ラッキーセブンは何かが起こる? 2回はトイレタイム。試合が動く回、動かない回

パ・リーグ インサイト 福島龍一

2018.4.30(月) 21:45

得点とイニング(C)PLM
得点とイニング(C)PLM

プロ野球では、7回の攻撃のことを「ラッキーセブン」と呼ぶ。7回の攻撃が始まる前にはホームチームもビジターチームも球団歌を歌い、ジェット風船を飛ばす。

ファンに楽しんでもらうためのイベントとしての意味合いが強いが、チームがリードしていればもう一度気を引き締めるような、ビハインドなら奮起を促すような演出が施されることも少なくない。

では、そもそもなぜ、終盤3イニングスが始まる「7回」は「ラッキーセブン」と呼ばれ、ターニングポイントのように扱われるのか。

そもそも「ラッキーセブン」とは…

「ラッキーセブン」というのは、1885年、シカゴ・ホワイトストッキングスが7回に打ち上げた飛球が風に乗って本塁打となり、それがチームの優勝につながった。そして勝利投手のジョン・クラーソン氏が、翌日の新聞のインタビューに「lucky seventh」と答えた…そのエピソードから生まれた考えだと言われている。

そこから今や「7回に何かが起こる」という言説はプロ野球界で当たり前のように使われ、めずらしいものでもなくなったわけだが、本当に「7回には何かが起こる」のか。では逆に何かが起こりにくいイニングがあるのか。今回は、2017年のパ・リーグ公式戦のデータをもとに、イニングごとの得点の違いを見ていく。

得点とイニング(C)PLM
得点とイニング(C)PLM

試合が動くイニング、動かないイニング

図①は昨年のパ・リーグのイニングごとの合計得点をまとめたグラフである。

最も多くの得点が入ったイニングは3回だ。3回というイニングの一般的な特徴としては、「打順が下位打線から上位打線に向かう」、そして上位打線は2巡目であるため、「投手の球筋や調子などの生の情報を頭に入れて打席に向かうことができる」というところである。

得点期待値計算方法(C)PLM
得点期待値計算方法(C)PLM

図②を見てみると、3回の攻撃の得点期待値(そのイニングにどれだけの得点を奪えるのかの指標)は「0.54」と、9イニングスの中で唯一「0.5」を超えている。平均的にNPBは無死走者なしの状態での得点期待値は「0.44」であるため、3回はいかに試合が動きやすいイニングなのかが分かるだろう。

次に多くの得点が入っているイニングは初回である。これは、先発投手の永遠の課題である立ち上がりを、打者が攻めていると考えられる。

反対に、最も得点が入らなかったのは9回。9回は守護神が登板するなどの要因もあるが、そもそも裏の攻撃を行わないケースがあり、合計イニングが他の回より少ないことを考慮すれば当然の結果である。

その9回に次いで得点の少ないイニングは2回だった。2回の特徴として考えられるのは、初回の攻撃が3番までで終わったケース以外は「打順が下位打線に向かう」、そして「投手も立ち上がりを切り抜け、心理的な余裕が生まれている可能性がある」ということである。

得点期待値を見ても、2回は「0.345」と他のイニングと比べて明らかに低い。3回と比べるとその差は「0.2」近くあり、2回にビッグイニングを作る難しさが分かる。これらの要因を考えても、2回は打者にとっては不利なイニングであると言えそうだ。

ちなみに昨季、2回に最も多くの得点を挙げたチームは日本一に輝いた福岡ソフトバンク(58得点)だ。さらに2回に得点した回数でも埼玉西武と並んでトップに立っており(34回)、試合が動きにくいイニングを、気を抜かず攻略してきたことが分かる。

「ラッキーセブン」はイベントに過ぎない。分業制が影響?

それでは、「ラッキーセブン」と呼ばれる7回を見てみよう。7回の総得点数は412得点。9回の中では4番目に多い得点数だ。決して得点の入りにくいイニングとは言えないものの、入りやすいイニングでもない。

7回の特徴としては、「打順が3巡目に入る」、「先発の球数が100球を超えているケースが多い」ことが挙げられ、攻撃で「何かが起こる」要因は確かに少なくないように見える。

しかし、現代野球ではセットアッパーの存在が重要視され、先発の完投数は減少している。7回からは中継ぎ投手の登板が多くなるため、かつてのように「何かが起こる回」ではなくなったのではないか。事実、7回を境にして得点数は右肩下がりになっていく。日本球界において中継ぎが果たす役割の大きさ、「勝利の方程式」の盤石さがうかがえる。

今回は「ラッキーセブン」をもとにイニングごとの得点の推移を見てきたが、ほかにも野球には様々な説が存在している。その説がどんな意味を持っているのか、改めてデータを参照することで意外な答えが見えてくるかもしれない。

文・福島龍一

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