日の丸とファンの声援を一身に背負って立ち向かった侍ジャパンが、ワールドベースボールクラシック(以下WBC)での激戦を終えたのは日本時間3月22日。1対2というスコアでの敗戦に、悔しい思いをしたのはファンだけではなかった。
「これだけ盛り上がったのだから、もし決勝進出だったならばもっとすごい盛り上がりになったはず。選手、監督・コーチ、スタッフの方々は本当に頑張って、僕自身も本当に楽しませてもらいました。が、貴重すぎる機会を逸したことが、一人のプロ野球関係者として本当に悔しい」。パシフィックリーグマーケティング(以下PLM)のマーケティング室・上野友輔氏はその時を振り返り、悔しそうな表情を見せた。
WBCでの侍ジャパンの試合は、CS放送だけでなく地上波民放でも放送され、視聴率は20%超えを連発。数字の上では日本にいる5人に1人が、「野球」を見ていたことになる。また昨今はソーシャルメディアが普及しているだけに、WBC期間中に野球を見ずとも「野球」というフレーズに触れた人は、もっと多くいたことだろう。事実、普段野球に関わりのない人までがWBCに関する投稿をしていたという目撃談は、ソーシャルメディア界隈で多数見受けられた。
かつては巨人戦を中心に地上波でプロ野球を目にする機会は十分あったが、情勢の変化により、一部地方を除いて地上波で「プロ野球中継」を目にすることはできない。それだけに、地上波放送という千載一遇の機会、さらには国際大会決勝という否応なしに注目度が高くなる機会を、前回大会に続いて失ってしまった。
パ・リーグTVのプロデューサーを務める上野氏は、WBC期間中はオープン戦のライブ配信など通常のオペレーションに加え、特別な体制を敷いていたという。
「野球に注目が集まるこんな機会はそうそうないと思い、普段パ・リーグの情報を伝え続けるオペレーションとは異なり、侍ジャパンの試合をパ・リーグTVの公式ツイッターアカウントと、ライト層向けの『パ・リーグTV Lite』で実況させてもらいました。当初はパ・リーグ所属選手を中心に取り上げるつもりでしたが、途中から盛り上がってそんなことどうでもよくなり…(笑) 筒香選手や山田選手の動画などをパ・リーグTVから探して紹介したり、好調だった小林選手を『世界の小林』とツイートして巨人公式ツイッターにリツイートしていただいたり、セ・パの壁を超えてしまいました」
一見するとハチャメチャのように見えるが、根本には「日本のプロ野球をなんとしても盛り上げたい」という思いがある。上野氏は「もし日本のプロ野球がMLBやNFL、NBA、さらには欧州サッカーリーグなどと並ぶようなビジネス価値を世界において得られるのであれば、自分の命を差し出しても構わない」と平然と言ってのける。
「今回のリーグを飛び越えたツイートもそうですが、PLMの行う一つ一つの施策は日本プロ野球のファン拡大につながると信じ、リーグ公式動画配信サービスのパ・リーグTVを中心にさまざまな取り組みを行っています。まだまだやるべきこと、改善すべきことは山積みですが、ファンの方々のためにという思いをもって課題に取り組んでいます」
PLMは、MLBのリーグビジネスをベンチマークとしてパ・リーグ6球団による共同出資で2007年に設立された組織である。その中で2012年にスタートした「パ・リーグTV」はリーグビジネスのいわば「象徴」(上野氏)。パ・リーグTVの成長が、そのままリーグビジネスとしての成長、日本プロ野球界、ひいては日本のスポーツ業界の成長につながっていく。ダイレクトにファンを呼び込めるSNSはそのプロモーションの一端を担うものであるからこそ、今回のような侍ジャパンツイートを行ったのだ。
「パ・リーグ6球団のファンクラブ会員は月額950円でパ・リーグTVを利用できるとはいえ、価格だけを見れば、他社のサービスに惹かれることもあるかもしれません。しかし、『一緒に日本のプロ野球を成長させていきたい!』という思いが少しでもあるならば、リーグの直の収入増につながるパ・リーグTVを利用・視聴してほしい」と上野氏は語る。毎年恒例となったパ・リーグTVの開幕無料キャンペーンも、WBCで野球に興味を持ったり、興味を取り戻したりしたファンが気軽に野球との接点を持ち、盛り上がりを感じられる機会となる。これまでの開幕無料とは意味合いが異なり、PLMの「プロ野球の新しいファンを増やす」というミッション達成に向け、裾野を広げる重要な取り組みとなる。
「WBCをきっかけに『顔がカッコイイ』でも、『仕草がカッコイイ』でも、『何となく盛り上がってて楽しそう』でも、入り口はどこでも構わない。いまコアなファンとなった方々も、最初はみんな初心者だったのですから。とにかく野球に興味を持った一人でも多くの人に、少しでも野球との接点を持ち続けてもらい、いずれは実際に球場へ足を運んでもらいたい。1回球場に行けば、その楽しさは一気に何倍にも何十倍にも膨れ上がるはず」と、上野氏は言葉に力をこめる。
また裾野を広げるだけでなく、「コアなファン」も楽しめるようにパ・リーグTVでは今年からファームの試合ライブ配信球団数を5球団にまで増やした。北海道日本ハム、埼玉西武、福岡ソフトバンクはそれぞれの本拠地で行われる主催試合を全試合ライブ配信予定で、オリックスは新本拠地・舞洲での試合のライブ配信を年間約20試合において行う予定。また千葉ロッテもZOZOマリンで行われる「親子ゲーム」の4試合を配信予定だ。これは対戦するビジターチームも楽しめるだけに、イースタン・リーグ、ウエスタン・リーグとなって「セ」と「パ」が入り混じるファームにおいては、「セ・リーグファンも楽しめるコンテンツ」(上野氏)となり、図らずもセ・パの壁を超えて楽しめる形が広がった。
ちなみにプロ野球を盛り上げたいという思いを持つのはPLMにおいては上野氏だけでなく、オペレーションチームのスタッフ共通の想いだという。「常駐スタッフ、学生インターン、アルバイトといくつか業態はありますが、野球の試合を年間3~40試合を見る人はざらにいます。行動に起こして野球好きを体現する人が多い」という。中には、「わざわざメットライフドームに寄ってスタジアムグルメを買ってから出社したり、昼にファームの試合を見てからナイターの業務に臨んだりする強者」もいるという。
野球を心の底から愛し、少しでも多くの人に野球の楽しさを伝えたいという思いを持つ人々によって動かされているPLM、そしてパ・リーグTV。その人々の想いとともに、3月31日、今年もパ・リーグは戦いの幕を開ける。
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