出塁率は選球眼を示すうえでも有用な指標だが、構造上の問題点も
打者の選球眼を示す指標として最もポピュラーなものといえるのが、「出塁率」という値だ。全打席の中で打者が出塁できた割合を示すこの数字は、長打率と合わせて「OPS」という指標の計算式にも用いられるなど、打者としての能力を示すうえで有用なものとして広く認識されている。
セイバーメトリクスの分野では打率よりも出塁率のほうが重要視されており、現代野球においてその価値に疑いの余地はない。ただ、出塁率は基本的に打率に上乗せされて算出される数字であり、打率が非常に高い選手であれば、選球眼の優劣にかかわらず出塁率も高くなってしまうという、いわば計算式の構造上の問題を抱えてもいる。
そこで、現在では、出塁率と打率の差異を示す「IsoD」、1打席ごとに四球を選ぶ割合を示す「BB%」といった、純粋な選球眼を求めることを目的とした指標も考案されている。
今回は、パ・リーグの規定打席到達者たちの「IsoD」と「BB%」のランキングでそれぞれ上位に入った選手の顔ぶれを紹介し、そこから見えてくる傾向についても考察していきたい。
2020年のパ・リーグにおいては、出塁率の高い選手が上位に来る傾向が
まずは、2020年のパ・リーグにおける打率ランキングの上位10名を見ていきたい。
首位打者に輝いた吉田正選手をはじめ、打率.300を超えた選手は総勢4名。その4選手はいずれも出塁率.400の大台も超えており、打撃技術のみならず、選球眼という面でも一定以上の水準にあることがうかがえる。
また、打率ランキング9位の浅村選手は打率.280ながら出塁率は.400超えと、四球を選ぶ割合がかなり多かった。その他の選手も早打ちの傾向で知られる大田選手を除いて、いずれも打率.350前後かそれ以上の数字を記録。2020年シーズンは、選球眼が優秀な選手が打率でも上位に来る傾向が強かったと言えそうだ。
出塁率ランキングにも打率上位の選手が多く位置した中で、例外的なケースも
続けて、2020年のパ・リーグにおける、出塁率ランキングの上位10名を紹介したい。
ランキング1位の近藤選手は2019年の出塁率(.422)もリーグ1位で、2年連続で最高出塁率の座に輝いている。前年比で打率が.038、出塁率が.043と、どちらの数字も同程度向上している。首位打者争いを繰り広げる中でも必要以上の欲を出さず、きっちりとボールを見極める姿勢を継続していたということだろう。
また、吉田正選手と柳田選手の2名も、出塁率.450前後という見事な数字を記録。吉田正選手は敬遠が17個と2位の柳田選手を大きく引き離してリーグ最多となっており、そもそも勝負を避けられることも多かった。この2選手は「最悪歩かせても」という慎重な配球をされるケースが多いが、そこで焦れて難しい球に手を出しすぎず、冷静に四球を選べる点も高い出塁率につながっている。
冒頭で述べた通り、打率が高い選手は出塁率も高くなる傾向にある。先ほどの打率ランキングで上位10名に入った選手のうち、8名が出塁率でもランクインしていることがその証明といえよう。ただ、打率ではリーグ23位だったマーティン選手が、出塁率では6位と大幅に順位を向上させている。また、打率では12位だった栗山選手もこちらでは順位を2つ挙げてトップ10に入っており、少なからず様相が変わっている点もあった。
先に紹介した2つのランキングとは、大きく様相が異なる「IsoD」上位10名
ここからは、「IsoD」について見ていきたい。この数字は出塁率から打率を引いた数値の差によって算出されるもので、0.1を超える数値を残せていれば一流の水準に達しているとされる。
2020年のパ・リーグで規定打席に到達した選手たちの中で、IsoDの数値が上位10名に入った選手は下記の通りだ。
規定打席に到達した26名の中で打率が最下位だった山川選手が、IsoDのランキングでは堂々のトップに。出塁率の項でも取り上げたマーティン選手が2位まで順位を上げていただけでなく、打率が25位と下から2番目だった安田選手もトップ10入り。似通った顔ぶれが上位に名を連ねていた打率・出塁率のランキングとは、大きく異なった傾向を示している。
かといって、低打率に苦しんだ選手たちだけがランキング上位を占めているというわけでもないのが、IsoDという指標の面白いところ。近藤選手と西川選手はそれぞれ.125近い数値を記録しており、この指標においても選球眼の優秀さを示している。ほか、柳田選手と吉田正選手も.100を超える値を残しており、高打率の選手たちもきっちりと上位にランクインしている。
「BB%」と「IsoD」の間には高い相関性が見られたが……
最後に、四球数を打席数で割って求める、「BB%」のランキングも紹介したい。その結果は下記の通りだ。
打率とIsoDの双方が優れた水準にあった近藤選手と西川選手が1位と2位を占め、柳田選手と吉田正選手もトップ10に入った。その一方で、3位は打率.280の浅村選手であり、山川選手、マーティン選手、安田選手、井上選手といった、比較的打率は低いものの、IsoDに関しては優れているというタイプの選手たちも引き続きランクインしている。
また、IsoDが1を上回った9名の選手は全て、BB%でも上位10傑に入っている点も示唆的だ。BB%はIsoDに比べると、立った打席数が多く、そのぶん選んだ四球の数も多い選手が有利となる傾向にあるが、この2つの指標の間には、総じて高い相関性があることが見て取れる。
それでも、IsoDの順位とBB%の順位には少なからず差異も見られる。BB%の上位4名の打率はいずれも.280以上で、そのうち3名が打率.300以上。純粋な打率との差異によって求められるIsoDに比べ、確実性に優れた打者がより上位に来る傾向が強くなっていた。
安打も四球も塁に出るという結果自体は変わらないものの、四球を選ぶ率という面においても、打率が高い選手のほうが最上位になりやすい点は興味深い。そういった観点からいえば、BB%という数字が高い選手はそれだけ多く出塁を繰り返しているということであり、ひいては、チームに対する貢献度の高さをも表していると言える。
出塁率だけでは計れない部分について、数値として明示してくれる2つの指標
打率ランキング上位10名に入った選手たちの中で、出塁率でもトップ10名に入った選手は8名。だが、IsoDとBB%においてはそれぞれ5名ずつと、その割合は半数まで減少している。その点からも、この2つの指標は、打率や出塁率だけでは計りかねる選球眼について、別の観点からアプローチできるものだと言える。
一例を挙げると、安田選手は出塁率だけを見れば決してトップクラスの水準とは言えないものの、IsoDとBB%に目を向けると、実は四球を選ぶ割合がかなり高かったことが見えてくる。山川選手やマーティン選手も含め、選手の特徴についてより深く理解できるところも、これらの指標の有意義な点だ。
言うまでもなく、野球はどれだけ走者を効率よく溜められるかが重要となるスポーツだ。すなわち、四球を多く選んでくれる選手は、それだけチームに対する貢献度も高いということ。今回取り上げた、選球眼に優れた選手たちの打席内容に注目し、彼らが多くの四球を選んでいる理由の一端に迫ってみてはいかがだろうか。
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