「新ビジョン」とともに。平沢大河が「プロ」として新たな一歩を踏み出す

パ・リーグ インサイト マリーンズ球団広報 梶原紀章

2016.3.3(木) 00:01

ZOZOマリンスタジアム ※球団提供
ZOZOマリンスタジアム ※球団提供

 誰もいないはずのスタンドが、どよめいたような気がした。3月1日に行われた千葉ロッテマリーンズの本拠地・QVCマリンフィールドの新ビジョンのマスコミ向け完成お披露目会。中堅のメーンスクリーンは、去年までの約3倍の面積で、野外球場では最大となる縦10.08メートル×横28.8メートルに広がり、右翼と左翼にもサブスクリーンを新設。今年の目玉となる新ビジョンのお披露目に備えて製作されたスタメン映像で、最初に紹介されたのはドラフト1位ルーキーの平沢大河内野手だった。「1番 平沢大河、背番号13」。マリン名物のウグイス嬢のコールに、場内にいた30人の報道陣から自然と拍手が沸き起こった。

「周囲からはいろいろと期待をしていただいて、それは嬉しいことですし、ありがたいことです。でも自分は一歩一歩だと思っています。まずは開幕一軍を目指して、そこから、次の目標を目指していけたらと思う」

 高卒内野手で開幕スタメンとなると、88年の立浪和義氏(中日)以来、実に28年ぶりの快挙となる。マスコミはおのずと平沢の開幕スタメンに期待をし、そのプレーに注目をしている。ただ本人は至って冷静。18歳の若者とは思えないほど、クールな回答に徹している。浮かれた様子はまったくなく、地に足がしっかりと着いた日々を送っている。

 平沢大河を語る上で、欠かせないのは高校3年間を過ごした仙台育英高校野球部だろう。「ウチは自主性に任せています」と佐々木順一朗監督は話すが、生徒たちが人間力育成に関して、しっかりと教育されてきたことが随所からよく分かる。2月28日に行われた仙台育英高校の卒業式。卒業証書を受け取り、教室から出てきた平沢は待ち構えていた大勢の報道陣に囲まれた。

「高校でやり残したことはありません。やり切りました。高校では人としてどうあるべきか、社会に出てのあり方を教えてもらったと思っています」

はっきりとした口調でそう回答した。それは母校、そして恩師への感謝の想いに溢れた言葉だった。「感情が溢れることはなかったです」と卒業式について語った平沢だが、高校時代の想い出を振り返ると、少しだけ天井を見上げて、言葉に詰まった。

 高校で常日頃から口酸っぱく言われてきたことの一つが「謙虚」でいることだった。それは野球に限ったことではなく、人生を通して大切だと教え込まれた。だからこそ、プロ入り後のキャンプから大勢の報道陣に囲まれ、どんなに称賛を受けても、いつも冷静に立ち振舞うことが出来ている。そして自分を見失わずに練習に没頭をしている。

 卒業式終了後、平沢は迷うことなく、ある場所に向った。それは3年間、バットを振り続けた室内練習場。壁いっぱいに、いろいろな言葉が書かれて貼られている。熱い言葉、人生訓。監督が生徒たちに、野球だけではなく、人間としてしっかりと育ってほしいという思いから一つ、また一つと貼り続けた言葉の数々。それらをじっと見渡しながら、高校時代に教えてもらった監督のメッセージを反すうしているように見えた。そして、最後に言われた言葉を思い返した。

「これから先の世界、自分の思うようにいかないようなこと、思ってもいないようなことがいろいろあると思う。いや、ある。それをちゃんと受け入れられる人になりなさい。世の中、そんなに甘くはないからね」

 オープン戦はしばし続く。その中で、今後も注目を一身に浴びることになる。ファンの期待も高まる一方だ。その中で平沢はただバットを振り続け、白球を追う日々を送っている。その先に待っている結果を想像してみようとはしない。絶対に立ち止まらない。今を生きる。若者は今の自分と向き合い、必死の日々を送っている。3月25日、パシフィック・リーグ開幕戦。千葉ロッテマリーンズは、新しくなったビジョンが備え付けられた本拠地・QVCマリンフィールドからスタートをする。

マリーンズ球団広報 梶原紀章

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