ち取ることだけではない。走者の虚を突く牽制球を投じて、帰塁を許さずに刺殺を勝ち取るプレーもまた、投手にとっては自らを助けることになる、非常に重要な技術の一つといえよう。

 ただし、狙って牽制でアウトを取ることは非常に難しく、シーズンを通しても投手が牽制でアウトを奪う回数は決して多くはない。だからこそ、見事な牽制によってランナーを仕留めたシーンの価値は、非常に高いという考え方もできるはずだ。

 今回は、2023年のパ・リーグにおいて牽制でアウトを取ったシーンのうち、とりわけ投手の高い技術が感じられた3つのプレーをピックアップ。1.2秒というわずかな時間に詰め込まれた高度な駆け引きの様子を、パーソル パ・リーグTVの映像とともに振り返っていきたい。

板東湧梧投手(9月10日 福岡ソフトバンクVS東北楽天)

 板東湧梧投手はこの試合で先発投手を務めたが、初回から2本のタイムリーと押し出し四球で3点を失う、苦しい立ち上がりを強いられた。直後の2回も先頭の小深田大翔選手に内野安打で出塁を許し、2023年の盗塁王に輝いた韋駄天にプレッシャーをかけられる展開となった。

 ここで板東投手は、一塁走者の小深田選手に対して2度の牽制を試みる。1度目は帰塁されたものの、2度目のけん制では身体を反転させながら軸足をクロスさせ、抜群のコントロールで低めの位置にボールを投げ込んでみせた。

 見事な牽制に逆を突かれた小深田選手は帰塁が遅れ、一塁手の中村晃選手の冷静な対応もあってアウトになった。序盤から連打を浴びる中でも冷静さを失わず、盗塁王の虚を突いて見事に仕留めた一投は、板東投手の打たれ強さと、高い技術が示されたものでもあった。

小島和哉投手(7月15日 千葉ロッテVS東北楽天)

 小島和哉投手は試合開始直後から1番打者の村林一輝選手の粘りに遭い、9球を投じた末に安打を許してしまう。相手の巧みな打撃によっていきなりリズムを崩しかねない状況に陥ったが、小島投手は決して慌てることなく、走者の隙を着実にうかがっていた。

 続く小深田選手の打席で、小島投手は2球にわたってけん制を投じる。2度目のけん制では村林選手のタイミングをうまく外して反応を遅らせ、一塁手の山口航輝選手が頭にタッチできるほどの余裕を持ってアウトに。自らの牽制によって、先頭打者の出塁を帳消しにしてみせた。

 牽制球を投じる直前まで通常の投球モーションと見まごうような動作から、サイド気味のモーションで一塁に向けて投じられた抜群のボール。まさに絶妙と形容できる、走者の意表を突くフォームと正確にコースを狙った送球は、小島投手が積んできた日々の研鑽の賜物だ。

與座海人投手(8月27日 埼玉西武VS北海道日本ハム)

 2対2の同点で迎えた4回表、先発の與座海人投手は3本のヒットを浴びて1死満塁のピンチを迎える。そこから奈良間大己選手に対して0ストライク3ボールという絶体絶命の状況に陥るも、そこから踏ん張って見逃し三振に斬って取り、2死満塁へと場面は移る。

 続く五十幡亮汰選手を打席に迎え、1ストライク2ボールと再びバッティングカウントに。この極限の場面において、與座投手は虚を突いた牽制を試みる。非常に素早いサイドスローから投じられたボールに、一塁走者の古川裕大選手は戻りきれずにアウトとなった。

 二死満塁という絶体絶命のピンチにおいて、珠玉の牽制で自ら危機を乗り切った與座投手。アンダースローならではの鮮やかなサイドから繰り出されたボールは、決して練習なくして生み出されるものではないはず。そうした常日頃からの鍛錬が、重要な局面で自らを救う最大の武器となって結実したシーンといえよう。

素早い牽制が失敗すると、走者を先の塁に進めてしまうリスクも存在している

 牽制の中には、走者を直接刺殺するための素早い牽制球以外の種類も存在する。盗塁やエンドランのスタートを遅らせるための送球や、ボールを実際に投じずにモーションだけで済ませるような動作も、文字通りの「牽制」として、走者との駆け引きにおける重要な役割を担っている。

 つまり、どのタイミングで本気の牽制球が投じられるかがわからないという点が、バッテリーと走者のせめぎ合いをより興味深いものにしているということだ。

 また、牽制球が野手の捕れない位置に逸れてしまうと、労せずして走者を進塁させてしまう可能性が大きく高まってしまう。そのため、相手の不意を突いて素早い牽制球を投じるという作戦自体が、一定のリスクを背負うものにもなっている。

 それだけに、リスクを承知したうえで走者との駆け引きに勝ち、ピンチの芽を摘み取ったプレーの数々は、大きな称賛に値すると考えられよう。また、走者の帰塁を遅らせる送球フォームの習得や、送球の精度向上のためには相応の練習量が求められるという点も、成功したプレーの価値をさらに高めることにつながっている。

プロ野球ならではの高度な心理戦や駆け引きは、観戦時の醍醐味

 そして、今回取り上げた3つのプレーは、いずれも執拗に牽制球を投げ込んだわけではなく、2回以内の牽制で走者を刺殺している点もポイントだ。MLBにおいては、牽制を3回行ってアウトにできない場合はボークになる、というルールが2023年から導入されたが、今回取り上げた3選手の牽制は、そうした観点からも高く評価できるものといえよう。

 先の塁を狙って自分が帰塁可能なギリギリの位置までリードを取る俊足の走者と、その走者の隙をうかがって牽制を試みる投手。相手の傾向やクセを分析したうえで繰り広げられる、プロ野球の舞台だからこそ見られる高度な心理戦や駆け引きは、野球を観戦するうえでの大きな醍醐味の一つでもある。

 来たる新シーズンにおいても、投手と走者の我慢比べや、わずかな隙をめぐる攻防が幾度となく見られるはず。ピッチングだけにとどまらない投手の技術の結晶である、鮮やかな牽制球の数々に、今後はあらためて注目してみてはいかがだろうか。

文・望月遼太

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