NPB復帰1年目にして、新天地で抜群の安定感を発揮している
福岡ソフトバンクの藤井皓哉投手が、開幕からリリーフとしてすばらしい投球を披露している。藤井投手は2020年まで広島でプレーしていたが、一軍の舞台では結果を残せず。独立リーグを経て、育成選手としてNPBに復帰し、今季開幕直前に支配下へと返り咲いた苦労人だ。
開幕からセットアッパーとしてフル回転していた又吉克樹投手が骨折で戦列を離れたこともあり、藤井投手の復帰は、後半戦のチームにとっても大きな意味を持ってくる。
今回は、そんな藤井投手がこれまで送ってきた、波乱万丈の球歴を紹介。それに加えて、「各種の指標」、「球種別被打率と結果球割合」、「投球コース」という3つの要素から、広島時代と現在に共通する長所と、進化を遂げた部分について、より深く掘り下げていきたい。
広島時代も一軍登板は経験したが、ブルペンへの定着は果たせなかった
藤井投手がNPBで記録している、年度別成績は下記の通り。
藤井投手はおかやま山陽高校から、2014年のドラフト4位で広島に入団。プロ入りから2年間は一軍登板がなかったが、3年目の2017年に一軍初登板を果たす。続く2018年は8試合に登板してプロ初勝利もマークしたが、投球に安定感を欠き、一軍定着はならず。一軍登板なしに終わった2020年オフに戦力外通告を受け、いったんはNPBの舞台から離れた。
2021年は独立リーグ・四国アイランドリーグplusの、高知ファイティングドッグスに入団。新天地でリリーフから先発に転向すると、11勝3敗、防御率1.12という抜群の成績を残し、最優秀防御率、最多奪三振の二冠に輝いた。5月9日には福岡ソフトバンクの三軍を相手にノーヒットノーランを達成するなど、持てる実力を存分に発揮してみせた。
その活躍が認められ、2021年オフに育成選手として福岡ソフトバンクと契約。2年ぶりとなるNPB復帰を果たすと、開幕前の対外試合で好投を続けた。そして、オープン戦では5試合で防御率1.50、6イニングで10奪三振という圧巻の数字を残し、開幕前の3月22日に支配下契約を勝ち取った。
そのまま開幕を一軍で迎えると、その後もブルペンの一角として活躍。3月27日から6月8日まで2カ月以上にわたり、21試合連続無失点という快投を続けた。途中新型コロナウイルス感染の影響で離脱があったものの、前半戦終了の時点で13ホールドポイントを記録し、失点はわずかに2というすばらしい投球を見せている。
圧倒的な奪三振率を誇る一方で、2つの大きな課題も存在していた
次に、藤井投手がNPBで記録してきた年度別指標を見ていきたい。
藤井投手の最大の持ち味は、なんといっても圧倒的な奪三振率だ。広島時代の2018年と2019年に、いずれも11を超える奪三振率を記録。独立リーグを経てNPBに復帰した今季はその長所にさらに磨きがかかり、奪三振率は13.65という驚異的な領域に達している。
だが、キャリア通算の与四球率は4.64とかなり高く、特に2019年は6.1回で9奪三振と大荒れだった。同年は二軍では26試合で防御率0.33と好投していただけに、二軍よりも選球眼の良い打者が揃う一軍では、制球難が持ち味を殺してしまったと考えられる。
また、広島時代の2018年と2019年は被打率も高く、1イニングごとに出した走者の平均値を示す「WHIP」も、2018年は1.84、2019年は3.47という高い数字に。一軍でも十二分に通用する奪三振力を持ちながら、それ以外の部分が粗削りだった点は否めなかった。
独立リーグでの研鑽を経て、積年の課題が改善されつつある
そして、独立リーグを経てNPBに復帰した今季は、それらの課題にも改善が見られる。与四球率は3.41と依然としてやや高くはあるが、キャリア平均よりも1点以上低い数字に。それにより、奪三振を四球で割って求める、制球力を示す指標の「K/BB」も、優秀とされる水準の3.50を上回っている。
加えて、被打率の面でも今季は.081という素晴らしい水準で、球の質が大きく向上していることがわかる。課題だったWHIPも0.63と極めて優秀な水準に到達しており、高い奪三振能力を維持しながら、大きな2つの課題を克服しつつあることがうかがえる。
2018年の結果を考えれば、2019年の変化は理にかなっていたが……
続いて、広島時代の2018年と2019年、そして2022年の球種別被打率と、結果球の割合を確認しよう(図は2022年6月までのデータを元に作成)。
2018年は速球とフォークの割合に大きな差がなく、時折スライダーも交えていた。この年はストレートの被打率が.214と比較的低い一方で、フォークとスライダーはどちらも被打率.375以上と、変化球の精度に課題を残している。
続く2019年は前年の結果を受けてか、ストレートの割合が65%近くまで増加。代わりにフォークが前年の半分近くまで低下したが、同年は変化球の被打率がさらに悪化しただけでなく、速球も被打率.412と打ち込まれ、前年の結果から来る見立て通りにはいかなかった。
球種別の被打率が大きく改善され、配球もよりバランスの良いものに
そして、今季の被打率はストレートが.067、フォークが0.97と、軸となる2球種がいずれも1割未満という素晴らしい数字を記録。加えて、スライダーの被打率も.118と非常に低く、どの球種も精度が大幅に改善していることが見て取れる。
割合に目を向けると、2022年は速球の割合が5割を少し超す程度の数字、フォークが約30%と、どちらも今回取り上げた2シーズンの中間に近い割合に。また、スライダーの割合が18.7%まで増えており、各球種の質が向上したことで、配球面でもよりバランスが取れつつあるようだ。
投球コースの面においても、制球力の改善が示されている?
最後に、広島時代の3シーズンの合算と、2022年の投球コースを比較しよう(2022年6月までのデータを元に作成)。
2019年以前と2022年のどちらも、ストライクゾーンの右側から低めに行くボールが多い。スライダーが曲がっていく方向でもあるだけに、藤井投手にとってはとりわけ多投しやすいコースとなっているようだ。
その一方で、ストライクゾーン左の真ん中に行く回数が最も多い点には変わりがないものの、2022年は2019年以前に比べて、ストライクゾーンにおける偏りが少なくなっている。
また、2019年まではストライクゾーンの真ん中低めに行く球が多かったが、2022年はそのコースだけが極端に少なくなり、代わりにボールゾーン低めの球が増加。フォークボールが落ちきらずにストライクゾーンに行くと危険なだけに、この傾向の変化も、藤井投手の制球力向上の表れと言えるだろう。
育成から這い上がった選手の中でも、ひときわ異彩を放つ経歴の本格派だ
ストレートとフォークを軸にスライダーも交え、多くの奪三振を奪う。藤井投手の投球スタイルには、いわゆる本格派という言葉がぴったりと当てはまる。かつては制球力や球のキレが及ばず、一軍では実績を残せなかったが、現在はそれらの課題も克服。四球から自滅するケースもなくなり、本来の持ち味がフルに生かされるようになっている。
広島時代の課題を糧に、独立リーグで研鑽を積み、ついにプロの舞台で本領を発揮しつつある藤井投手。ホークスでは育成出身選手の活躍がたびたび話題となるが、その中でもひときわ異色の経歴を持つ藤井投手の活躍は、挫折を味わった経験を持つ人々に対しても、大きな勇気を与えるものとなるはずだ。
文・望月遼太
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