シーズン中は「パ・リーグTV」の中枢として稼動しているパ・リーグデジタルメディアセンター。シーズンオフのある日、この場所に15人のゲストがそれぞれのテーブルに座った。画面では昨シーズンの試合映像、そして手にはペンを持ち、スコアシートに打撃結果を記入する…。
1月20日、「パ・リーグTV」を運営するパシフィックリーグマーケティング(PLM)主催で「スポーツ新聞記者に教わる野球スコアの書き方セミナー」が開催された。今回、講師役となったのは日刊スポーツ新聞社の平井勉氏、森田久志氏、斎藤直樹氏の3氏。3氏とも野球担当記者として取材経験豊富なプロフェッショナルであり、試合取材時にスコアを書くのは仕事上欠かせない。
今回のスコアセミナーはどういう経緯で開催されたのか。企画したPLMの上野友輔氏はこう説明する。「パ・リーグTVが運営するファン初心者向けのtwitterアカウント「パ・リーグTV Lite」(@ptv_lite)でスコアの書き方をツイートした際、すごく反応がありました。そこで『初心者向けにスコアの付け方を教わるイベントを開催したら面白そう』と考え、日刊スポーツさんのご協力を得て実現しました。野球ファンになりたての人がスコアの書き方を学ぶと、野球の見方が大きく変わると思います」
参加者の募集をかけたところ、定員15人に対して応募者は417人。選ばれた15人の中には宮城県から「大学に行って野球部のマネージャーをやりたい」という理由で応募した女性もいた。
セミナーは「スコアを付ける理由は記録として残せる。そして記録から様々なデータ分析ができる」という話からスタート。カウント編では「北海道日本ハム・大谷翔平選手が登板するときは、球速をメモする」「ストライク、ボールだけでなく球種を記入するとレベルが高い」とプロならではの書き方を披露する。また、スコアシートとは別にストライクゾーンを9分割したシートを紹介。9分割シートに球種や打撃結果を書くことで、バッテリーの配球や打者の弱点が見え分析ができることも参加者の興味を誘った。その後は出塁編、進塁編、交代編と話が進んでいく。
休憩を挟み、いよいよ試合映像を見て実際にスコアをつけることに。選ばれた試合は昨年のCSファイナルステージ第1戦、北海道日本ハム対福岡ソフトバンクの一戦。試合が始まると参加者は一球も見逃さまいと真剣に、食い入るように映像を見つめる。そしてワンプレーが終わるごとに、スコアブックへ記入していった。
試合は序盤から北海道日本ハム・大谷選手、福岡ソフトバンク・武田翔太投手の両先発の投げ合いが繰り広げられる。2回が終わると、平井氏は2回裏の大谷選手の打席を例に挙げて解説した。
「大谷選手が5球ファウルを打ったうち、4球がインコース。武田投手-細川選手の福岡ソフトバンクバッテリーの意図が分かりますね。そして途中からアウトコースに攻め方を切り替え、ピッチャーゴロに打ち取った。スコアを書いていると野球の見方が面白くなってきます」
時間の都合上、3回、4回を飛ばして映像が出たのは5回表。映像では「大谷選手がフォークボールを投げ始めました」と実況アナウンサーが情報を伝える。ここで斎藤氏は「この情報は試合中、スコアシートを書いているからこそ話せる内容ですよね」とすかさず説明を入れる。
そして5回裏。この回は北海道日本ハム打線が西川遥輝選手の2点タイムリーを皮切りに、中田翔選手の2ランなどで一挙6点を奪取。打者一巡の猛攻となった。ヒットが続いたり2塁からランナーが生還したりするなど、初心者がスコアシートを書く場面としては難度か高いイニングになった。平井氏も「この回のスコアが付けられたら、もう大丈夫ですよ」と言うほどだった。
ここでスコアの答え合わせ。正しく書けた参加者は6人だった。最後に平井氏は「スコアはいかに自分が分かるように書けるかが大事です。新聞記者も最初は全く書けない人が多いですから、心配しなくても大丈夫。好きなチームや選手の試合のスコアを書き、改めて見て『こんな試合だったな』と記念として振り返ることもできます」とアドバイス。さらには「野球の見方が変わって通になると、バックネット裏から見るようになります」と新たな「野球観戦術」も提案した。
プロ野球ファンになって半年という参加した18歳女性は「スコアシートを書いたのは今日が初めて。今まで何も気にせずに見ていましたが、野球の深みを知り『野球は楽しいな』と感じました。今度試合を見に行くときはスコアを書きながら観戦したいですね」と意欲を見せた。
セミナーを終え、上野氏は大きな手応えを感じていた。「参加した皆さんは面白そうな表情をしていて、私自身も楽しませてもらいました。今後も野球に興味を持ってくれる方をもっと増やしたいと感じています。また機会があれば、来年に第2回を開催したいですね」
デジタル化が進む昨今、手書きでスコアを記入するのはアナログな作業だ。しかし、試合を見ながらスコアを書くことで「野球は奥が深い。こんな見方があるんだ」と気付くのも新たな楽しみの一つだろう。ぜひ野球観戦をする際には、スコアブックやスコアシートを持って球場に行くことをオススメしたい。
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