「ショートスターター」から「左のエース」へ。データに示される加藤貴之の先発適性

パ・リーグ インサイト 望月遼太

北海道日本ハムファイターズ・加藤貴之投手(C)パーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・加藤貴之投手(C)パーソル パ・リーグTV

先発・中継ぎ・そしてショートスターターと、幅広い活躍を見せてきた

 かつて「ショートスターター」として活躍した左腕が、今季は「左の先発」として躍進を果たしそうな気配だ。北海道日本ハムの6年目左腕・加藤貴之投手が4月27日には開幕からローテーションの一角として好投。4月27日の試合では福岡ソフトバンク打線を7回2失点に抑えて今季2勝目。チームの先発陣の中でも随一の安定感を見せている。

 加藤投手といえば、2019年に北海道日本ハムが導入した「ショートスターター」の一人として、短いイニングでの先発登板を重ねたことでも話題となった。それに加えて、2020年途中からは中継ぎとしての起用が主となっていた。そして迎えた今季は長いイニングを投げる先発投手として快投を見せており、自身が持つマルチな才能をあらためて示している。

 今回はショートスターター時代も含めたプロ入り後の活躍を振り返るとともに、投手としての能力やタイプについて具体的な数字を基に考察したい。

1年目から即戦力の期待に応え、2年目には先発陣の一角に

まず、加藤貴之投手の年度別の投球成績を以下に紹介したい。

加藤貴之投手の年度別成績(2021年5月11日現在)(C)パ・リーグ インサイト
加藤貴之投手の年度別成績(2021年5月11日現在)(C)パ・リーグ インサイト

 加藤投手は2015年のドラフト2位で北海道日本ハムに入団。この年は先発が16試合、リリーフが14試合とルーキーイヤーから幅広い起用に応え、現時点でのキャリア最多となる7勝をマーク。防御率も3点台半ばと即戦力の期待に応え、投手陣の貴重な駒としてチームのリーグ優勝と日本一にも貢献している。

 続く2017年は年間を通じて先発として起用され、21試合中12試合で6イニング以上を消化。規定投球回にこそ届かなかったが年間120イニングを投げ抜き、左の先発として活躍した。勝ち星こそ6勝止まりだったものの、前年から一転して5位に沈んだチームの中で奮闘を見せた。

 翌2018年も開幕からの13度の登板では先発で起用されたが安定感を欠き、8月以降は中継ぎに配置転換。9月5日に先発に復帰して7回無失点と好投を見せたが、その後は3試合中2試合で6失点以上を喫するなど再び苦しい内容に。毎年安定して防御率を3点台中盤以下にまとめる加藤貴之投手としては例外的に、キャリアで唯一防御率4点台を記録した年となった。

ショートスターターという起用法は、加藤投手にとっても転機となった

 そして、2018年前後にメジャーリーグにおいて確立された「オープナー」という概念は、加藤投手のキャリアにも大きな変化をもたらした。ファイターズの栗山英樹監督は、MLBで導入された先進的な起用法を「ショートスターター」として積極的に導入。元々先発と中継ぎの双方の経験があり、左腕という特色も持ち合わせる加藤投手は試合開始時のマウンドに立つケースが増えていった。

 加藤投手の2019年初登板となった4月2日の楽天戦では、先発として3回を無失点と好投したものの、当初のプラン通りにそこでマウンドを降りる形に。その後も同様の起用法は続き、シーズンを通じて21試合に先発登板しながら、1試合で6回以上を投げた試合は5月31日のみ。その一方で防御率や投球内容は前年から大きく改善され、様々な意味で新境地を開拓する1年となった。

 翌2020年も序盤戦ではショートスターターとしての起用が続いたが、8月26日以降は中継ぎとしての登板が大半に。5回を無失点に抑えた9月3日の試合を最後に、残る17試合は全てリリーフでの登板だった。先発登板が7試合という数字はキャリア最小の数字であり、チーム内におけるショートスターターの導入回数の減少が、そのまま加藤投手の起用法にも反映される結果となった。

 そして迎えた2021年、加藤投手は前年に主戦場とした中継ぎではなく、先発として開幕一軍入りを果たす。今季初登板となった3月27日の楽天戦では7安打を浴びながら5回2失点と粘りの投球を見せ、今季初勝利を記録。そして、4月4日の千葉ロッテ戦と、4月11日のオリックス戦では、2試合続けてプロ入り最長8回1失点の見事な投球を披露。4月27日には2勝目を挙げ、ここまで抜群の安定感を発揮している。

今季はそもそも走者を出すケースが少ない

次に、加藤投手がこれまでに残してきた、シーズン別の各種指標を見ていきたい。

加藤貴之投手の年度別各種指標(2021年5月11日現在)(C)パ・リーグ インサイト
加藤貴之投手の年度別各種指標(2021年5月11日現在)(C)パ・リーグ インサイト

 加藤投手の特徴の一つとして、制球力に優れる点が挙げられる。数字の面でも、直近4シーズンのうち3度にわたって、2.20台以下の与四球率を記録している。また、通算の奪三振率は6.91と際立って高い数字ではないものの、奪三振を四球で割って求める「K/BB」は、2021年はキャリアで2番目に高い数字となっている。今季は与四球率もキャリアベストのペースであり、例年以上に余計な走者を溜めるケースが少ないことがわかる。

 それだけでなく、今季は被打率も過去のシーズンに比べて大きく改善されており、そもそも走者を出すケース自体が少ない。その結果として、1イニングにつき何人走者を出すかを示す「WHIP」も0点台と、非常に素晴らしい数字となっている。四球も安打も少ないという事実を鑑みても、今季の加藤投手が抜群の投球を見せているのは納得と言えよう。

2021年は新たな球種を加え、多彩な変化球がより活きるように

 最後に、加藤投手が今季を含めた6シーズンで用いた球種と、各球種の被打率を確認したい。

2016年〜2021年の球種別被打率(2021年5月11日現在)(C)パ・リーグ インサイト
2016年〜2021年の球種別被打率(2021年5月11日現在)(C)パ・リーグ インサイト

 このように、加藤投手は合計7つと多彩な球種を持ち合わせている。こうしたレパートリーの多さが、加藤投手の万能性を支える要素の一つでもある。ただ、チェンジアップは2017年と2020年の2度にわたって、シーズンを通して一度も結果球とはならなかった。すなわち、他の球種に比べればチェンジアップを使う割合は少なかったということだ。

 今季の数字に目を向けると、昨季までと比較したうえでまず目につくのが、新たに投じ始めたカットボールだろう。その効力は被打率.188という数字にも表れているが、昨季以前から多投していたスライダーとの細かな差異による、相乗効果にも期待できる。そして、2017年から4シーズン連続で被打率.240以下と元々有効な球種だったフォークの被打率が、今季はさらに改善されているところも見逃せない。

 そして、昨季以前よりもチェンジアップが結果球になる割合が多く、被打率.000と完璧な数字を残している。緩急をつける効果のあるカーブは被打率.100台が2度、被打率.400が3度と年によって効果にばらつきがあるため、同じくブレーキの利いたチェンジアップの割合増加は、打者側の対応をより難しくしている。4月末の時点で7つの持ち球全てが結果球となっている事実からも、多彩な引き出しを例年以上に有効に使えていることがうかがえる。

チームのためにさまざまな局面で登板した左腕が、ついに先発として花開く年となるか

 今季の加藤投手は四球と被打率の双方が低く、そもそも出す走者の数が例年以上に少なくなっている。また、球種配分の面でも昨季までに比べて変化が見られ、多彩な変化球がよりいっそう活きるように。これまでは投手としての器用さゆえに便利屋としての起用が多くなっていたが、ついに左の先発として一本立ちを果たしつつある。

 過去5年間にわたって主力投手の一人として登板を重ねてきた加藤貴之投手は、ついにその能力を完全開花させることができるか。年齢的には現在28歳と、選手としてはこれから最盛期を迎えようかという時期だ。チームのためにあらゆる局面で身を粉にして投げぬいてきた左腕が、「左のエース」となれるか否かの分水嶺を迎えている今季、その投球に注目してみる価値は大いにあるはずだ。

文・望月遼太

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