5年連続盗塁王が北海道日本ハムで臨時コーチ 野手だけでなくバッテリーも指導
北海道日本ハムの春季キャンプに7日、2001年から5年連続でセ・リーグ盗塁王を獲得した“レッドスター”こと赤星憲広氏(元阪神)が臨時コーチとして訪れた。新庄剛志監督のたっての願いで引き受けたもので、グラウンドでは五十幡亮汰外野手らに走塁の極意を注入。そして赤星イズムの注入は野手だけに留まらず、投手にまで及んだ。盗塁王が投手を“指導”した理由とは何だったのだろうか。
赤星氏の指導は熱を帯びた。まずグラウンドに野手を集め、約1時間の走塁指導だ。「最初は選手との距離感を感じていたんですけど、色々な質問をしてくれたことに驚きました。いろんなことを学びたいと貪欲に考えている選手が多い」と北海道日本ハムの選手の積極性に驚いた様子。特に新庄監督が大きな期待をかける快足・五十幡には、ギリギリまで滑らないスライディングの方法や一発で好スタートを切る方法など、細かい技術まで指導した。
意外な行動に出たのはその後だ。球場から出た赤星氏が向かった先は、投手陣が練習していたサブグラウンド。車座になって座った投手と捕手に語り掛けたのは、走者から見た「盗塁しやすいバッテリー」の特徴だった。
この講座は、急遽実現したものだった。赤星氏は以前から、1点をもぎ取る野球をするのなら、バッテリーが「逆にやられないようにしなければいけない」と考えていたという。この日球場を訪れ、新庄監督や阪神時代の同僚だった山田バッテリーコーチに申し出たところ、同じ考えを持っている事がわかった。
昨季、北海道日本ハムはリーグ最下位の得点力だけでなく、易々と進塁を許すところにも問題があった。正捕手・清水の盗塁阻止率は.203で、規定イニングに達した捕手中リーグ最下位。新庄監督も「一番教えてほしいのは、盗塁や走塁の技術じゃないの。どんな投手、どんな捕手が走りにくいのか。そんな話をしてほしい」と狙いを話した。
北海道日本ハム投手陣に与えた気付き 二刀流上原はダブルで受講
稀代の盗塁王がバッテリーに開いた講座は、抜群の化学反応を生んだ。赤星氏は「珍しいとは思いますけど、指導する立場になるなら絶対に必要だと思っていた。いい話ができた」。自分がどんな投手、捕手からは走りやすかったのか。逆にどんなバッテリーが走りにくいのかと、現役時代は企業秘密だったはずの部分まで伝えていった。
「クイックの練習をみんなしますけど、ただしておけばいいわけじゃない。クイックが早いから牽制をしないという投手がいるんです。僕はクイックが速いだけの投手は、めちゃめちゃ走りやすかった。逆に遅くてもタイミングを変えられると、なかなか走れないんです。キャンプでも普段は投手と野手の練習って別なので、これはなかなか伝えられない」
通算82勝の武田勝コーチは現役時代、決して走者対策が巧いほうではなかった。赤星氏の話には新たな発見があったという。「ただクイックするだけでは走られる。全部クイックで投げるより、いろんなタイミングで牽制して、走者にプレッシャーを与えるのも仕事だという話でした」。さらにこの場では捕手にも、構えたりコースに寄ったりするタイミングひとつで、走者は走りやすくなることを伝えた。
また、現在“投打二刀流”での起用を目指した練習に取り組む上原は、野手としても投手としても赤星氏の講義を受けた。左腕の上原は、マウンドに立つと一塁走者と正対する。「もし投手と目があったら、どう思いますか」と質問すると、赤星氏の回答は「どれが正解かと言うより、表情を読み取りやすいよね」というもの。走者のスタートは、どれだけ投手のクセを読み取れるかにも左右される。表情はその大きなヒントになりうる要素だ。
赤星氏の現役時代、圧倒的に走りにくかったチームは中日だという。正捕手の谷繁が、バッテリーに「クイックが下手なら下手なりに、間を変えろ」と指示していたからだ。「(山本)昌さんだけは別でした。『邪魔だから走ってくれ』と言っていた」と冗談を飛ばした赤星氏は、真顔で続けた。
「バッテリーがそこまでやっていたから、中日は強かった。僕は今、誰もが注目している北海道日本ハムに関われて良かったです。今後は(出身の)阪神と同様に気になると思う」。レッドスターの教えを消化し、1点を大切に守るチームに変わることができるだろうか。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)
記事提供: