多くの報道陣とファンが注目する今キャンプ「雰囲気が明るい」
今季プロ野球の話題といえば“BIGBOSS”こと北海道日本ハムの新庄剛志監督だろう。就任発表からキャンプインまでのオフ期間中は積極的にメディア出演を重ね、「北海道日本ハムファイターズ」の名前を全国のお茶の間に浸透させた。キャンプが始まると、練習試合のオーダーを“ガラポン”で決めてみたり、巨人・原辰徳監督の“原タワー”にヒントを得た真っ赤な“BIGBOSS STAGE”を制作したりと、色々な角度から話題を提供している。
「ファンは宝物」とチームスローガンに掲げ、自ら率先してチームを盛り上げるビッグボス。2月中旬に沖縄・名護キャンプと国頭キャンプを訪れた解説者の五十嵐亮太氏は、キャンプ地に到着するなりその効果を感じずにはいられなかったという。「前年の優勝チームかというくらい多くのファン、報道陣が集まっていました。なにしろ雰囲気が明るくて、チームが前向きな様子が伝わってきました」と話す。
新庄監督は昨年11月の就任会見で「優勝なんか一切目指しません」と宣言。「高い目標を持ちすぎると、選手はうまくいかないと思っている」「何気ない試合を勝ちました。勝った勝った勝った……。それで9月あたりで優勝争いをしていたら『さあ優勝目指そう』となる」とも話していたが、五十嵐氏は「あの宣言のおかげで選手は目指す方向がはっきりしたと思います」と続ける。
「今年の北海道日本ハムは、比較的若い選手が多いチーム。ビッグボスのあの発言は、今年はチームで優勝を目指す段階ではなく、まずは選手個々のレベルアップを図ってチームとしての土台を積み上げましょう、という狙いが込められているのだと思います」
「優勝は目指さない」宣言に「選手は目標を立てやすいでしょう」
昨年の秋季キャンプでは、外野手に低く強い返球のコツを伝授し、今年のキャンプには陸上十種競技の元日本王者でタレントの武井壮氏や、通算381盗塁の赤星憲広氏ら幅広いジャンルの臨時コーチを招いたり、個々のスキルアップには最高のお手本を提供。選手がそれぞれの特性を強化できる環境を整えている。
監督や首脳陣が「優勝を目指さない」と宣言してチームの底上げに努める様子はメジャー球団の方針にも似ている。メジャーリーグでは多くのチームが3~5年をかけて“勝てるチーム”を構築。チーム再建初年度はシーズン中の勝敗は度外視して、若手を積極的に起用しながら成長を促す傾向にある。
「僕がいたパイレーツも、暗黒期があって勝てるチームになった。期待の若手を中心に据え、どうやってチームとして機能させるか。チームとして成長していく過程が、見ているファンにとってすごく分かりやすいし面白いと思います。昨季5位だった北海道日本ハムは挑戦する立場だと思うので、チームも選手もチャレンジしやすい状況にありますよね」
「優勝を目指さない」とはいえ、はなから勝負を放棄するわけではない。選手1人ひとりが成長するために自分がやるべきことを試合で実行できれば、自ずと勝利はついてくる。
「試合の中でアウトを取ることは大切だけど、その上で外野手であれば力強い返球ができるか、投手であれば渾身のストレート3球で三振が取れるか、長打が期待される選手は思いきりバットを振れるか、足が速ければカウントを見ながら仕掛けられるか、そういった部分での強化を並行させていこうとしている。個々のレベルアップを図りましょうという方針が徹底しているから、選手は目標を立てやすいでしょう」
新庄ビッグボスがもたらす「真剣勝負+α」の効果
ビッグボスの方針は1軍だけではなく、2軍にもしっかり浸透している。木田優夫2軍監督が率いる国頭キャンプでも、明るい雰囲気の中で前向きに練習に励む選手の姿が印象的だったという。
「1軍と2軍の意思疎通が上手くいかないと、チームとして分断されてしまう。選手にも迷いが出てしまいます。チーム方針が一貫していれば、選手は迷わず能力が伸びてくる。そのあたりは木田監督も徹底しているようでした」
新庄監督の就任から始まる北海道日本ハムのチーム改革。2年後、3年後を想像した時、五十嵐氏は大きな期待が浮かぶという。
「新庄監督はファンの好奇心を掻き立てたり、人の気持ちを動かしたりするのが上手な方。その影響はチームに必ず伝わるもの。選手はファンが少ない中でキャンプをするより、多くのファンやメディアが来ることでモチベーションや練習内容すら変わることもある。そういう意味では、今季の北海道日本ハムはいいスタートを切っているんじゃないかと思います。ある意味、野球はエンターテインメントでもあるし、真剣勝負プラスアルファの部分でどれくらい喜んでもらえるかが大事。見ている方を飽きさせないよう常に考えているビッグボスの下、選手が育って、勝てるチームの体制が整ったら、他のチームは敵わないと思います」
今季の北海道日本ハムから目が離せなさそうだ。
(佐藤直子 / Naoko Sato)
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