2軍で経験を積む大物ルーキー、指揮官が語る「幸太郎にとっての大きな財産」とは
北海道日本ハム・清宮幸太郎。
多くの実績を引っさげてプロ入りした高卒ルーキーに日本中が注目する。調整遅れなどもあり心配する声もあるが、どうも杞憂に終わりそうだ。数日前、梅雨入り直前の千葉・鎌ヶ谷に清宮はいた。
「技術的にも、メンタル的にもまったく心配していない。それくらい堂々とやっている。自分のやらなければいけないこともしっかりとわかっている。今はたまたまファームにいるけど、ここからさらに成長していくんじゃないでしょうか」
北海道日本ハム荒木大輔2軍監督は間近に接している大物ルーキー清宮について語ってくれた。
「僕自身は投手出身だから打撃のことほとんどは打撃担当にまかせている。でもアマチュア時代にあれだけの実績を残してきた。幸太郎はキャンプからずっと1軍に帯同していたので、じっくり見るのはファームに来てからが初めて。まず感じるのはスイングがしっかりしている。力強いし速い。これまでも相当振りこんできていたというのはわかる」
「自分もプロの世界にいてわかる部分もあるけど、何がすごいって一流投手が本気で勝負にきていること。普通、高卒1年目の打者なら、相手投手も多少、上から目線的なものがあってもおかしくない。それなのに全力で抑えにくる。それだけでもすごいことだし、幸太郎にとって大きな財産になっている」
清宮は体調不良で開幕2軍スタート。5月2日に1軍昇格後はスタメン出場の機会も多かったが、 28日に2軍降格。約1か月間の1軍での成績は、打率.179、1本塁打、2打点。即戦力として騒ぐ周囲が満足するような成績を残すことはできなかった。
「まったく問題ない。周囲は大きく騒ぎ立てていたけど、まだ高卒1年目ですからね。本人もそのあたりはわかっているし、気にしている様子もない。今、できることを黙々とやっている。本当にしっかりしていると思う」
高校通算111本塁打。リトルリーグ時代から活躍し、世界的にも注目を浴びてきた。そしてその期待に対して必ず結果で応えてきた。
同じ大物ルーキーだった荒木監督、清宮は「浮ついたところがまったくない」
荒木監督は同じ早実出身。高校時代は甲子園に5季連続出場を果たし元祖アイドルとして社会現象まで巻き起こした。世間の注目を一身に集めてプロ入りした経緯も清宮と重なるものがある。
「周りはいろいろ言うんですよね。やっぱりどんな時代もスターを求めて作り出そうとするのは変わらない。でも選手というのは意外とそういうものに対しても免疫みたいなものはできている。幸太郎もそう。地に足がついているというか、浮ついたところがまったくない。そういう意味ではまったく心配する必要がない」
「本人より逆に周囲が気を使ってしまうものなんです。あんなに騒がれて大丈夫なのか、と。僕も今の立場になって多少、心配はしていますけど、自分のことを振り返ってみると意外とたいしたことではないんですよね」
2軍打撃コーチは吉岡雄二。帝京高時代は全国制覇を経験し鳴り物入りで巨人入りしたスラッガー。荒木監督同様、同じ東京の強豪校出身の先輩にあたる。
「僕と幸太郎は立場がまったく異なるから比較はできないけど……。でも高卒でプロ入りしてきた打者ということで考えると、技術的にもずば抜けている。もちろん身体などももっと強くなると思う。これだけは確かですね。また、技術的な部分では選手それぞれの適正もある。一概には言えない。だから本人が感じ取るのがもっとも確実だと思う」
「1か月ですが1軍にいていろいろと感じたものがある。それは本人にしか分からないもの。技術的にも今の自分に何が足りないかも、感じていると思うし、その上で今はいろいろなメニューにも取り組んでいるはず。1軍から2軍に来たことは決して無駄じゃない。ここからどうなっていくのか楽しみですね。我々は変に口を出すのではなく、しっかり見守って本人が進みたいようにやってほしい。その手助けできればとは思っていますけどね」
荒木監督が語る清宮の「成長」、2軍指揮官としての「責任感」
荒木監督は身体の部分に関してはまだまだのびしろが大きいと語る。
「すごい実績を残してきたといっても、まだ19歳ですからね。これからまだまだ成長する。身長や体重は飛躍的に大きくなったりしなくても、厚さとか強さとか速さとか……。そういう部分ではプロ野球選手として毎日、練習、実戦を重ねることで成長する」
「リトルの時も身長は今と、さほど変わらなかった。でも強さとかでいうとまったく異なる。数年後に入団会見などの映像を見る機会も出てくると思うけど、その時は別人みたいに見えるはず。それは僕自身もそうだった。そういう部分もプロのすごさだと思うからね」
荒木監督自身、指揮官として1年目。選手と一緒に成長していく気持ちは強い。
「指導者として埼玉西武、東京ヤクルトと北海道日本ハムの3球団しか知らない。そんな若造を呼んででくれて、しかもこんな素晴らしい選手が来てくれた。責任感も感じるけど、楽しみだし、うれしい。彼だけでなく、多くの若手選手の成長を見て行きたい」
雨がぱらつく試合前練習、室内練習場で黙々とティー打撃をこなしていた。その後、サーキットトレーニングなどで時間ギリギリまで追い込む。荷物をたくさん抱えて少し疲れ気味に見えたが、試合が始まると表情も一変、いきなり本塁打を放った。
取材対応などを見ても、世間で言われる「しっかりした好青年」であることが伝わってくる。だが本塁打後のチームメートとの喜びようなどからは、同時にあどけなさも感じた。
ダルビッシュ有、中田翔、大谷翔平……。そうそうたるメンツと同じ日本ハムのドラフト1位の系譜に名を連ねる。しかも注目度は同じかそれ以上に高い。若干19歳が背負うには大きすぎる。でも清宮ならやってくれるのではないか。そう思わせるものが備わっているように感じた。
「少年よ大志を抱け」
かつての偉人が語ったように、北の大地には若者の挑戦がよく似合う。
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