福岡ソフトバンクは10月26日、7年間に渡って指揮を執ってきた工藤公康監督が今季をもって退任することを正式に発表。それに伴い、翌27日にPayPayドームで退任会見が行われた。会見では終始「関わってくれたすべての方への感謝」を示した工藤氏。今後の目標や印象に残っている場面、選手に伝えたいことなどを語った退任会見を振り返る。
工藤氏は会見の冒頭、現役引退後は「(災害などの)苦しい状況の中でも一生懸命生きている人に、野球を通じて何かできることはないか」を模索しており、監督をするとは思っていなかったと振り返った。しかし2014年オフ、福岡ダイエー(当時)時代に監督として慕い「いつか恩を返そう」と思っていた王貞治氏から、直々に監督業の依頼を受ける。工藤氏は自身のビジョンを「強いホークスをつくって夢を与える」ことで達成しようと決心し、引き受けた。初年度から「連覇」の期待とプレッシャーがかかるなか、見事リーグ制覇と日本一を達成。翌16年もリーグ優勝こそは逃したものの2位の好成績を収め、その手腕を球界にとどろかせた。
ここから工藤氏率いる「常勝鷹軍団」が幕を開ける。17年は再びリーグ王者に返り咲き。「SMBC日本シリーズ2017」で横浜DeNAを下し、こちらも2年ぶりに日本一の座を奪還した。18年と19年は2年連続でリーグ2位につけると「パーソル CS パ」では首位チームを下し「SMBC日本シリーズ」へ出場。勢いそのままにセ・リーグの王者を打ち破り、日本一の栄冠をつかんだ。昨20年はシーズン通じて「31」の貯金、2位に14ゲーム差をつける圧倒的なチーム力でパ・リーグを制する。「SMBC日本シリーズ2020」では、19年に引き続き巨人から4連勝を挙げて日本一を決め、パ・リーグでは史上初となる「日本シリーズ4連覇」を達成した。
それだけに強い覚悟を持って望んだ今季、自身も就任後初となる「Bクラス」という結果は重くのしかかった。工藤氏は「(球団サイドから)続投要請もあった」としつつ「敗戦の責は将が負う。チームが再スタートを切る意味でも変わらなければ」と、10月初めに退任を決断。7年間の長期政権に終止符を打った。
印象に残っているのは「勝てなくて味わった悔しさ」。乗り越えてつかんだ栄冠
3度のリーグ優勝、5度の日本一と輝かしい実績を残した工藤氏だったが、一切驕りは見せなかった。会見で繰り返したのは、関わったすべての方への「感謝」。「現役時代にはなかなか気が付かなかった」と語る「グラウンドキーパーの方や食堂の方のありがたみ」は、監督業を行うことで見えてきたと言う。工藤氏は「支えてくださる方がいてこそのホークスだな」と振り返った。
代表質問で印象に残っているシーンを問われ挙げたのは、意外にもチームが3連覇をかけ挑んだ16年に「勝てなくて味わった悔しさ」だった。自分に足りないことを見つめ直し、反省と信念を固めたオフシーズンは「短いようで長かった」と振り返る。自分自身の“監督哲学”を見つめ直したこの期間は「成長でき、選手と“ともに”勝てた期間」で、これがのちの日本シリーズ4連覇へとつながった。
「あの苦しい練習に耐えたからこそ今があると思ってほしい」工藤氏の選手に対する思い
19年〜20年にかけて行われた「パーソル CS パ」含むポストシーズンでは合わせて13連勝を収め「SMBC日本シリーズ」でも9連勝と、短期決戦では特に無類の強さを発揮した工藤氏率いる福岡ソフトバンク。その指導において工藤氏は、常に「3年後、5年後に“あのときの苦しい練習に耐えたからこそ今がある”と思ってほしい」と選手たちに伝えてきた。
これは工藤氏が現役時代、実際に長く苦しい練習に耐えてきたことで備えた「強い心と体」が後々のキャリアで生きた経験を「言葉で説明するだけでなく、選手に体感してほしい」との思いから貫いたものだ。それだけに、千賀滉大選手や甲斐拓也選手など「育成出身」の選手らを含め、鷹ナインが育ち活躍する様子は「見ているだけで幸せになれた」と目を細める。これからの福岡ソフトバンクを担う選手たちには「一人一人が信念やたくさんの人の思いを背負い、悔いを残さない素晴らしい野球人生を送ってほしい」と背中を押した。
会見の最後には「ファンの存在が一番の心の支えだった」とし、あらためて感謝の意を示した上で「7年間皆さまの思いを少しでも叶えられたのなら私は幸せです」とファンへの思いを語った。今後について問われると、プライベートでは「趣味のアウトドアをしながら九州の様々な景色を見たい」。また「自分にとっての故郷」とする九州の地で「何らかの形で力になりたい」と言葉に熱を込め、真っ直ぐ前を見つめた。
文・小野寺穂高
○工藤 公康(くどう・きみやす)氏
1982年に西武ライオンズ(当時)に入団。自身初の2桁勝利を達成した86年はチームの日本一に貢献し、MVP(最優秀選手賞)を受賞。西武では11回のリーグ優勝、8回の日本一を経験するなど黄金期を支えた。95年からは福岡ダイエー(当時)に入団し5年間で49勝をマークする。以降は巨人、横浜、埼玉西武に移籍し2010年に現役引退。2015年から福岡ソフトバンクで監督としてのキャリアをスタートさせた。
NPB通算成績 635試合 224勝 142敗 2859奪三振 防御率3.45
監督通算成績 978試合 558勝 378敗 勝率.596 リーグ優勝3回 日本シリーズ制覇5回
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