知られざる裏方の存在 選手を支えるプロフェッショナルたち

パ・リーグ インサイト 新川諒

2016.3.31(木) 00:00

(C)PLM
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プロ野球チームには選手、監督、コーチだけでなく、数多くの裏方スタッフが所属し、チームを支えている。時には観客の目にも入るブルペンキャッチャーから、負傷者が出たときにベンチから飛び出てくるトレーナーまで、舞台裏では多くの人間が選手を支えている。

選手の体を最高の状態に保つために治療やメンテナンスをするトレーナー、マッサージ師、理学療法士。さらには選手のコンディショニングをサポートするトレーニングコーチ。球団によるが栄養士、メンタルコーチを抱えるチームもあるだろう。そして選手、コーチ陣がグラウンドで不自由なく「仕事」に集中できる環境を作るマネージャーや用具係。選手たちが試合で実力を発揮するために準備を支える打撃投手。さらには次の対戦相手を分析する先乗りスカウトたち。データや映像を管理するビデオ・コーディネーター。そして外国人選手を支える通訳やメディアの窓口となる広報。数多くの人間がスタッフとして関わり、チームと行動を共にしてグラウンドでプレーする選手たちを支えている。

広報部長が打撃投手も兼任?

米国でも知られざる裏方は数多く存在するが、比較的日本の現場とは大きく違いはなく、細かい役割や役職が違うが、根本的には似たような仕事が多数存在していると思う。日米で共通していると思うが、裏方は自身の役職だけでは表現できないほど、さまざまな業務を兼任している場合が多い。

日米で1つ大きな違いと言えば、米国では打撃投手という役職はなく、コーチ陣がその役割を兼任していることだろう。あるチームでは、コーチ陣だけでは左利きで投げられる人間が足らず、対戦相手が左先発投手の場合のみ、臨時のコーチ補佐として地元の大学コーチが来ていたこともあった。私がインターンをさせて頂いたクリーブランド・インディアンズでは、なんと広報部長が打撃投手を兼任していた。コーチ陣も日々役割を分担し、1人に負担が掛かり過ぎないよう、スケジュールを立ててシーズンを送っている。

ブルペンキャッチャーもチームによっては1人しかいないため、試合中2人の投手が同時に投球練習を始めるときには、別のスタッフがブルペンで投球を受ける場面もあった。ブルペンキャッチャーはキャンプから投手の投球を受け続け、毎朝投手が投球用に使う新球をメジャー特有の泥で磨く作業を担っており、シーズン中チームのために働き続ける。

メジャー独特?「トラベリング・セクレタリー」と「クラビー」

ユニフォーム組はそれぞれが何役も担っている場合が多いが、それ以外で一番重要な役割を担うのが「トラベリング・セクレタリー」と呼ばれる役職だ。表舞台に出てくることは稀だが、彼らは選手、コーチ陣、チームに帯同している全ての者たちが居心地良く過ごせるようにする潤滑油のような役割を担う存在だ。移動で利用するチャーター機を扱う航空会社、バス会社とのやりとり、宿泊するホテル、そして選手の家族に関する要望や生活面でありとあらゆる面をサポートする。

遠征中はもちろんだが、いくら本拠地とは言えシーズンオフは別の街や国で過ごす選手が大半なため、シーズン中は「ホーム」の おススメレストランや、地元スポーツ観戦に訪れたい時など、選手が一番に頼るのはトラベリング・セクレタリーだ。いわゆる彼らはホテルのコンシェルジュの一面も持ち合わせる必要がある。選手の移動が目まぐるしいメジャーリーグ、そしてマイナーリーグでは、彼らの段取りの良さが必要不可欠だ。マイナーから昇格する選手が試合に間に合わないという事態は作ってはならないのだ。

余談だが、ボストン・レッドソックスが2008年、ロサンゼルス・ドジャーズへマニー・ラミレスという看板選手をトレードで放出した話は、みなさんの記憶に残っているかもしれない。これはすでに報道でも出ているが、その要因となったのはトラベリング・セクレタリーとのいざこざだった。もちろんトレードの理由は1つではないだろうが、チームがそれだけトラベリング・セクレタリーの存在を重要視していることがうかがえる出来事だったと、記憶している。

メジャー特有の役職で言えば、「クラビー」と呼ばれる存在もそれに含まれるだろう。シーズン中は選手たちが自宅よりも長い時間を過ごすクラブハウスを管理し、洗濯、用具の手入れなど、選手の世話をしてくれる存在だ。基本的にホーム側に5~6人、そしてビジターチーム用にも同様の人数がスタッフとして存在している。その中でもチーム職員として雇われているのは、多くても3人程度。それ以外はアルバイトのような扱いだ。その懐事情も大半の選手たちは理解しているため、「チップ」という合理的な制度で仕組みが成立している。

遠征の際には、クラブハウス内でもお世話をしてくれるスタッフが随時存在する。基本的にチームに帯同する自チームの用具担当者は1人もしくは2人なので、敵地に行ってもサポートをしてくれるスタッフが存在するのは、選手たちにはありがたいことだろう。

同地区であればシーズン中何度もそこを訪れるので、自然と関係は深くなっていく。良いクラビーは対価としてチップを貰えるが、これも選手に気持ちよく払わせるかどうかはそれぞれの腕の見せ所だ。何度も訪れている選手の「お気に入り」アイテムをしっかり用意しておくと、彼らからの信頼も増すだろう。メジャーの規定ではクラブハウススタッフに毎日支払う額というのも、あらかじめ決まっている。それ以上の額となるかはクラビーたちの「おもてなし」次第だろう。

試合前後の食事、ロッカーの配置、用具や練習着をどのように掛けておくかまで選手たちはルーティーンを大切にするため、それをサポートできる人材は喜ばれる。球団の職員がライバルチームの選手を気持ち良くプレーさせるというのも皮肉なことだが、これもメジャーリーグの仕組みなのだろう。

「二刀流」どころではない!? マイナーでの兼務ぶり

多くの人間が現場を支えるメジャーであっても、一人が何役もこなす必要がある。その舞台がマイナーとなると、裏方スタッフの多忙さはさらに増す。マイナーではメジャーのトレーナーのような3~4人体制とは異なり、基本的にたった一人で25人の選手を管理しなくてはいけない。さらにマイナーのトレーナーは、先ほども出てきたトラベリング・セクレタリーの任務も担うことになる。これまでいろいろなレベルでさまざまな役職の方と仕事をさせていただく機会があったが、移動を要するマイナー球団でのトレーナーほどタフな仕事はないのではないかと思う。

ダブルA、トリプルAとレベルが上がるにつれて、彼らが扱うのはメジャー予備軍だ。健康状態やメジャーからのリハビリ組の状況を、随時メジャー側に報告する仕事もある。そしてメジャーの豊富なコーチ陣とは違って、マイナーでは(組織によって差もあるが)監督、打撃コーチ、投手コーチ、トレーニングコーチと4名しかスタッフがいないチームも多い。監督が試合中は3塁コーチも務め、投手コーチは先発・ブルペンの両方を支える。

マイナーの施設は近年では素晴らしい設備が整ったボールパークが多いが、時にベンチからブルペンへと繋がる電話が故障している場合もある。その場合ブルペンコーチが存在しないため、控え選手が伝達役となってブルペンに走って伝言をしたり、ベンチにいる投手コーチがジェスチャーで選手にメッセージを伝えたりと、いろいろなシーンを目にすることがある。

マイナーで働くスタッフはこういった過酷な現場で鍛えられてメジャーを目指す。選手たちだけではなく、裏方たちにとってもシビアな競争を勝ち抜いた先にあるのが、メジャーなのだ。グラウンドに立つ選手たちはもちろんだが、それを裏で支えるスタッフたちも競争を勝ち抜き、下積み生活を経験した者がほとんどだ。

日米の野球界を支える裏方の多くも狭き門を勝ち抜いて、その職を勝ち取った。表舞台に立つことはほとんどなく、黒子の存在であり続ける彼らにとっても、長いシーズンが再び始まった。

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パ・リーグ インサイト 新川諒

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