元楽天オーナー兼球団社長・島田亨さん 個数限定・特典付きグッズの製作、年俸カットを選手・選手会と話し合ってもいい
新型コロナウイルスの猛威を受け、プロ野球は東日本大震災に見舞われた2011年以来の開幕延期に追い込まれている。実際の開幕時期は、メドも立たないのが現状だ。今後、NPB(日本野球機構)と各球団はどんな課題に直面することになるのか。11年当時、被災地を本拠地とする東北楽天ゴールデンイーグルスでオーナー兼球団社長の重責を担っていた島田亨さん(現USEN-NEXT HOLDINGS取締役副社長COO)は、「経営者は“ワースト・シナリオ”(最悪のケース)を想定しておかなければならない」と強調する。
現状で、プロ野球界にとって“ワースト・シナリオ”といえば、1試合も行えないまま今シーズンを終えることだろう。「それでも球団は生き延びなくてはならない。親会社がキャッシュをいっぱい持っている所は1年くらい持つかもしれないが、そうでないところもあるかもしれない。その時、経営者とファンの力がすごく重要になります」と言い、こう提言した。
「試合を一切行えないとなれば、球団が収入源を断たれることは選手も理解してくれるはずです。“平時”ではなく、いわば“戦時下”ですから、選手を使ったイベントをやって収益をあげるとか、個数限定や特典付きのグッズを作って売るとか……普段はそういう場合、売り上げの何%かが選手に分配されますが、一時的に全額球団の収入にさせてもらえるように、話し合ってもいいと思います」
さらに、島田さんの口からは、次々とアイデアが飛び出す。「マーチャンダイジング(商品化計画)を徹底的にやるとか。たとえば楽天であれば、こんな時だからこそオフィシャルトップスポンサーの1つであるセブン-イレブン・ジャパンさんとのコラボレーション商品を、地元地域でどんどん出して、収入を球団に還元していただくとか……」。まだある。「既にヤンキースをはじめ多くの米大リーグ球団がやっていることですが、球団が自前のインターネット放送局を持ち、アーカイブを放送するとか、選手を取り上げる番組を制作するとか、選手同士にゲームのようなもので競ってもらって番組化するとか、それらをペイ・パー・ビューにするとか。試合をやれない場合にどうやってキャッシュを生み出すか、選手、ファンと会話をしながら考えていくべきだと思います」と熱弁した。
“ワースト・シナリオ”においては、選手側も痛みを共有せざるをえない。島田さんは「あくまで“平時”になったら戻すことを前提に、年俸を少しカットさせてもらうという話を、率直に選手および選手会とするべきでしょう。一方で球団側も、選手のコンディショニング維持のために何が必要か、最大限議論していかなければなりません」と指摘する。
各球団の支配下選手は最大70人と決まっており、毎年新人が入ってくるかわりに、戦力外通告されクビになる選手も必ずいる。試合が行われなければ、その選別は難しくなる。「そこは、どうなんだろう……評価のしようがないので、いったん(クビにするべき人数を余計に)抱えることになるかもしれない。ひょっとすると、解雇すべき人数は解雇して、残った選手の年俸のカット率を軽減した方がいいと考える選手もいるかもしれませんが……みんなで負担を分かち合う方向に行ってほしいと思いますね」と祈るような表情で言った。
経営側、選手側の他に、ファンもいなければ、プロ野球は成り立たない。「ファンにもいろいろ温度差があって当然だと思うんですけれど、最悪のシナリオとなった時にも、NPB(日本野球機構)、各球団、各球場の判断に対して、寛容な心を持ってサポートしていただきたいですね」と島田さんは訴えた。
次回は、2011年の楽天に起こったことを紹介する。
島田亨(しまだ・とおる) 1965年3月3日、東京都生まれ。2004年12月に東北楽天ゴールデンイーグルスの代表取締役社長に就任。08年1月からオーナーを兼務。12年7月、海外赴任に伴い退任。14年に楽天株式会社代表取締役副社長に就任。16年3月に同社を退社。17年3月、U-NEXT(現USEN-NEXT HOLDINGS)取締役副社長COO就任。トランスコスモス社外取締役ほか、長年エンジェル投資家としても活動、複数企業の経営をサポートしている。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
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