どよめきが瞬く間に歓声に。球場内に「指名打者・大谷が、ピッチャー」とコールされた。
DHを解除しての守護神登板。そして、165キロ。今季ここまで、数々の常識を破ってきた大谷選手が、またひとつドラマを作り上げた。北海道日本ハムが16日、福岡ソフトバンクとの「2016 日本通運 クライマックスシリーズ パ」のファイナルステージ第5戦に勝利し、4年ぶりの日本シリーズ進出を決めた。
9回1死、松田選手を空振り三振に打ち取った後、吉村選手への初球だった。スコアボードに「165」キロの数字が灯った。札幌ドームのボルテージは最高潮へ。自身の最速164キロを更新する剛速球だった。吉村選手も三振で退けると、最後は本多選手を遊ゴロに仕留めた。本多選手にも2球、165キロを記録するなど、球場はお祭り騒ぎだ。
だが、日本シリーズ進出に導いたものの、はしゃぐことはない。ゆっくりとガッツポーズを作り、静かに喜びをかみしめる右腕がいた。プロ初セーブも記録したが、それも霞んでしまうくらい、二刀流・大谷翔平のすごさが凝縮された1日だった。
ファイナルステージ初戦は「8番・投手」で先発し、7回無失点で勝利投手となった。翌日からは打者に専念。この日も「3番・DH」でスタメンに名を連ねたが「DH解除」という衝撃が最後に待っていた。8回にブルペンで投球練習。先発投手として数日前から調整、といった万全の準備ではないはずだ。それでもケロッとした顔で登場し、記録と結果を出して試合を決める。相手が福岡ソフトバンクの強力打線であっても、だ。トランプのジョーカーのような無敵の存在と言ったところか。CSのMVPに輝いた中田選手のコメントが全てを物語っていた。
「すごいね。165キロ。あそこまで打って投げて、とされたらこっちが練習しているのがばかばかしくなってくるというか」。球場はたちまち大爆笑の渦だ。そしてしみじみと言った。「本当にすごく、かっこよかったですね」。
初回に4点を先制されたが、主砲・中田選手の一発などで2回以降、小刻みに加点。バース投手が2番手として登板し、4回無失点に抑えたのも大きかった。だが、マーティン投手が不在で抑えは誰がやるのか、そんなファンの悩みは、衝撃へと変わった。
5日間の調整期間を挟み、22日からマツダスタジアムでセ・リーグ王者の広島と激突。ファイナルステージ初戦の先発だったことを考えれば、当然エースとして大谷選手の先発の可能性はある。だが、前回登板から休養もなくフル回転で試合に出場し、この日も二刀流出場。そこから中5日という疲労度は計り知れないだろう。いや、もはや先発の日程ばかりを気にする必要はないのかもしれない。大谷選手がいつ、どこで出てきて、何をするのか。全試合、大谷翔平から目が離せない2016年の日本シリーズとなりそうだ。
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