育成契約も冷静に受け止めていた田上「できていないことがたくさんあった」
福岡ソフトバンクは7日、育成選手だった田上奏大投手と支配下契約を締結した。2020年ドラフト5位で入団した田上。投手歴わずか半年でのプロ入りということもあり、時間をかけて育成する球団方針のもと、プロ1年目を終えた昨オフに育成契約に。だが、そこから驚異的な成長スピードで再び支配下契約を勝ち取った。
育成契約を結んでまだ5か月も経っていないが、この間に田上は大きな成長を遂げた。昨秋キャンプが終わったタイミングで、球団から2022年の支配下契約を結ばない旨を通達された。高卒ルーキーが1年目を終えた段階で非情通告を受けた現実。もちろん「悔しい思いもあった」という一方で「できていないことがたくさんあったので、やることは変わらない」とこれまでと変わらず練習に取り組んできた。
3月のウエスタン・リーグ開幕戦では“開幕投手”を託された。大役を託した小久保裕紀2軍監督は「すぐに支配下になって上で活躍出来るような力が僕はあると思う」と高い評価と期待を口にしていた。田上自身も「めちゃくちゃ嬉しい」と意気に感じ、見事好投。5回3安打無失点6奪三振と期待に応え、公式戦“初勝利”をマーク。次の登板でも5回1失点と好投し、2勝目を挙げていた。
今年の春季キャンプで、田上は小久保2軍監督に声をかけられた。「良い球投げてるな」。投げるボールのみならず、野球に取り組む姿勢も評価された。小久保2軍監督が就任したばかりの昨秋キャンプ中には、生い立ちからプロ生活についてなど、様々な話をしてもらった。その中で心に残ったのは「練習量をやってこそ形が出来てくる」「言い訳をしないこと」。元々が黙々と練習に打ち込める選手。再び支配下への思いを強くし、今まで以上に練習に打ち込んだ。
気持ちの強さと前向きさが支配下復帰へのエネルギーになった
まず、取り組んだのは“投げる体力”を付けること。ブルペンに入る頻度や量を計画的に増やしてきた。昨年までであれば、イニングや球数が増えてくると目に見えてバテて球速も落ちたが、今年は「球数が増えても全然動けます」と手応えを感じている。
もう1つは肉体改造。ウエートトレーニングのセット数も負荷も増やして、自らを追い込んできた。体重を維持しながら体脂肪が減り、筋肉量が増えた。これまでは最速154キロの粗削りな素材型投手だったが、「投げていたら勝手にバランスを掴んできて、コントロールも安定してきました」。両サイドに投げ分ける練習に力を入れてきたのもあって、制球面も改善。取り組んできたことが形になり、結果として表れてきている。
思い返せば、1年目は経験不足の中で先輩たちに必死に食らいついた。まずは投手というポジションに慣れることから始まったプロ生活。走者を出した時の投球や牽制、バント処理など、投手として不可欠な技術の部分で力不足を痛感していた。ただ、決して落胆することなく「ここからどこまで行けるのかな? とワクワクしています」「だいたいが初めての経験なので、思い切りやらないともったいない」と、いつでもポジティブだった。
気持ちの強さと前向きさが再び支配下契約を勝ち取るエネルギーになったのではないだろうか。田上のポテンシャルと実力を早くから認めていた小久保2軍監督も吉報に「ビックリした。こんなに早くいくとは思ってなかった。自分の子どもより小さいのに、心配でしょうがないです」と笑いを交えて親心を覗かせつつ「何も怖がることなく、キャッチャーミットだけ目掛けて投げてこい」とエールを送った。
「今日からスタートだと思います。育成になった時と変わらず、上を目指してやっていくことは変わらない。これからも、もっと1軍で活躍できるような実力つけて頑張っていきたい」。今年になって2軍公式戦で初勝利をマークしたばかりの田上。底知れぬポテンシャルを秘める右腕は「1軍で初勝利を掴みたい」と次なる目標へ“やることは変えず”燃えている。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)
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