パ・リーグを支える中南米出身選手たち
福岡ソフトバンクのアルフレド・デスパイネ選手、楽天のカルロス・ペゲーロ選手、埼玉西武のエルネスト・メヒア選手…。これらの外国人選手に共通するのは中南米出身であること。デスパイネ選手はキューバ、ペゲーロ選手はドミニカ共和国、メヒア選手はベネズエラだ。その持ち前のパワーでパ・リーグを大いに盛り上げている。
4月16日、東京・日本橋にてマスコミ関係者を対象にして「これからの日本野球のあり方セミナー」が開催された。セミナーを開いた阪長友仁氏は新潟明訓高3年夏に甲子園出場し、立教大でも4年時には主将を務める。大学卒業後はJTBに就職するが「自分のやりたいことなのか?」と疑問を抱き退社を決意。野球への恩返しとしてスリランカでの野球指導を皮切りに、タイ、ガーナのナショナルチームで指導してきた。
その後も青年海外協力隊でコロンビアへ、JICAの企画調査員としてグアテマラに渡るなど中南米野球の研究・調査を重ねてきた。現在は中学硬式野球チーム・堺ビッグボーイズ(横浜DeNA・筒香嘉智選手、埼玉西武・森友哉選手を輩出)のコーチを務めるとともに、指導者に向けてドミニカ共和国の選手指導・育成システムを伝えるセミナーを全国各地で行っている。
ドミニカ共和国の選手育成・指導システムは
セミナーでは第2部でドミニカ共和国の選手育成・指導システムがテーマとなった。その冒頭、阪長氏はこんな質問を参加者に投げかけた。
「昨年、MLBでプレーした日本人選手は8人でした。ではドミニカ出身の選手は何人でしょう?」
複数の数字が参加者から上がる中、その答えを「151人」と明かした。ドミニカの人口は約1000万人と日本の1/12だが、ロビンソン・カノ選手(マリナーズ)を筆頭にMLBへ多くの選手を供給し活躍している。その要因として身体能力の高さ、ハングリー精神が挙げられるが、阪長氏は「日本人は彼らから学ぼうとしてないのではないか。そして日本人でもできることがあるのでは?」とドミニカの選手育成システムに興味を持った理由を語る。
日本の野球界の場合、小、中、高、大と年代別にカテゴリーが分かれており、カテゴリーごとの結果(勝利)が重要視される。一方、ドミニカではリーガ(6歳から12歳)、プログラム(13歳から16歳)、アカデミー(16歳から)と段階を経て、上を目指す選手は18歳以降で渡米という流れになる。アカデミーはMLBのチームが持つ下部組織であり、プログラムでピックアップされた選手が16歳6ヶ月になるとアカデミーと契約できるシステムだ。そして目標はすぐにメジャー昇格ではなく、数年後にメジャー昇格すること。そのため、選手としてのピークを25歳から35歳に設定する、先を見据えた指導が大きな特徴と言える。
ドミニカでは結果を求めず積極的にチャレンジする姿勢を評価
セミナーではドミニカで撮影された練習風景の動画が紹介された。リーガの子がバッティング練習で思い切りよくフルスイングする映像やプログラムの選手が緩いゴロを逆シングルで繰り返し捕球する映像…。日本であれば「そんな大振りではダメだ」「正面に入って捕れ」と指摘されがちだが、ドミニカでは今の結果を求めず積極的にチャレンジする姿勢が大事だ。同時に細かいプレーは経験を重ねていくことで身につけられるという考えも持っている。
日本の高校野球は負けたら終わりのトーナメント方式に対し、同世代となるドミニカのアカデミーはリーグ戦方式で公式戦を行う。公式戦の時期である6月から8月にかけて、1チームが72試合を戦う。投手に目を向けると中5日のローテーションを組み、球数は最大でも75球から80球。直球中心で打たれてもいいからどんどんストライクを投げていく。試合経験を積むことで試行錯誤を繰り返し、メジャー昇格に向かって成長していくのだ。
また、指導者は選手がミスをしても咎めることなく、「次だ、次」とポジティブな姿勢で選手をサポートしている。「ドミニカの指導者は選手と同じ目線で、敬意を持って接している」と阪長氏は言う。日本の野球界では現在、競技人口減少や甲子園を頂点とした勝利至上主義など多くの問題を抱えている。日本野球が良い方向へ向かうためのヒントが、ドミニカの取り組みに隠されているかもしれない。セミナーを終えて阪長氏は「初めてお会いした方も多く、うれしかったです。今日だけで終わらず、皆さんと協力して少しでも良い方向へと変わっていければ」と手応えを感じていた。
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