異例の1年を経て、今季はプロ初登板、初勝利も経験
“令和の怪物”が、大きな一歩を踏み出した。実戦登板なしに終わった1年目を経て、迎えた2年目。千葉ロッテ・佐々木朗希投手はついにベールを脱ぎ、1軍のマウンドへ登った。プロ初勝利も経験したシーズン前半戦。常に視線を浴びる19歳は、何を感じたのか――。【上野明洸】
ルーキーイヤーは2軍登録ながら、シーズンを通して1軍にいる“異例”の措置。いくら160キロを投げる力を持っていても、その負荷に耐えられる体がなければ故障に繋がる。首脳陣と話し合い、じっくりと体を作ることに専念した。
「今年に向けてしっかりできる準備はできたかなと思います。いろんなことを経験できましたし、いろんなことを試して、自分がここまでやってきたことが間違っていなかったことも再確認できたり、正しい知識も増えたり、良かったかなと思います」
もちろん試合で投げたいという思いもあった。それでも、将来の羽ばたく姿を見据えながら、自らの気持ちに折り合いを付け、1年間過ごした。そしてついに、待ちわびた日がやってきた。
5月16日の埼玉西武戦(ZOZOマリン)で1軍デビュー。5回を投げ6安打4失点(自責2)で、勝ち負けは付かなかった。2度目の先発となった5月27日の阪神戦(甲子園)では5回7安打4失点(自責3)でプロ初勝利。その後も3試合に先発し、計5試合で1勝3敗、防御率3.76の成績で前半戦を終えた。
振り返ると、課題ばかりが口をついて出る。1年間の“ブランク”には戸惑った。「去年投げてないので、試合勘を取り戻すことだったりとか、投げる体力は投げて付くと思うので、正直投げる前から分かっていたことではあったんですけど……。足の速いランナーを背負ったときだったりとか、これから投げて直していかないといけないですね」。デビュー戦では埼玉西武相手に5盗塁を許した。前半戦最後の2試合では出した4四球は、全て安打を浴びた次の打者に与えており、走者を置いてからの投球も課題に挙げる。
実戦で得た手応えも「どうにか試合を作っていける」
岩手・大船渡高時代に高校生最速となる163キロを記録した“代名詞”のストレート。デビュー戦の最速は154キロだったが、8月3日の中日とのエキシビションマッチ(バンテリンドーム)では、最速158キロを記録した。実戦のマウンドに慣れてきたのはある。だが、プロの世界では球速だけではやっていけないということも分かっている。
「アウトを取ることが仕事なので、それが1番です。その中で、こういう風にしたらアウトを取れるかなと。それはコントロールだったり、配球だったり、ボールの質だったり、いろんな要素があって打者を打ち取れると思うので、(球速は)その中の1つだと思います。そういうもので打ち取れたら良いんですけど、僕にはそういう技術がないので……。スピードはそこそこ出るので、それは武器として使っていきたいです」
エキシビションマッチも含めて3本塁打を許しているが、打たれたのは全てストレート。「失投がホームランに繋がるので、そういうボールをなくしていきたいです。コントロールミスは試合を動かす失点に繋がるので、気を付けないといけないなと思いました」。どれだけ球が速くても、コースが悪ければ1軍のバッターには簡単に弾き返される。“1球の怖さ”も実感した。
半面、手応えを感じたのもストレートだった。「しっかりコースに投げ分けられた時のストレートは、どうにか試合を作っていけるボールかなと思います。コースを間違わなければヒットとかは打たれていないので」と、冷静な口調で分析する。
公式戦未登板の中、春先に新フォームへの挑戦…抵抗は全くなかった
今春のキャンプ前から、オリックスの山本由伸投手らも取り入れているやり投げのトレーニングを行い、テークバック時に腕を伸ばし、肘からトップへ上げる投げ方に変更してみたりもした。まだ公式戦に一度も投げていない状況での新しいフォームへの試みだったが、抵抗は「なかったです」と即答する。
「学生時代から、その時その時で自分のフォームに納得していなかった時に変えていたので」
高校時代からプロ野球選手のフォームを参考に、自分に落とし込み、163キロを生み出すフォームを作り上げた。研究熱心な19歳は、プロになっても躊躇は一切なかった。
今季は肘のほか、下半身の使い方にも焦点を当てている。「力に頼らず投げられるように下半身のパワーを生んで、無駄なく力をボールに伝える練習をしています。感覚的なことですが、体の仕組みとか、どういう体勢で力が入るのかというのはコーチと話し合いながらやっています」。日々、メカニックについて考え、進化を模索している。
今季は「投げること」をテーマに掲げる。「後半戦はなるべく試合数を投げれるようにして、今年中には(公式戦で)中6日で投げれるように準備したいと思います」。投げる事でしか得られないことを得ていくシーズンに。球界のエースに成長するために、怪物は一歩ずつ、着実に歩みを進めている。
(上野明洸 / Akihiro Ueno)
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