長年にわたってエースを務めた則本投手が、2024年からクローザーへ転向
東北楽天の則本昂大投手が、2024年シーズンからクローザーへ転向することを表明した。長きにわたってイーグルスのエースとして活躍してきた則本投手のリリーフ転向は、多くの野球ファンに驚きをもって迎えられている。
今回は、則本投手の球歴に加えて、近年の則本投手に生じている変化について、各種の指標をもとに分析。それに加えて、過去に先発からリリーフに転向して顕著な成功を収めた投手たちの例を紹介し、則本投手にもたらされる可能性のあるプラス効果について考えていきたい。
プロ1年目から15勝を記録し、5年連続で最多奪三振を受賞する快挙も達成
則本投手がこれまで記録してきた、年度別成績は以下の通り。
則本投手は2012年のドラフト2位で東北楽天に入団。ルーキーイヤーの2013年に新人ながら開幕投手に抜擢されると、規定投球回に到達して15勝を挙げ、エースの田中将大投手と強力な2本柱を形成。球団史上初のリーグ優勝・日本一にも大きく貢献し、同年のパ・リーグ新人王にも輝くなど、プロ1年目から鮮烈なインパクトを残した。
同年オフに田中投手がMLBへ移籍したことにより、2年目以降は早くもチームのエースを務めることに。しかし、則本投手はその後もプレッシャーを感じさせない投球を見せ、プロ入りから6年連続で2桁勝利を記録。押しも押されもせぬ大エースへと飛躍を遂げた。
さらに、2014年から4年連続で200奪三振を記録し、5年連続で最多奪三振のタイトルを獲得。2017年には8試合連続2桁奪三振というNPB記録を打ち立てるなど、傑出した奪三振能力を発揮して圧倒的な投球内容を示し続けた。
2019年からは故障の影響もあり、2年続けて5勝止まりと苦しんだが、2021年と2022年に2年連続で2桁勝利を記録して復活を遂げる。2023年は打線と噛み合わずに3年連続の2桁勝利こそ逃したものの、キャリアで2番目に優れた防御率を記録する好投を見せていた。
2023年の防御率は2.61と優秀な水準だったものの……
次に、則本投手が記録した年度別の指標について見ていこう。
2023年に規定投球回に到達して防御率2.61という数字を記録した事実が示す通り、則本投手は現在の先発陣における柱の一人だ。多くのイニングを質の高い投球をもって消化してきた則本投手のリリーフ転向は、チームにとっても大きなリスクが伴う施策となる。
しかし、則本投手は2021年に奪三振率9.46を記録していたが、2022年は奪三振率7.49、2023年は同6.45と、直近2年間は徐々に数字を落としている。2014年から2021年まで8年連続で8点台以上の奪三振率を記録し、そのうち6度は投球回を上回る奪三振数を記録していただけに、急激な奪三振率の低下は気になるところだ。
それに伴い、奪三振を四球で割って求める「K/BB」という指標も、直近2年間は優秀とされる3.50という水準を下回っている。四球率に関しては2点台中盤と一定の水準を維持しているだけに、奪三振率の悪化がダイレクトに響いている格好だ。
その一方で、2023年のBABIPは.268と、インプレーになった打球がアウトになる確率が高かったことが示されている。BABIPは運に左右される要素が大きい指標とされるだけに、昨季は少なからず運の助けがあった可能性も示唆されている。
奪三振率をはじめとする投球内容の悪化を鑑みると、来季以降も2023年と同様の好成績を収められる保証はない。その一方で、制球力に大きな変化は見受けられないだけに、奪三振率が本来の水準に近づけば、再び圧倒的な投球を見せられる可能性も大いにあるはずだ。
今回のリリーフ転向は、そうした意味でも則本投手にとっては大きな転機となるかもしれない。ここからは、過去に先発からリリーフに転向したことを契機に、奪三振率を大きく向上させた名投手たちの例を紹介していきたい。
平野佳寿投手(オリックス)
平野佳寿投手はキャリア初期に先発として活躍したが、奪三振率は2009年の7.16が最高と、多くの三振を奪うタイプの投手ではなかった。しかし、2010年のリリーフ転向以降は7年連続で奪三振数が投球回を上回り、そのうち6シーズンで2桁の奪三振率を記録した。
MLBでも3年間で奪三振率8.95という数字を記録し、世界最高峰の舞台でも多くの三振を奪ってみせた。リリーフ転向を機に奪三振能力を大きく高め、2023年には日米通算250セーブの金字塔に到達した平野佳投手は、先発からリリーフに転向した投手の中でも最大級の成功例の一つといえよう。
上原浩治氏(元・巨人)
上原浩治氏は先発時代も一定以上の奪三振率と非常に優秀な与四球率を残していたが、抑えを務めた2007年は奪三振率9.58、K/BB16.50と、まさに圧倒的な数字を記録。先発に戻った2008年以降の2年間は奪三振率が低下したが、2010年に本格的にリリーフへ転向して以降は奪三振率が大きく跳ね上がることになる。
2010年から2017年まで8年連続で奪三振率が10を超え、2010年からの5年間で4度も2桁のK/BBを記録。一般的にK/BBは3.50を上回れば優秀とされるだけに、上原投手の数字はまさに驚異的なものだった。MLB屈指のリリーフ投手として躍動した上原投手もまた、奪三振率の急激な向上を活躍につなげた好例となっている。
豊田清氏(元・西武、巨人、広島)
豊田清氏は1997年と1999年にシーズン10勝を記録するなど先発として活躍したが、先発時代の奪三振率は高くはなかった。しかし、抑えに転向した2001年には奪三振率が10.95と大きく向上し、翌2002年には防御率0.78、38セーブに加え、奪三振率10.36、与四球率0.47、K/BB22.00と圧倒的な数字を記録。絶対的守護神として、日本一に大きく貢献した。
2006年の巨人移籍後も在籍5年間で2桁の奪三振率を3度記録し、セットアッパーとしてリーグ3連覇に貢献。リリーフに転向した2001年以降は安定して8点台以上の奪三振率を記録しており、先発時代とは大きく投球スタイルを変化させて成功した典型例といえよう。
津田恒実氏(元・広島)
気迫あふれる投球で「炎のストッパー」と称された津田恒実氏は、則本投手がクローザー転向時に目標として挙げた存在でもある。津田氏は1982年に先発として11勝を挙げて新人王に輝いたが、主に先発を務めた最初の3年間は奪三振率4〜6点台と、打たせて取るタイプの投球を繰り広げていたことがわかる。
しかし、クローザーに定着した1986年に奪三振率が10.51と跳ね上がり、その後の6年間で5度にわたって8点台以上の奪三振率を記録。課題だった与四球率もリリーフ転向後は改善され、1989年はK/BB5.00と優秀な数字を残した。今なおその活躍が語り継がれる剛腕も、リリーフ転向によって持ち味をフルに発揮できた好例といえよう。
則本投手も再び奪三振率を向上させ、杜の都のマウンドで打者を圧倒できるか
今回紹介した4名の投手たちは、いずれも先発からリリーフに転向したことをきっかけに奪三振率を大きく向上させている。クローザー転向後に投球内容を向上させ、すばらしい活躍を見せた投手たちの存在は、則本投手にとっても心強い“先例”となることだろう。
はたして則本投手は、クローザーに転向して短いイニングに全力を注ぐことにより、代名詞だった奪三振能力を取り戻すことができるか。数多の強打者をなで斬りにしてきた杜の都の大黒柱が、再びマウンドで打者を圧倒する姿に期待したいところだ。
文・望月遼太
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