埼玉西武で8年間プレーし、2020年限りで現役引退した水口大地さん
埼玉西武で8年間プレーし、2020年に現役を引退した水口大地さん。身長は163センチ。その小柄な身体でNPB入りを掴み、最高峰の舞台で戦ってきた。「身長があと10センチあったらな」。子どもの頃から何度も言われた言葉は「見返してやろう」という原動力になってきた。
中学校卒業時の身長は143センチ。整列するときはいつも一番前で、手を前に伸ばしたことがない。それでも、野球が楽しかったから続けていた。だが、両親が周りの人から身長のことを言われているのが辛かった。
「『小さいのにいつまで野球をやらせるんだ』と言われていたのを知っています。それでも続けさせてくれた。両親も身長のことは気にしていて、小学生の時には月に何万円もするようなカルシウムが入ったドリンクを買ってきてくれました」
高校は長崎の大村工高に進学。甲子園出場が期待されていたが、3年夏は県大会の初戦で敗退した。「もう少し野球を続けたい」。その思いで、独立リーグ・長崎セインツのトライアウトを受け、2008年に入団。当時はスカウトに注目してもらえるように身長を170センチと7センチも偽っていたが、ドラフトで指名を掴むのは簡単ではなかった。
2010年にはチームが経営難で解散。香川オリーブガイナーズに移籍後の2011年には肘を痛め、選手契約を解除されて練習生になった。試合に出られない期間はチームの着ぐるみの中に入るなど裏方の仕事を務め、オフには人参を掘るアルバイトをしながら生活していた。
「練習生になってしまうと、お給料が出ないんです。着ぐるみに1回入ったら、その日のお弁当と1000円が貰えたので、試合が始まる前からグラウンドに出ていました。オフには、チームメートだった土田(瑞起・元巨人)と一緒に人参を掘っていました。人参を抜いて股の下を通して投げると、それを土田が拾ってくれた。僕、人参嫌いなんですけど、そのアルバイトが一番お給料がよかったのでやっていました」
「今年ダメだったら野球を辞める」実家に置き手紙した年に育成指名
毎年、NPBの複数球団から話はあったが「もう少し身長があったらな」と言われ、指名がないまま4年が過ぎた。5年目のシーズンが始まる前の2012年2月、長崎の実家から香川に向かう時に「今年ダメだったら野球を辞める」と置き手紙をして家を出た。最後の1年と決めたシーズンでレギュラーに定着、最多盗塁のタイトルも獲得し、その年のドラフトで埼玉西武から育成1巡目で指名を受けた。
「その年もいくつか話はいただいていたので、ドラフトでなかなか名前が呼ばれなかったときは『またか……』と思いました。『もうないな』と諦めていたら、埼玉西武が育成で指名してくれて驚きました」
イースタン・リーグで実績を積み重ね、3年目の2015年7月に支配下登録を勝ち取った。2016年には開幕1軍を掴み、2017年には56試合に出場し14安打を放ったが、2018年、2019年は2年連続で無安打に終わり、2020年に戦力外通告を受けた。163センチの小兵は、通算113試合に出場し、現役生活に幕を下ろした。
「身長のことを言われるのは悔しかったし、小さいからたくさん練習しました。もっと身長があったら、こんなに練習していない。逆に身長が高かったら、NPBでプレーすることはできなかったと思います」
水口さんは今年から、ライオンズアカデミーのコーチに就任した。辛いことも多かったが、楽しいから続けられた野球。その楽しさを、子どもたちに教える第2の人生をスタートさせたばかりだ。
(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)
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