ホークス・柳田悠岐と楽天・岸孝之が一歩リード セイバー目線で選出する5月のパ月間MVP

Full-Count 鳥越規央

2018.6.6(水) 10:42

福岡ソフトバンクホークス・柳田悠岐選手と東北楽天ゴールデンイーグルス・岸孝之投手
福岡ソフトバンクホークス・柳田悠岐選手と東北楽天ゴールデンイーグルス・岸孝之投手

埼玉西武の勢いの陰りは盗塁成功率の低下が原因か  

4月の勢いが陰った埼玉西武と、着実に調子を上げてきた北海道日本ハムと福岡ソフトバンク、投手力で月間の勝ち越しを決めたオリックスとのゲーム差が縮まってきた5月のパ・リーグ。5月のチーム成績は以下の通りです。

北海道日本ハム 15勝10敗 打率.227 本塁打27 防御率 3.70
オリックス 15勝10敗 打率.232 本塁打11 防御率 3.71
福岡ソフトバンク 14勝12敗 打率.267 本塁打33 防御率 3.71
楽天 11勝12敗 打率.246 本塁打22 防御率 4.45
埼玉西武 10勝14敗 打率.267 本塁打24 防御率 4.50
千葉ロッテ 10勝14敗 打率.239 本塁打11 防御率 4.11

打線が湿ってきたとされる埼玉西武ですが、それは3、4月の成績が良すぎたための錯覚で、5月のチーム打率は福岡ソフトバンクと僅差のリーグ2位、チームOPSはリーグ1位と、リーグのトップクラスの成績を残していることに変わりはないのです。ただ気がかりなのは防御率の悪化もさることながら、埼玉西武のチーム盗塁成功率が65.9%と70%を切っていること。盗塁と盗塁刺の得点価値から換算すると71%以上でなければ盗塁による得点価値はプラスにならないので、これを6月以降改善できるかどうかに注目です。

それでは、セイバーメトリクスの指標による5月のパ・リーグ月間MVPを選出していきましょう。

打力だけでなく走力の高さでも貢献した柳田

○5月月間MVP パ・リーグ打者部門
柳田悠岐(福岡ソフトバンクホークス)
OPS1.119 wOBA0.477 RC27 11.66 長打率0.698(すべてリーグ1位)
出塁率0.421(リーグ2位)

候補選手は5名ですが、その中でも有力な候補の成績はこちらです。

柳田悠岐
打率.387 26試合41安打7本塁打23打点 得点圏打率.433
秋山翔吾
打率.356 24試合37安打6本塁打20打点 得点圏打率.412
デスパイネ
打率.261 26試合23安打8本塁打19打点 得点圏打率.214

連続試合出塁36、連続試合安打22、さらには17日の楽天戦では史上初シーズン2回目のサイクルヒットまであとホームラン一本のところまでくるという、印象に残る記録を残した5月の柳田。これだけでも、公式の月間MVPに推挙される根拠は十分ですが、セイバーメトリクスの観点からも高評価となっています。

柳田悠岐
OPS 1.119 出塁率0.421 長打率 0.698 wOBA 0.477 RC27 11.66 盗塁成功率100%
秋山翔吾
OPS 1.038 出塁率 0.422 長打率 0.615 wOBA 0.447 RC27 9.50 盗塁成功率33%
デスパイネ
OPS 0.991 出塁率 0.389 長打率 0.602 wOBA 0.419 RC27 8.50

柳田のバッティングもさることながら、盗塁成功率が100%。開幕からも13回試みてすべて成功させています。また走塁による得点価値も高く、打力だけでなく、走塁でもチームに大きく貢献しています。

難航予想される投手部門は岸の内容が高評価

○5月月間MVP パ・リーグ投手部門

まずは候補選手7名の月間成績を振り返ってみましょう。

岸孝之
防御率1.35 40回 3勝0敗 奪三振率8.33 被打率0.177
千賀滉大
防御率0.86 21回 3勝0敗 奪三振率11.14 被打率0.197
ボルシンガー
防御率2.16 25回 4勝0敗 奪三振率7.20 被打率0.225
武田翔太
防御率3.41 29回 2勝2敗 奪三振率6.52 被打率0.196
アルバース
防御率2.81 32回 4勝0敗奪三振率6.47 被打率0.260
石川柊太
防御率3.18 30回 4勝1敗 奪三振率4.80 被打率0.250
増井浩俊
防御率0.00 12回 0勝0敗8S 奪三振率9.75 被打率0.081

今月のパ・リーグ投手部門の選出は難航しそうです。勝ち星では、ボルシンガー、アルバース、石川が4勝していますが、それらの投手よりも3勝の岸、千賀が防御率で上回っています。しかし、千賀は5月の規定投球回数 (26)より少ない回数しか投げてないため、防御率0.86は評価の対象外となることでしょう。また月間8セーブで防御率0.00の増井も12試合で8セーブでは、先述の先発投手を超える評価を得るのは厳しいでしょう。
この中で、岸が3勝のうち2つの完投勝利、うち一つは完封での勝利です。また5月31日のDeNA戦では、9回3失点で勝ち負けつかずですので、実質3完投ということになります。沢村賞式クオリティスタート (7回以上投げて自責点3以内)も5試合中4試合と、こういった点が評価され、最も月間MVPに近いのではないかと予想します。

それでは、セイバーメトリクスによる評価での上位の選手はどうなるでしょうか。以下に紹介します。

岸孝之
FIP2.22 被本塁打2 WHIP0.70 QS率100% K/BB12.30 RSAA7.86
武田翔太
FIP2.29 被本塁打0 WHIP0.90 QS率50% K/BB3.50 RSAA5.46
上沢直之
FIP2.63 被本塁打1 WHIP0.94 QS率80% K/BB3.38 RSAA5.26
千賀滉大
FIP2.07 被本塁打0 WHIP1.05 QS率100% K/BB 3.25 RSAA4.47
アルバース
FIP2.78 被本塁打2 WHIP1.06 QS率80% K/BB11.50 RSAA4.31

FIPはすべて2点台と優秀です。武田と千賀は被本塁打0、WHIPは3人が1以下、岸と千賀がQS率100%、奪三振と与四球の比率を示すK/BBは岸とアルバースが10超えと一長一短の評価で、誰かが突出しているというわけではなさそうです。また千賀は他の投手の半分のイニング数しか投げていませので、そこは加味しなければならないでしょう。

リーグ平均に比べ7点以上の失点を防いだ岸の投球

そこで、RSAA (Runs Saved Above Average)という、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標によって評価してみます。定義式は以下の通りです。今回はFIPベースでのRSAAを使用します。

(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9

この式では、投球回数の多さも依存をしていることがわかります。
これによると、岸のRSAAが7.86でリーグ1位となります。つまり今月の岸の投球が平均的な投手に比べて7点以上の失点を防いだという評価になります。
よってパ・リーグの月間MVPは

岸孝之 (東北楽天ゴールデンイーグルス)
登板5 3勝0敗
防御率1.35 FIP 2.22 WHIP 0.70 QS率 100% RSAA7.86 (リーグ1位)
を選出いたします。

なお、特別表彰というわけではないのですが、月間の防御率が1.86で、月間首位の原動力となった日本ハムファイターズ救援投手陣と投手コーチ陣の采配も評価に値する活躍を示したことをお知らせします。


鳥越規央 プロフィール

統計学者/江戸川大学客員教授

「セイバーメトリクス」 (※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ (2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

文化放送「ライオンズナイター (Lプロ)」出演

千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中

記事提供:Full-Count

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Full-Count 鳥越規央

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