交流戦で見せたセーフティバントに抜群の野球センス
いま、福岡ソフトバンクの高卒3年目の内野手・川瀬晃がおもしろい。まだ高校球児かと見紛うルックスとは裏腹に、着実にプロとして成長を続けている。
川瀬晃(かわせひかる)は、大分商業高校からドラフト6巡目で入団。今シーズンでプロ3年目を迎える内野手だ。親しみやすい童顔に加えて身体の線も細く、ユニフォームを脱げば高校生と思われても不思議はない。そんな川瀬が、いまホークスファンの間で熱い注目を集めている。
川瀬は5月23日に1軍昇格を果たすと、今宮健太の右肘の不調もあって、いきなり9番・ショートでプロ初スタメンで初出場。その日は4打数ノーヒット2併殺打と1軍の高い壁を痛感する結果に終わった。
それでも7回表にはセンターに抜けそうな打球を好捕するなど守備で貢献。翌24日もスタメンで出場し、2回裏に記念すべきプロ初安打を記録した。25日には登録抹消となりファームに戻ったが、貴重な1軍経験を経て「2軍戦でもチャンスで絶対に打ってやろうという気持ちが強くなった」という。
交流戦終盤の6月13日、今宮が右肘の不調で登録を抹消されると同時に2度目の1軍昇格を果たした川瀬は、14日から連続でスタメン出場。14日の巨人戦では振り逃げで出塁してプロ初盗塁を記録した。
15日の広島戦では初回に田中広輔の鋭い打球を鮮やかにさばいて千賀滉大の立ち上がりを救うと、4回にはプロ初長打となる二塁打を記録。さらに16日の広島戦の7回裏には逆転の足掛かりとなる見事なセーフティバントを決めてチームの勝利に大きく貢献した。
その場面を川瀬は「(前の打者の)市川(友也)さんが塁に出たら絶対にやってやろうと決めていました。1打席目と2打席目で凡退していたので、1アウトではあったけど、あそこは自分がアウトになってでも何とか(一塁走者を)二塁に進めて上位に回すことが大事。うまく決まって良かったです」と振り返った。
自分が犠牲になってでもチームのチャンスを広げるという9番打者としての役割を、川瀬はしっかりと理解し、実践して見せた。試合後、工藤公康監督も藤本博史打撃コーチも、このセーフティバントを高く評価したのはいうまでもない。
正面の打球を後逸。守備面では大きな課題も
2度目の昇格で数々の好プレーを見せた川瀬も、守備面では大きな課題も残した。17日の広島戦では、2度に渡ってほぼ正面の打球を後ろに逸らした。記録上エラーにはならずレフト前ヒットとなったものの、1軍の内野手としては“やってはならない"プレーだった。
特に2度目は二、三塁に走者を置いての前進守備。2軍監督時代から川瀬の成長を見届けてきた水上善雄内野守備走塁コーチは「あれは顔面に打球を当ててでも走者を返してはいけないプレー」と厳しく評価した
。この日は大差での敗戦で目立たなかったものの、「1対1のスコアであんなプレーをしていたら、ベンチは『使えない』という評価を下してしまう。2軍時代からグラブだけでいこうとする癖はあった。もっと身体ごと打球に向かっていくような、闘争心を出した守備をしないと。そこが課題かな」と指摘した。
さらに初めて二塁手として出場した19日の東京ヤクルト戦では、2回にプロ初打点となる先制の2点タイムリーを放ちながらも、6回には手痛いタイムリーエラーで一時逆転を許すきっかけを作るなど、若手を露呈した。
ただ、その一方で「最初の昇格で併殺打に倒れても、それを引きずることなくしっかりといい守りができた。2軍時代は守りと打撃のどちらかがダメだと引きずるところがあったが、きちんと切り替えられるようになったのは1つの成長」と、水上コーチ。セーフティバントについても「打線の中での自分の立ち位置、役割をしっかりと考えている証拠。2軍でもずっとそういう考えができる子でした」と目を細めた。
川瀬は、1軍での自らの課題を「全部です。2軍なら『ここを重点的に』で済むけど、1軍にいる以上はすべてでレベルアップしないといけないと思います」と語る。今はいいプレーも課題が残るプレーも、すべてが勉強だ。
高卒3年目で、2年後には大学に進んだ同級生たちが同じプロの世界に入ってくる。その時までにどんな成長を遂げているのか、それが楽しみな選手だ。競争が激しい福岡ソフトバンクの中で、その名のとおりにひと際“ヒカル"存在になっていくことを願いたい。
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