埼玉西武ライオンズは、2016年シーズンに西武プリンスドーム・西武第二球場で行われるイースタン・リーグ主催全試合をインターネット配信することになった。
映像を作ることを想像していなかったグラウンドの作りであったという西武第二球場に足を運んだが、ファーム主催試合を配信するに至るまで、多くの苦労があったことが想像できた。カメラスペースもなく、インフラ整備が整っていなかった中、今までの球団映像のノウハウを使って、やっと実現するまでに至った。決して一筋縄ではなかった球界初の試みに、なぜ埼玉西武が着手したのか、営業部マネージャー・メディア担当の増岡勝氏に話を伺った。
3月13日の日曜日、西武プリンスドームには岸孝之投手が読売ジャイアンツを相手に投げる一戦を見ようと、多くの人がドームへ訪れていた。シーズン開幕を12日後に控えた一戦で、多くのファンが一軍選手の仕上がりに注目していただろう。それでもファンの中には、同時刻に隣の西武第二球場で行われる高橋光成投手と北海道日本ハムファイターズ・斎藤佑樹投手の投げ合いが気になっていた者も少なくなかっただろう。こういったニーズにも応えられるために、埼玉西武はファーム主催全試合を配信することを決めた。
埼玉西武ライオンズがなぜファーム主催全試合を配信することになったのか。それは2007年に球団の基本姿勢を記し、制定した「西武ライオンズ憲章」でも記載されているように、まず初めにファンと共にという理念を掲げているからだろう。
ソーシャルメディアの普及により、以前からファンのニーズはオンライン上でも見られていた。それでもなかなか着手できなかったのは、簡単な取り組みではなかったからだ。
それでも21回のリーグ優勝、日本シリーズ優勝13回の歴史を誇る埼玉西武は、そのルーツとなっている、育成の場である西武第二球場で開催される試合を、記録として残していく必要性を感じていた。
球界内でもマルチメディア化が進み、ビジネスモデルとして配信できるプラットフォームができてきたことで、埼玉西武もファンと共に若い選手の様子を伝えていく場をやっと形にすることができた。今後はファームでプレーする若手選手のホームランやファインプレーがハイライト映像としてクリッピングされ、「MLBアドバンスト・メディア」が運営するMilb.tv(マイナーリーグTV)が映像を扱うように、各ソーシャルメディアで拡散されていく機会も増えてくるかもしれない。
そうなれば、ファンにとっても将来一軍に上がって来る若手選手を知る機会となり、プレーする選手たちにとっても自らのプレーが多くのファンの目に届く可能性があることでモチベーションアップに繋がるはずだ。
さらに埼玉西武は国内ファンだけでなく、海外のファンに対しても映像を届けていくことも狙いの一つだ。郭俊麟投手、呉念庭選手、さらにはMLBでも登板経験のあるC.C.リー投手の3人の台湾国籍の選手が、埼玉西武には所属している。もちろんファンも球団も彼らの1軍定着を期待しているが、調整登板などの機会でファームに登板する可能性もある。
ファーム主催動画配信が始まった3月12日の埼玉西武のファームの試合では、郭俊麟投手が2番手で登板した。さらには1軍の試合ではC.C.リー投手が3番手として登板し、その映像が台湾ファンにも届き、すぐさまソーシャルメディアでもその様子が拡散された。
パ・リーグ全体で台湾というマーケットの開拓にすでに着手しており、パ・リーグTVの台湾向けFacebookページでのフォロワー数は8万人以上。今後、新たなファン開拓のために埼玉西武が取り組む映像のコンテンツは、さらなる可能性を広げていくことになりそうだ。
これまでは公式サイトで試合結果を出すにとどまっていたファームの情報が、よりファンの下へ映像という形で届けられることになる。昨年は西口文也投手の西武第二球場の最終登板で2千人が来場するということがあったが、今後はそういった試合の模様もこの配信によって視聴が可能となる。
埼玉西武はその他の取り組みとして、「Lions Wi-Fi」を数年前から始めている。ドームに来場したファンが無線LANでインターネットに無料アクセスすることができる。それにより1球ごとのデータを楽しみ、パ・リーグTVも試合中に無料で見ることができる。飲食の購入のために席を立ち、貴重な場面を見逃してしまっても、すぐに映像で振り返ることができる。
近年、球界全体として自らのコンテンツを配信していく動きになってきている。埼玉西武もNPB球団としての使命を果たすべく、さまざまな動画コンテンツでファンを第一に考えた新たなプラットフォームを今後も作っていくことだろう。
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