(前編の続き)
取材中、梶原氏は自身のスマートフォンでYouTubeを開き、千葉ロッテ公式チャンネルにアップされている「広報カメラ」の映像を見返す。「印象に残っている映像は?」と質問すると、「何だろう…いっぱい撮ってきましたからね」と苦笑いを見せる。
「広報カメラ」で欠かさず撮っていたのはホームゲームで勝利した際、試合後にライトスタンドのファンと勝利を分かち合う「We Are!千葉ロッテ!」のやり取りだった。「これは思い出深いなぁ。『We Are!』の最高傑作です」と梶原氏が動画を再生したのは昨年5月15日の楽天戦、2試合連続のサヨナラ勝ちで沸く直後の「We Are!」だった。この日、ハンディメガホンを握ったのは6回に一時は逆転となる代打満塁弾を放った細谷圭選手。細谷選手はライトスタンドの千葉ロッテファンに対し「ヘイヘイヘイヘイヘイ!楽しんでるかー!」と大声で盛り上げる。さらにベンチへ引き上げる前には「サンキュー幕張!」と絶叫。その姿は細谷選手がファンを公言する伝説のロックバンド・BOOWYのボーカル氷室京介氏を彷彿とさせるものだった。
「彼とは入団したころから『BOOWYをからめたファンの盛り上げをやりたいね』と話していました。ようやく実現できて感慨深いです。いつ見ても良いよね…」。その言葉には深い情感が込められていた。
試合前、試合後の映像はその日のうちにアップするのが基本。ファンの反応を見ていると、「広報カメラ」によって良いサイクルが生まれているのではと梶原氏は考察している。
「昨シーズンが終わってふと思ったんです。球場で試合を見ていたお客さんは、また動画で見返すのは嬉しいんですよ。家に帰る途中や帰ってから動画で違う角度から見て、『選手同士でこんな会話をしていたり、こんな表情をしていたんだ』と気付く。まるで選手と一緒に試合をしている感覚になるんですよね。逆にテレビで試合を見た後に動画を見ても、感動は薄くなってしまう。ライブで見た後に動画を見ると、すごく楽しいと聞きました。そうすることで『また球場で見たい、そして勝ってYouTubeでまた見たい』と良い循環が生まれるでしょう」
また、昨年はドラフト1位で入団してきた平沢大河選手に密着して撮ってきた。年明けに行った地元・宮城での自主トレ、春季キャンプインの朝、プロ入り初スタメン、シーズンオフには宮城帰省にも同行している。
「私が好きなのは母校・仙台育英での自主トレですね。マスコミ公開用として腕だけで縄を登るシーンがありました。この光景を見てファンは『コイツ、凄い選手だろうな』とワクワク感を持ったと思います。大河の場合は『広報カメラ』が導入されてから入団してきた選手。なるべく長いスパンで撮影して、もしかしたら引退した時に総集編として映像を出せるかもしれません。今後も追いかけていきたいです」
プロ野球の球団広報はメディア対応など、基本的に「受ける」仕事が多い。しかし近年はSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の発達もあり、球団自らが情報発信するケースが増えている。梶原氏自身はスポーツ紙記者という前職を生かし、千葉日報で「千葉魂」を連載するなどメディアを通して選手たちの素顔を伝えてきた。球団広報の立場として、近年の傾向をどう考えているのだろうか。
「私も以前はメディアを通して発信することだけを考えていました。その手法も大事ですが、これからはSNSを通して球団が発信しなければ今後生き残れないと感じています。今は『どう情報を発信していこうか』と24時間ずっと考えていますよね」
今後、撮ってみたい映像について聞いてみると「結構いろいろ撮っちゃいましたからね…」と答えた梶原氏。その中でこんなアイディアを明かしてくれた。
「一番理想なのは優勝して、胴上げのど真ん中で撮影したいですね。もしくは胴上げされている伊東監督の真下(笑)。そういう面白い映像を撮ってみたいです」
最後に「広報カメラ」を見ている視聴者に「ぜひ動画に対してコメントしてほしい」とメッセージを送る。
「なるべく動画にコメントしてほしいですね。コメントを見て『こんな考え、発想もあるのか』『ここが面白いんだ』と気付くことが多々あります。私自身の勉強になりますし、次に撮影する動画のヒントも生まれてくる。これはテレビや新聞ではできない、インターネットだからこそできる強み。受け手が何を求めているのかも見えてくるので、どんどんコメントをお願いします!」
2017年、梶原氏はドラフト1位で入団した佐々木千隼投手の自主トレ風景や、今季から背番号「4」から「0」に変わる荻野貴司選手の「最後の背番号4の姿」を撮影した。まもなく始まる石垣島キャンプで、「広報カメラ」はどんな面白い動画を配信するのだろうか。今から楽しみだ。
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